■ヒントは30年前のコンセプトカーにあった
2015年にフルモデルチェンジし、ND型と呼ばれる現行の4代目へと進化を遂げたロードスター。これまでND型にも、いくつかの(期間)限定車が設定されてきましたが、今回のアニバーサリーモデルは、“レーシングオレンジ”と名づけられた鮮やかなオレンジのボディカラーはもちろん、装備もかなり特別な仕立てとなっています。
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ーー今回の30周年記念車は、どのような経緯により開発されたのでしょうか?
中山さん:歴史を振り返ってみると、ロードスターにはこれまで、数々の限定車が存在してきました。中でも、2代目のNB型には10周年記念車が、3代目のNC型には20周年と25周年を記念した限定車が設定されています。そのため、誕生30周年という節目も、新たな限定車を登場させるひとつのきっかけにはなったのですが、実は25周年と30周年の間には、もうひとつ大きな出来事がありました。累計生産台数100万台の達成です。なので今回のモデルは、30周年と100万台達成の双方を記念した、特別なクルマといえます。
その開発に当たって、私たちはふたつのテーマを掲げました。ひとつは30年、100万台を支えていただいたことへの感謝。もうひとつは、ロードスターの今後や未来を感じさせるような気持ち、決意を込めたいと考えました。“感謝”と“決意”が今回のクルマの開発テーマです。
ーーそんな特別な意味が込められた30周年記念車の特徴は、なんといってもボディカラーだと思います。この色は、どのような理由から選ばれたのでしょうか?
中山さん:初代がデビューを飾った30年前のシカゴオートショーでは、メインステージにレッド、その下にブルーとホワイトのMX-5ミアータを配置していました。それは、アメリカ国旗に使われる3色です。
でも実は、会場にもう1台、MX-5をベースとするドレスアップカーを展示していたのです。それが、“クラブレーサー”と呼ばれるイエローのコンセプトカー。イマ風にいうと、“モノづくり”と“コトづくり”の展示、とでもいいましょうか。モノづくりとしてレッド、ブルー、ホワイトの市販車を、コトづくりの一環としてイエローのクラブレーサーを展示していたのです。
今回のシカゴオートショーでは、そんな30年前の様子をリスペクトし、それらの立ち位置をひっくり返した展示を行いました。つまり、30年前のクラブレーサーをそのまま量産化したのが今回の30周年記念車、という位置づけにし、メインステージに展示したのです。「当時は夢のコンセプトカーだったクルマが、ついに具現しましたよ」というストーリーですね。
そして、レッドの初代モデル、ブルーの10周年限定車、ホワイトの20周年限定車といった具合に、レッド、ブルー、ホワイトの歴代車をメインステージの下に並べ、30年前の様子を再現したのです。つまり今回は、モノづくりが30周年記念車、コトづくりが歴代車という位置づけですね。
今回のショーで30年前の情景を再現したのは、先ほどお話した“感謝”の意味を込めたかったから。そして、未来への“決意”を示すために、記念車のボディカラーには、夜明けや朝焼けを感じさせる鮮やかなオレンジを選択しました。
ーーオレンジは、これまでロードスターでの採用例はありませんし、なかなか衝撃的で鮮烈なイメージです。昔から温められていたアイデアだったのでしょうか?
中山さん:レッドやブルー、イエローはすぐ思いつく色なのですが、実はオレンジというのは、なかなか思いつかない色でした。実際、イエローやブルーはすぐ候補に挙がってきてきましたが、オレンジは3番目くらいの存在でしたね。
そんな中、オレンジを選んだ理由のひとつは、次の時代を感じさせるというコンセプトを体現できるから、です。例えば、なぜイエローなのか? なぜレッドなのか? なぜマツダはブルーが好きなのか? と問われても、それらをしっかりと語れるストーリーがないと、採用してはいけないと思うのです。また、イエローやブルーはいつでも出せる色なので、今回はあえて選びませんでした。
ーー装備面もかなりこだわった内容ですが、これは初代クラブレーサーの影響を受けての選択なのでしょうか?
中山さん:30年前のクラブレーサーは、ボディもホイールもイエローに塗装されていました。今回はフロントにブレンボ製、リアにニッシン製のブレーキキャリパーを採用していますが、これをボディと同じオレンジに塗装しています。
もちろんその他の部分にも、クラブレーサーらしく走りを意識したアイテムを満載しています。ショックアブソーバーはビルシュタイン製、シートはレカロ製、ホイールはロードスターのワンメイクレース“グローバルMX-5カップ”でお馴染みのレイズ製「ZE40」を選んでいます。レイズのホイールは、1991年にル・マン24時間耐久レースで優勝した「787B」にも採用していましたので、「マツダといえばコレだろう」ということでセレクトしています。
また、シートのステッチなど、インテリアのディテールもオレンジでコーディネートしています。そのほか、ホイールのセンターキャップをマツダのロゴ入りとするなど、細かい部分にもこだわっています。
ーーカラーコーディネートの楽しさもロードスターというクルマの魅力だと思うのですが、初代と現行モデルとの間で進化した部分、変化した部分はありますか?
中山さん:一部例外はありますが、初代は基本的に「外装が明るい色でも、内装は黒で統一」といった感じで、エクステリアとインテリアの考え方が、昔ながらのスポーツカーの伝統に基づいていました。
その点、現行のND型は、モダンな考えに変化しているのが最も大きな違いでしょうね。「昔のスポーツカーはこうだったから」という既成概念にとらわれることなく、自由に発想しています。
また初代には、タン色の内装がありましたが、上下で色を切り分けてツートーンカラーにしています。これは最初から想定していた組み合わせではありますが、あくまで内装だけのコントラストで完結しています。
一方、現行モデルは、ドアインナーの上部にまでボディカラーをあしらっていて、内装と外装のコントラストを強調しています。
ファッションに例えるなら、かつてはジャケットだけで色を考えていたのが、最近ではジャケット、パンツ、靴…といった具合に、コーディネートする範囲が広がった、ということです。クルマも内装、外装という狭い範囲の色だけでなく、広い範囲でコーディネートを考えるようになったというのが、時代の変化といえるでしょうね。
ーーロードスターはすごくパーソナルなクルマですが、やはりそうしたコーディネートは重要なんですね。
中山さん:ロードスターをお求めになる方は、ボディカラーで“自分の色”を表現したいという思いが、他のクルマに比べて大きいのだと思います。「おすすめは何色ですか?」と聞かれることもありますが、流行っている色だから、とか、市場で少ない色だから、といった理由で選ばれると後悔しますよ、とお答えしています。ロードスターはせっかくパーソナルなクルマなので、大いに自己主張して乗っていただきたいのです。また、ロードスターは長くお乗りいただけるクルマなので、カラーにもこだわっていただきたいですし、好きな色に乗っていただきたいと思っています。