作家・池井戸潤インタビュー [前編]「銀行ものはこれが最後……の、つもりでした」

—『アキラとあきら』は倒産した町工場の息子・山崎瑛と名門企業のオーナー一族に生まれた御曹司・階堂彬という対照的な生い立ちのふたりが成長し、同志として難題に立ち向かう物語です。ふたりの選ぶ職業が、池井戸作品といえばコレ! ともいえる銀行員。

池井戸 デビュー作が銀行もので、それから何作も銀行が舞台の小説を書いてきたので、実はこれで終わりにしようと思っていたんですよね。自分としては、集大成のつもりで。でも、2009年に書き終わった時点では出来が気に食わなくて、しばらく寝かせていた。その後、「半沢直樹」シリーズと『花咲舞が黙ってない』(原作は『不祥事』など)がドラマ化され、最後というわけにはいかなくなってしまいました。今回もドラマ化のオファーがあり、小説を同時進行で大幅に書き直したんです。

—都市銀行勤務のご経験があるだけに、銀行員像も仕事の描写もリアルです。銀行員を目指すのって、こういう少年たちなんですね。

池井戸 どうなんでしょうね。最初から銀行員になりたいっていう子どもはあんまりいないと思いますが(笑)。でも、その人の職業観ができていく過程を書くというのは、僕の小説らしいところだと思います。銀行員も普通のサラリーマンですから、いろんな人がいます。階堂彬のようなお坊ちゃんも、いるんじゃないのかな。僕のかつての同僚にも大きな会社の社長の息子がいて、寮生活をしていましたが、週に一度お手伝いさんが掃除に来ていました。本当は規則違反なんですけどね(笑)。

—ふたりが研修のディベートで戦う場面で、銀行員の部長が言う〈バンカーの貸す金は輝いていなくてはならない〉というセリフには、グッときました。

「連続ドラマW アキラとあきら」
WOWOWプライムにて7月9日(日)放送 毎週よる10時~(全9話) 第1話無料
出演:向井 理 斎藤 工
小泉孝太郎 田中麗奈 賀来賢人 木下ほうか 瀧本美織
永島敏行 堀部圭亮 / 松重 豊 / 尾美としのり 石丸幹二 ほか
脚本:前川洋一 監督:水谷俊之 鈴木浩介 音楽:羽岡佳

 

池井戸 あの場面は完全なフィクションですが、僕も気に入っています。〈輝いていなくては〉というのも、本物の銀行員なら……言わないだろうなぁ(笑)。まあ、理想はそうであってほしいという、願望を込めた部分ですね。

—瑛と彬は、ふたりとも1963年生まれ。バブル期に20代を過ごした世代ですが、池井戸さんご自身も、同じ63年生まれですね。

池井戸 子ども時代から書いていくとなると、どうしても別の年代は書きづらい。間違いなく書けるのは、やはり同時代だろうと思いました。あとは、バブル時代の社会の熱というか、一種浮かれたような空気も……。

—あの頃はいい時代だった、と思いますか?

池井戸 続けばよかったんでしょうけどね。今は世の中が地味で、縮小していますから。

>> 後編はこちら

 

『アキラとあきら』池井戸潤 徳間文庫 1000円(税別)
異なる宿命を背負い、苦闘しながらも、意志と才覚で道を切り開く青年たちの姿を描いた清々しい成長物語。7月9日(日)からWOWOW連続ドラマWでドラマ化。階堂彬に向井理、山崎瑛に斎藤工が扮する。小泉孝太郎、田中麗奈、瀧本美織、松重豊、石丸幹二ほかが共演。

 

いけいど じゅん/作家

池井戸潤
1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2011年、『下町ロケット』で直木賞を受賞。代表作に「半沢直樹」シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』)、「花咲舞」シリーズ『不祥事』、『空飛ぶタイヤ』『鉄の骨』『民王』『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『下町ロケット2 ガウディ計画』『陸王』がある。『陸王』は10月からTBS系で連続ドラマ化、映画『空飛ぶタイヤ』が来年公開。

 

(取材・文/大谷道子 写真/佐々木 和隆)

 

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