“初めて見た時”から引力あるものが、うまく行く
寺尾:社内で一番評価されるのはクリエイティブだと言い始めると、だんだん全員がクリエイティブになっていくんです。商品企画を技術陣全員に出させましたけど、結構面白いのがあるなって。自分しかやっていなかったところが、今はデザインチームがその機能を半ば受け持つようになっています。種から苗にする、芽を出させて苗までもっていくことを、みんなができるようになってきたという印象があります。
ーー寺尾さんが指示するのではなく、自らできるチームづくりをすでに始めていると?
寺尾:そういうことです。まさに、その役割をするのが組織ですよね。組織ってやっぱり設計だから、これ自体も開発であり、クリエイティブなんですよね。
ーーご自身は、かつてのエンジニアだった自分と、今の経営者としての自分、どちらが楽しいですか?
寺尾:今が圧倒的に楽しいです。だって、そもそも自分の原動力が「褒められたい」だから。どっちの方が褒められますかっていう話です(笑)。
ーープレッシャーが大きくなっても、その方が楽しいんですか?
寺尾:それはそうですよ。だって、ヒットを生むことって、本当に気持ち良いですよ。これはたまらない感覚です。特に「無理でしょうそれ」と言われるような状況からヒットが生まれると超気持ちいい。グリーンファンがまさにそうでしたし、今回のトースターだって、実際はどうなるか蓋を開けるまで分かりませんでしたから、本当に快感ですよ。
ーー物事を最終判断する立場になり、正しいのか間違っているのか、その判断
基準は何でしょう?
寺尾:自分が「欲しいかどうか」が一番重要です。とはいえ本当に自分が買うかではなくて、パッとそれを見せられたり、聞かされたりした時に、「ん?」と引き寄せられるかどうか、引力を感じるかどうか。これも勘です。当然ながら分からないから悩みまくるんですけど。やっぱりあっちの方が良かったかな? 間違ったかな? と。もう年中ですよ。
ーー経営者の方に話を伺う時、「決断は常に51対49のような局面ばかりだ」と耳にします。別にどちらを決断しても良い立場ですけど、その中で、こっちだ!と言える根拠ってどう引き出します?
寺尾:だいたいのことは理詰めで考えるようにしています。数字で判断できるものは、とにかくデータを出してもらえば良いんですよ。
ーーデータが基準になる?
寺尾:決めるべきなのに、もし決められないのなら、まだ情報が足りないんですよ。だから情報をかき集めて、判断できる基準や材料をちゃんとそろえます。そうすると、最終的には数字で簡単に決めることができるんです。でも、最後に積み上げるべきものは、文化的な価値。これだけは数字では表わせないですよね。でも、結局利益を生み出すのって、数字にできない部分。
気持ちよさ、触角、味覚、嗅覚、視覚……。この感覚は数字じゃ表わせない。でも、みんな、お金を出すのはこの部分なわけで。お金を出したくなるいい体験って、五感を通じて感じるものだらけなんですよ。数字で測れないものに、人はお金を出している。
これがどんなビジネスでも共通であり、だからこそ、ビジネスは難しいと言われるのだと思います。繋ぎようのないものを繋げるのが、ビジネスじゃないでしょうか。やっぱり難しいなって思いますね。
ーーそれにどう対応しているのですか?
寺尾:バルミューダは文化色の強い会社だから、“最後の詰め”を決めるのが毎回すごく困ります。数値で測れないから、最後は勘で決断するしかないんですよ。勘はセンスでいくらでも精度が高まるもの。だからそれを決める人は、センスを磨きこんでいる必要があるなって思うんですね。
ーー今後の動きとして、来年には3製品、再来年は5製品の発表を目指すと聞きました。今のペースよりもさらに加速度的に動かさないといけませんし、人も増やさないといけない。もちろんアイデアも多くないといけないわけで、せっかくトースターがいいスタートダッシュを切っても、まったく油断ができない。
寺尾:全然休めませんね。会社は50人規模ですけど、これでは人も時間もまったく足りません。でも、そうやって突っ走っていることがバルミューダらしさかもしれません。自分は想像できる一番明るいものを常に想像することにしているんですよ。これ以上、上のプランが存在しないっていうくらいのプランを想像します。それを実現するためにはどうすればいいか考える。それに対して準備して実行するんです。
ーー「一番明るいもの」ですか。
寺尾:うん、最良の結果。最良の姿。
ーー究極のポジティブシンキングですね。
寺尾:「今、自分たちはこういう状況だから、次にこれができる」と考えないようにしています。全部自由に考えてみて、自分自身がどうなりたいか、バルミューダ自体がどうなりたいか、どうなっていたら一番カッコいいか、人に褒められるか、と常に想像して、それに対してアプローチしていくことがバルミューダなのかな。
ーー「褒められたい」ことが本当に変わらない考え方なんですね。
寺尾:褒められたいですから。カッコ悪いと褒めてくれないですからね。人は。自分をカッコよく表現したい。横っ跳びもうまくなってきましたしね(笑)。褒められるため、カッコよく生きるための手段として、バルミューダがあるのかもしれません。
【END】
(取材・文/滝田勝紀)
【第1部:寺尾 玄 インタビューTOPページ】
【第2部:“必要なモノ”が売れるんだ】
【第3部:価値ある“感動”の体験を】
【第4部:“自由な発想”を忘れない】
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