【ヒットの予感】バルミューダ 寺尾 玄(2)「“必要なモノ”が売れるんだ」


“褒められたい”から、モノをつくっている

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ーーバンド活動をやめるきっかけはあったのでしょうか。

寺尾:最後に組んだバンドのメンバーがすごく自分にピッタリだったんです。未だにそのバンドは好きですし。

ーーそれなのにどうして辞めてしまったんですか? 音楽性の違いですか?

寺尾:かなりイケてると思っていたんですが、ある時、バンドのキーパーソンだったメンバーが辞めちゃって。で、バンドを解散するって、決めたんです。その時も答えはシンプルで、音楽のフィールドで出来ることはもう残っていないと直感的に思ったんですよね。

ーーメンバーが抜けてしまうと、最高のメンバーではなくなるし、それ以上の音楽をクリエイトすることができないと?

寺尾:そうです。“終わったな”とはっきり分かったんですよね。それで、次になにをしようかなって話になるわけですよ。「つくること」をやめる選択肢なかったので、自然と、次に何をつくろうかなって。ほら、レオナルド・ダ・ヴィンチだって、いろいろなモノをつくっていたじゃないですか? だから自分もクリエイティビティをいろんなところに振り向けてもいいのかなって。

ーー学校を辞めた時も、スペインから帰国した時も同じ状況ですよね。ゼロスタートというか。

寺尾:それで当時、たまたま使っていたアーロンチェアとMacにすごく感動していたんですよ。だから、自分もそのハードウエアのブランドをつくって、自分のクリエイティブを世の中で表現してみたいと思ったんです。それで、みんなに褒められたいって思ったの。

ーー「褒められたい」って、大事なんですか? クリエイティブの原動力?

寺尾:真の原動力ですね、自分にとっての。もちろんお金も大事だけど、もっとも根底にあるクリエイトする目的は褒められたい願望。褒められないなら、やらないですもん。こんな面倒くさい仕事(笑)。


バルミューダは今でこそ「グリーンファン ジャパン」「エア エンジン」などの空調家電や、「バルミューダ ザ・トースター」で調理家電に踏み出したことで知られるが、実は2003年の創業当初はMac周辺やデスク周りのアイテムを作っていた。もちろん、現在でも購入できるものもある。


 

ーーそれまでノートPCの冷却台や照明といったデスク周りのアイテムをつくっていたのに、なぜ2009年に急に扇風機をつくり出したんですか? なにかきっかけがあったのですか?

寺尾:きっかけは簡単ですよ。全然売れなかったから。当時つくっていたものが、リーマンショックがきっかけで、死ぬほど売れなくなったんです。売れなければ誰も褒めてくれないし、しょうがないなって思って。それで考えたんですよ、なんで売れないのかなって。

ーー理由は何ですか?

寺尾:必要とされないからです。今は分かりますが、必要なものは買うんですよ。(寺尾氏の机に置いてあるデスクトップのライトを指挿して)このデスクライト、見た目は本当にカッコいいじゃないですか? 今でも、ものすごく良いと思うんです。

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寺尾氏がオフィスで愛用する照明は自社製品の「Airline」

 

でも、思ったほどは売れない。だから、いいモノなら売れるというのは、本当に幻想だって分かったんです。よく日本のモノづくりを語る時に、今でもそういう話をする経営者がいますが、自分にとって、それは全然正しくなかった。だからといって単純に“売れるモノがいいモノ”でもない。“必要なモノが売れる”んですよ。

ーー周りを見れば、製品はとてもいいのに、売れ行きが芳しくないものってたくさんありますね。

寺尾:だから、自分たちのつくるものって、必要とされていないんだなと気が付いて。そりゃ、そうですよ。褒められないだけじゃなく、会社自体が潰れそうでしたから、冗談抜きで。でも、そういう崖っぷちだから、なんとかしなきゃって必死に考えますよね。褒められたくて人の役に立ちたいなら、必要なものを作ればいいんだって答えに辿り着いたんです。

ーーものすごくシンプルな答えを得た感じです。必要なものをつくれば売れるということは、人が何を必要としているのか、他人にいろいろ意見を求めようとしますよね? でも、バルミューダって、ほとんどマーケティングを行わないし、寺尾さん自身も人の意見はあまり聞かないですよね?

