■「家中でつながる」が実現できなかった
──そもそもの話になりますが、この「PLC」というのはどういうものなんでしょうか?
岩丸 「PLC」は「パワー・ライン・コミュニケーション」の略になります。例えばご家庭内のA地点にモデムがあって、PCなどネットに接続する機器があるのは別の部屋のB地点だとします。この場合、通常はA地点のモデムからB地点までLANケーブルを這わせて、インターネットに接続しなければならないですよね。でもこのPLCのアダプターをB地点の近くにあるコンセントに挿すだけで、家庭内の電気配線を使ってデータ通信が行えるという技術なんです。
──なるほど。データがLANケーブルではなくて電気配線を通じてやってくると。となると最大のメリットは“ケーブルがゴチャゴチャすることがない”ということになりますか?
岩丸 そうですね。ネット接続用のLANポートがリビングの隅にしかないという場合でも、コンセントならだいたいどの部屋にもありますよね。LANポートにつないだモデムが1階リビングのA地点として、2階のB地点までケーブルを這わす必要がなく、2階の部屋にあるコンセントにこのアダプターを挿すだけでいいんです。これが最大のメリットかなと。
──PLCアダプターを使うには、家庭用のコンセントそのままでいいんですか?
岩丸 はい。変換器を噛ませたり、何か特別な設定をするという必要はなく、そのまま使っていただくことが可能です。
──そう聞くと便利そうだなーとは思うんですが、それにしては現状、普及しているという話をあまり聞かないような…。
岡 ごもっともです。PLCの第1世代が登場したのは2006年終盤なんですが、私たちも販売を開始した時はもっと広がると思っていましたし、当初はけっこう話題にもなっていました。ですが私たちも実際に使ってみたところ、「家中でつながる」ということが実現できなかったんです。
──それはなぜなんでしょう?
岡 ひとつには、PLCが最初に登場した時に規格が3つあったことが挙げられます。弊社はパナソニックさんが主導した「HD-PLC」という規格を採用しているんですが、他にアメリカ主導の「HomePlug」、ヨーロッパ主導の「UPA」がありました。3つの規格には互換性がなく、家電量販店に複数の種類が並ぶことになり、お客様も「これってどうなの?」という状態だったんです。現在、この中ではHD-PLCのみが残っていて、それとは別に後から出てきた「G3-PLC」という規格も存在しています。
他にも大きな要素として、法律の問題があります。PLCと言いながら、コンセントに電波を流すんですが、アマチュア無線の帯域を使ってしまうので反対運動的なものも起こりまして。ただHD-PLCはノッチフィルタというものを使ってアマチュア無線の帯域の周波数をカットしてるんです。さらに、法規制の値よりも出力をちょっと下げていました。何が起きるか分からないというところもあって、少し控えめにしていたんですね。そのために、実際のご家庭では1階と2階でつながらないという事態が多く起きてしまいました。
──最大のウリが実現できなかったということですね。