【BONX機能説明】
・専用スマートフォンアプリとBluetoothデュアルモードで接続
・話しているときだけ通信する独自のグループ同時通話システム(10人同時通話可能)
・電波の弱い環境での切断や遅延を抑制
・あなたの声を検知して自動で通信する完全ハンズフリーモードを搭載
・携帯電波を使うため通信距離の制限は一切なし
・デュアルマイク搭載でマルチレイヤーでの騒音
・風切り音対策によるクリアな音声を実現
・水や衝撃に強く、快適な装着性で長く使える
・Push-To-Talkモードや会話中の音楽再生など、一人一人にあった楽しみ方を提供
■スノーボード好きの起業家が世界に打って出る!
チケイ株式会社のCEO・宮坂貴大さんは、大学に8年通っていたそうですが、そのうち4年間くらいはスノーボードに没頭していたというほど。所属していたNPOでキッズクラスに指導することもあったそうですが、はぐれたりプレイをダイレクトに共感できなかったりと、常にコミュニケーションに難を感じていたそうです。
そんな宮坂さんが前職であるボストン・コンサルティング・グループで働いていたとき、ウエアラブルカメラ「GoPro」の創業者、ニック・ウッドマンに自分を重ねていました。
起業意欲が強かった宮坂さんは、ウッドマンが自身の趣味であるサーフィンを基にした“自分のニーズ”からGoProを創りだしたことを思い、長野の白馬へ向かいます。すると、偶然そこでGoProの社員と出会い、ガジェットについていろいろと話をしたのだそうです。
そして白馬から戻ったあと、“自分のニーズ”について考えた宮坂さんは、スノーボードをしているときに、自身の経験からもっと優れたコミュニケーションツールがあればと思いました。そんな宮坂さんに「BONX」開発秘話を聞いてみました。
――5日で目標額を達成したのは、この手のガジェットでは最速ですけど、実感や手ごたえは?
宮坂:めちゃくちゃ嬉しかったです! 最初は内心ビビりまくっていて(笑)。見込みも周囲から、「1千万円くらいいくんじゃないですかね」とか言われていましたけど……。全然わからなかったです。100万円くらいはいくんだろうな~、みたいな。本当にそういう感じで。
クラウドファンディング初日なんて、始まる前から結構ウルウルしていました。ついに子どもが産まれるぐらいの感じになって感慨深かったです。10時に始まって少し支援がきだした後も、1日中ウルウルしていて。
アドバイザーをしてもらっていたプロスノーボーダーの人たちから「こういうの絶対あった方がいいよね」と言われて、すごく励みになりました。とはいえ、一般の人の前に出してみたときに、どうなんだろうと不安でした。
ニュージーランドに行ってムービーも撮りましたが、「どうやったらこれが伝わるんだろう」と編集で悩みました。“滑りながら話す”みたいな経験は今までないことだから、それをどうやって映像で伝えられるのか……。
「本当にこれで大丈夫なのかな」と思っていたところに、あれだけの支援が集まって。支援額だけでなく、メッセージが嬉しくて。「こういうのを待っていました」「すぐ使いたいです」とか。
あとは、やっぱりスキー、スノーボードのイメージで作りましたが、自転車や釣りに使ってみたいなど、みんな勝手に解釈してくれて、とていうのはすごくうれしかったですね。
「BONX」の開発を始めた経緯
――開発に着手した時期はいつごろですか?
宮坂:着想が2014年の3月末で、本格的な開発開始は2015年の1月です。
――技術的にもいろいろあると思いますが、最初は何から始めましたか?
宮坂:基本的に僕は文系なんですよ。ですから、技術的な知識もない中で、「こういうの(プロダクト)って、どうすればできるんだろう?」と理系の友達に聞いたりして……。
まずプログラミングを学んで、自分で作れないかと思ったんですよね(笑)。でも何年もかかりそうだったので、いろいろとテクノロジー系のミートアップなどに通いました。
2人いる重要なアドバイザーのうちの1人、ロボットベンチャー「ユカイ工学」の青木俊介さんに知り合いました。僕がやりたいことを相談すると、「とてもいいじゃないですか。やってみましょう!」みたいな感じで快諾してもらえました。
そして製品の量産化を考えていたとき、元EMS(製造請負業)大手のマネージャーで、現在はハードウエアスタートアップを量産面でサポートする黒子として活躍している、西野充浩さんが雑誌で取り上げられていたのを読んで、いきなり押しかけました。
なのに、すごく面倒を見てくれまして。アドバイスを頂いたり、量産に関する知識を蓄えられました。
まず、最初は自分でやろうとしたけど厳しくて、人にいろいろと聞いていく中で、だんだんどうやったら実現できるのか分かっていったという感じですね。
――会社設立時のメンバーは?
