歴史を尊ぶ時計業界では、ともするとその歴史によって自縄自縛に陥ってしまうことがある。しかしフレデリック・コンスタントは、そういったしがらみからも、自由でいられる。
【プロフィール】
Pim Koeslag(ピム・コースラグ)
1981年オランダ出身。地元のアートスクールを経て、18歳でアムステルダムの時計エンジニア学校に入学。優秀な成績を収めて注目を集める。2003年にフレデリック・コンスタントに入社し、自社ムーブメントの開発に携わる。複雑機構の研究にも力を入れる若き天才。
■“イノベーションの冒険”にこそ、持ち味がある
「今でこそ、シリシウムを時計パーツに採用するブランドは増えましたが、そのきっかけとなったのはフレデリック・コンスタントです。2008年に発表したトゥールビヨンにて初めて採用したのですが、これは時計業界でもかなり画期的なことでした。シリシウム製のパーツは、とても軽くて平滑度が高いので、摩擦が少なく時計を効率的に動かすことができます。
しかも調整しなくてよいので、ベテランの勘に頼らずに品質を上げることができるのです。ただし時計業界では未知の素材でしたから、加工や組み立ての方法も含めて、ノウハウを積み上げていくことには苦労しましたね」
フレデリック・コンスタントはコスト意識が高い。だからこそ新しい技術であっても、メリットがあれば積極的に取り入れるのだ。
「トラディショナルな時計技術にテクノロジーを加える。いうなれば “イノベーションの冒険” こそが、フレデリック・コンスタントの持ち味です。
そもそもダイヤルに小窓を作ってムーブメントの鼓動を見せる“ハートビート”は我が社が考案したものですし、シリシウム製のパーツや手の届きやすい価格帯のトゥールビヨンなども、今や多くのブランドが採用するようになりました。
フォロアーが生まれるということは、それが良いアイデアだったという証明ですから、むしろ誇りに思っていますよ」
■クレイジーなアイデアから生まれたスイス初の「スマートウォッチ」
ここ数年で大きなライバルへと成長してきたスマートウォッチ(コネクテッドウォッチ)に対しても、フレデリック・コンスタントは独自の対抗策を練ってきた。まずは時計であることを確立し、ムーブメントの一部にセンサーを加えることで様々な情報を取得し、スマートフォンと連動させて利便性を高めるのだ。
「2015年に発表した『オロロジカル スマートウォッチ』は、スイス初のスマートウォッチです。この時計もいつものように、ピーターの “クレイジーなアイデア” から始まりましたが。
私は伝統的な時計作りを学んできたので、とても大きな挑戦でしたね。電子デバイスやアプリはシリコンバレーの企業との合弁会社MMTが担当しましたが、時計部分と電子部分をいかに上手に融合させるかに頭を悩ませました。
難しい仕事ではありましたが、むしろすごく興味深かった。私自身は、いつでも“美しいスイス時計”を作りたいという意識を持っているのですが、新しい技術を取り入れて美しい時計を作るというのも、新しいチャレンジですから」
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「オロロジカル スマートウォッチ ジェンツ クラシック」
価格:15万8000円(税別)
そういって胸を張るピム・コースラグの最新の自信作は、自社製の機械式ムーブメントにセンサーを加えた「クラシック ハイブリッド マニュファクチュール」。伝統的なスイス時計の文化に、最新のテクノロジーを融合させており、新しい時計の姿を感じさせる。
「フレデリック・コンスタントは、かなり革新的な会社だと思います。ピーターのようなクリエイティブな人の下で仕事をするのは、とても大きな経験になりますね。常にオープンマインドですし、チャレンジを忘れない。自由がない所では、こういった仕事も経験もできないでしょうから」
フレデリック・コンスタント躍進の理由は、ここにあるのだ。
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「クラシック ハイブリッド マニュファクチュール」
価格:45万円(税別)
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まるでライダーベルトのような腕時計「ZINVO」が個性的!
(取材・文/篠田哲生 写真/&GP編集部、フレデリック・コンスタント)
時計ジャーナリスト・篠田哲生(しのだ てつお)
男性誌の編集者を経て独立。コンプリケーションウォッチからカジュアルモデルまで、多彩なジャンルに造詣が深く、専門誌からファッション誌まで幅広い媒体で執筆。時計学校を修了した実践派でもあり、時計関連の講演も行う。
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