寺尾:はい。そうなんですよ、でも考えはするんですよ。

ーー2009年の「グリーンファン」以降のバルミューダを見ていて不思議なのが、明らかに人の意見を聞いた跡がなく、自分たちが生み出したいっていう想いの強いものばかりを発売して、それが世の中に対しての提案となり、受け入れられているように思えます。どういうモノづくりの手法なのでしょうか?

寺尾:必要なものをやっぱり自分たちでつくるべきなんですね。これはもう動きようがない事実。ここでの論点は、必要なものの見つけ方の話だと思うんですよ。商品が売れないとしたら、それが必要とされていないから。なぜ売れるのか。それが必要とされているからですよね。

 

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GreenFan Japan ホワイト×ブラック

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GreenFan Japan ホワイト×グレー

 

自分は逆に聞きたいんです。必要としているもの、つまり、みんなが欲しがるものって、人に聞いたら分かりますか? みんなが欲しがるものをつくるって、電子レンジでチンするわけじゃないですから、今すぐ出せるわけじゃない。どんなに短くても開発に1年はかかるわけだし。

1年後も今と変わらずに、みんなに必要とされるもの、何ですか? って聞いて答え見つかります? それを分かる人がいたら、とっくにヒット商品をつくっていますよね。でも、そんな人はほとんどいません。だから、それを考えることが我々の仕事なんですよ。

ーー仕事であり、それがクリエイティブ。

寺尾:だと思います。“アイデア”こそがクリエイティブの一番大切な段階です。この段階で当ててしまえば、そこから何をやったとしても、だいたい当たりますから。逆に、アイデアのクリエイティブ段階で間違ってしまうと、その後どんなにリカバリーしようと頑張っても、だいたいうまくいかない。

ーーアイデアこそが全ての源?

寺尾:まあ、全てとは言いません。ただ、ビジネス上の失敗、成功の八割方は握っているんじゃないかな。アイデアで転んでしまったら、絶対にコケますよ。

ーー「グリーンファン」はどんなアイデアから生み出されたものですか?

寺尾:グリーンファンの場合、アイデアにあたる部分は、実は羽根の形状ではないんですよ。もっと根幹の部分。つまり、次の時代に必要とされる良い扇風機ってなんだろう? これがあったら絶対必要とされるだろうというコンセプトが、アイデアに当たる部分です。じゃあ、次の時代のいい扇風機って何かな? って考えた時に、実は発生する風や音の静かさでもない。ここまで来ると、もう技術的な段階の話なんですよね、アイデアじゃなくて。

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外側は速い風、内側は遅い風を生み出す二重構造のファン

 

ーーグリーンファンを実際に売り出したのは2010年?

寺尾:そうです。今もそうですけど、当時から地球温暖化は進んでいて、化石燃料がなくなるのは分かりきっていますよね。だから、エネルギー問題で相当困るのではないかと。そこが始まりです。だから、これまで以上に省エネで、なおかつ、まるで自然に吹くような風が生み出せる、気持ちのいい扇風機ならば必要とされるし、必ず売れるって確信したんです。二重の羽根はその後の過程でできた技術的な産物であり、そこはアイデアではありません。

ーーグリーンファン以降、モノづくりに対するバルミューダのスピード感が飛
躍的にアップしたように見えます。

寺尾:やっぱりグリーンファンは大きなターニングポイント。「つくりたいものをつくる」ということは今も貫いていますが、それが一番プライオリティが高い価値観ではなくなりました。今は、人に必要とされるものをつくることが最優先。この大きな違いが表現されたのが、グリーンファンですよね。そこからはあまり考え方は変わってないですよ。ただ、どういうものが必要とされるのかという、その接近の仕方、つまり見つけ方は以前より洗練されてきたと思います。

(取材・文/滝田勝紀)


【第3部:価値ある“感動”の体験を】に続く

【第1部:寺尾 玄インタビューTOPページ】

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