宮坂:CTO(最高技術責任者)の楢崎が共同創業者という形になっていますが、設立時は僕だけです(笑)。
彼は前職の僕の後輩ですが、フルタイムで入ってくれたのは2015年4月です。それまでは基本的に自分で全部やりながら、いろいろなフリーランスの方々と進めていました。
――技術的なスタッフは社外なんですか?
宮坂:そうですね。今でこそエンジニアがオフィス内にいますが、基本的にフリーランスの方が多いです。
社内でもっとエンジニアを採用すべきか考えましたが、僕らは優秀なフリーランスの人たちと仕事をしているので、意外とそれもいいのかなと思って。なかなか普通に採用しようと思ったら、大変な人たちなので(笑)。
現在は20人くらい関わっている人がいて、大半はフリーランス。社内スタッフは5人です。僕と楢崎と、あとは百崎というプロダクトデザイナー。彼は自分のデザイン事務所を持ちつつ、僕らの仕事もしています。
あとはサーバーのエンジニア。もともと大手IT企業でインフラをやっていた人物です。しかも、珍しいことにスケーターで、会社の近くでよく一緒に滑っています。
あとは、もともと携帯キャリアの自社アクセサリーブランド立ち上げに関わった開発ディレクター。この5人ですね。
――人を集めるにあたり、事業などの説明が難しくなかったですか?
宮坂:僕が、「スノーボードしていて、こういう時に困っているんです。だから、こういうモノを作りたいんです。以上!」みたいな(笑)。一貫してこんな感じですよ。それが結局、一番伝わりやすいなと思います。
――BONXの形が出来上がったのはいつ頃ですか?
宮坂:2015年の2、3月かな。ビジュアルを“ひょうたん型”にするというのが大きくて、その頃に決まりました。
片耳か両耳か、BONXのこだわり
――最初から片耳に引っかける形だったのですか?
宮坂:いえ、かなり試行錯誤しました。スノーボードで使用することを考えると、片耳ずつ独立させたかったのですが、安定しない。両耳がつながったタイプも考えましたが、邪魔というか重く感じるというか……スポーツ向きではないなと。
さらに片耳となると、なかなか密着してくれない。だから3Dで立体的なデザインを考案して、耳に掛けられるように設計しました。
――ボタン2つというのは決まっていたんですか?
宮坂:シンプルにしたいというイメージはありました。でも、チーム内で議論するうちに「こういうボタンも必要ですよね」と、操作も複雑になって……。“トリプルクリック”とか僕は理解できないからやめてくれって(笑)。
――このボタンでどんな操作ができるのですか?
宮坂:今の仕様としては2つの通話モードがあって、「ノーマルモード」でボタンを1回押せばグループ内で話せるようになります。もう1回押せば終了ですね。すごくシンプルです。もうひとつの「ハンズフリーモード」は、ボタンを押す必要はありません。
――お互いが同じモードじゃないと通話できない?
宮坂:関係ありません。発信時にボタンを押す「ノーマルモード」の方が、バッテリー消費や通話の遅延が少ないだけです。一方「ハンズフリーモード」は音声を認識すると発信する仕組みです。
ボタンを押さなくていい代わりに、バッテリーの消費と通話の遅延がある、ということです。ハンズフリーのときはしゃべってない時は何も通信しない。
話し始めたらそれを認識して、音声データをサーバーに送り始めます。どちらのモードでも、バッテリーは9時間前後もちます。
――話し始めの声が切れたりしないんですか?
宮坂:音声認識という仕組みは“一定間隔の音声を拾って、その期間の音声を解析し、人の声があるかどうかを判断する”というモノです。
BONXは、それをずっとやっているんですよね。この“間隔”は1秒より短いので問題ありません。
タイムラグの大部分はそこで生じるんじゃないんです。発話した側のBONXで拾った音声データがサーバーに行って、違う人のBONXに来るまで、その間で起きるんですよ。
どうしてもサーバーベースの仕組み、インターネットベースの仕組みなので発生しますが、僕らはそれを可能な限り少なくするようにしました。例えば、音声をなるべく圧縮してから送り、届いた時に解凍しています。
それこそ「ノーマルモード」で4Gで通信できる状況だと、電話と比べても遅れていると感じないようなレベルです。
――海外でも使えるということですよね? タイムラグは?
宮坂:はっきりと体感できるほどじゃないですよ。もちろん日本にサーバーを置いているので、日本でやり取りした方が早いです。先日、アメリカにいる相手とやり取りしましたが、何秒も遅れるということはありませんでした。
――BONX同士でダイレクトにやり取りする、トランシーバー的なやり方は考えていなかったんですか?
宮坂:最初から考えていなかったわけではありませんが、BONXだけでやろうとすると、いくつかネックがあって……。
まず、ものすごくバッテリーを消費するので、大きなバッテリーを積まなければならない。そうすると、耳に掛けるようなサイズが不可能になります。
そもそもの発想としては、スマホが高性能になり、小さいサイズで、みんな持っていて、どんどん世の中が圏内になっている。だから、もっとスマホを使おうぜ!ということなんですよね。
ただ、スマホは四角くて、手に持つ形状であるがゆえに、動きながら使用するのは難しい。そこを解消したいというのが原点だったので、ダイレクトにつなぐのは厳しいなと思いました。
最大10人のグループ通話も可能
BONXはスマホのアプリで管理されており、最大10人のグループ内で会話が可能になる。直感的に操作できるインターフェース(開発段階)も、この製品の魅力。
――複数人で通話している時に圏内と圏外が不安定だと、アプリのグループから外されることはあるのでしょうか?
宮坂:多少なら大丈夫ですが、一定時間以上圏外に外れてしまうと、グループから外されてしまいますね。サーバー側から「この人いますか?」というデータを送っているんですけど、それがずーっといないと弾き出されてしまいます。ただ、一瞬圏外になったくらいならサーバーにデータを貯める仕組みになっているので、声が遅れるくらいで済むと思います。
――グループの参加人数はスマホの画面のみで確認する?
宮坂:今、何人入っているかというのは分からないですね。誰かグループに入ったとき、テレビ会議システムみたいな感じで名前を呼ぶような機能はありますよ。
――グループに入っている時に個別に会話することは?
宮坂:それは無理です。全員に会話の内容がいっちゃうので。でも、おっしゃる通り、特定の人物だけに話したい機能は付けたいと思っています。スマホを使っているからこそ、そういう機能が可能になります。
トランシーバーだとできませんが、スマホという超高性能なモノを親機にしているし、アプリはアップデートできるじゃないですか。みんなが必要と思っている機能を足していけるのがいいと思っています。
――「ハンズフリーモード」で自分の声以外に反応することはあるのでしょうか?
宮坂:もちろん反応しますよ。人の声以外は驚くほど反応しませんが。“パンパンパンパン(←手を叩く)”。こうやっても反応しません。
――電車内の放送などはどうでしょう?
宮坂:放送も反応すると思います。将来的に、自分の声だけをアプリが学習していく仕様にしたいと思います。このシステムの利点としては、全てがサーバー経由でなされるので、サーバーにデータが蓄積される点です。例えばデータを解析し、特定の人物の声を学習する、ということは可能です。
今後のBONXが目指すところ
――今後の流れはどうお考えですか?
宮坂:第2弾を作ろうと思っています。それを「キックスターター」など海外のクラウドファンディングに出したい。2016年12月くらいには実現できればと思っています。今回のBONXもグローバルに展開しますが、第2弾はよりアクセルを踏んで展開したい。
――第2弾のアイデアは具体的なのでしょうか?
宮坂:現在はあまり公表できないレベルですし、どこを改善するか、これから見ていくところです。すごいモノになりそうだな、という気はしていますけど!
――グループ参加人数を増やすというのは可能でしょうか?
宮坂:はい、可能です。ただ現在の最大10人の仕様で、サーバーの負荷などを見て、問題なく運営できるか見たいと思います。システム上10人までしか接続できないということではありません。
――最後に会社の名前の由来を教えてください。
宮坂:CHIKEIは、日本語の“地形”です。「世界は僕らの遊び場」とスローガンを掲げていますから。スノーボードやサーフィンなど、“地形”を使って自分で遊ぶ。そこからとってCHIKEIですね。
――ありがとうございました!
CHIKEIチームのテクノロジーと遊び心が詰まったウエアラブル・トランシーバー「BONX」。新時代を感じさせるこのガジェットが開く未来をぜひ体感してみてください。
【データ】(2015年12月時点)
社名:株式会社CHIKEI
製品名:BONX
価格:1万5800円
サービス開始時期:2015年12月
事業参加人数:約20人
http://bonx.co/ja/
2015年12月末より蔦屋家電にて取り扱い開始
(取材・文/三宅隆)
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