キーマンが語るランクル開発の舞台裏(1)圧倒的な信頼は冒険家さながらの調査から生まれる

小鑓貞嘉(こやり・さだよし) 1985年にトヨタ自動車へ入社。「ハイラックス」や「ランドクルーザー プラド」などのシャーシ開発に携わる。その後、製品企画室へと異動し、2001年からランクルの製品企画へ。2007年にシリーズ全体を統括するチーフエンジニアに就任し、2018年まで従事。現在も製品企画の主査として、ランクル系の開発に携わる

■先輩エンジニアから受け継がれるランクル作りの掟

ランクルといえば、トヨタが世界に誇る4輪駆動車の雄。現在は、シリーズとしてランクルならではの本質を追求したベースモデル「70系」、販売の中核を担う「プラド」、シリーズの頂点に君臨する「200系」をラインナップ。さらに、トヨタのラグジュアリーブランド・レクサスからも、「LX」や「GX」といった派生モデルがリリースされています。

洋の東西を問わず、昨今のクルマ市場はSUV全盛の時代ですが、ランクルシリーズは屈強なラダーフレームシャーシや本格的な4WDシステムを備え、流行のクロスオーバーSUVとは一線を画す屈強さと悪路での走破力を実現しているのが最大の特徴です。

そのたたずまいや作りは「オーバースペックなのでは?」と感じる部分も少なくありません。しかしランクルは、脈々と受け継がれる開発思想に基づいて開発されていると、小鑓さんはいいます。

「ランクルは、初代モデルから数えて68年目を迎えました。その開発に対して、大先輩の技術者たちから受け継がれている言葉があります。それは『“信頼性”、“耐久性”、“悪路走破性”の3つをおろそかにするな』というものです。

トヨタ車には、QDR(Quality , Durability , Reliability & Value)、つまり、品質、耐久性、信頼性に関するクルマ作りの基準があります。一方、ランクルには長い歴史があり、技術的な積み重ねもある。そのためランクルの開発では、トヨタ基準を守りながら、他のモデルとは開発の仕方や基準を変えているところがあります。

先代ランクルからの開発史において、さまざまな自然・使用環境と、お客さまからの期待に対し、『どうあるべきか』、『何をすべきか』ということを開発チームが議論して独自に決め、例えば、耐久強度などは、他のどのトヨタ車よりも高く設定しているところがあります」

長い歴史に裏打ちされた耐久性。筆者が生まれる前から存在するクルマについて、ひと口で語るのは気が引けますが、改めてランクルの歴史について、簡単に振り返ってみましょう。

ランクルの源流たる「BJ」、「FJ」型が誕生したのは、1951年のこと。警察予備隊(現在の自衛隊)への納入を目的として開発されましたが、実績に勝るライバルに敗れ、採用とはなりませんでした。しかし、その優れた悪路走破力から、警察組織などにパトロールカーとして採用されたほか、林野庁や電力会社にも納入されることになります。

トヨタ BJ

1955年にはモデルチェンジを行い、20系へと進化。20系は多彩なバリエーションが用意されただけでなく、トヨタの先陣を切って本格的に海外への輸出も行われるようになりました。

1958年、トヨタは「クラウン」とランクルで北米市場へと進出しますが、善戦むなしくその2年後には、クラウンが現地セールスから撤退することになります。そのような状況で、トヨタは次に導入される「コロナ」の投入まで、北米で唯一の車種となるランクルで、経営の維持に努めました。ランクルは高い信頼性と走破力を武器に、安定したセールスを記録。トヨタ海外進出の黎明期を支える立役者となりました。

その後、1960年には、40系へとモデルチェンジ、1967年には、より乗用車的な55/56型がデビューするなど、改良やバリエーションの拡充が図られます。

ランドクルーザー 40系

ランドクルーザー 55系

そして40系は、1984年に、現在も生産が続く70系へとバトンタッチ。55/56型はというと、後にステーションワゴン色を強めた60系、80系、100系へと進化を重ね、現在のシリーズ旗艦である200系へと成長を遂げています。

一方プラドは、元々は70系をベースとした派生モデルでしたが、現在は独自設計のモデルに。扱いやすいサイズに加え、シリーズ共通の優れた悪路走破力から、多くの国で販売の主力モデルとなっています。

ちなみに、ランクルはその長い歴史もあって、現在の販売は約170の国と地域に及ぶのだとか。ひと口に“ランクル”とくくってしまいますが、幅広いバリエーションもまた、シリーズの魅力であり特色といえるでしょう。

「日本市場だけでも、300万円台後半から買えるプラドから200系までラインナップしていますし、海外向けを含めると、モデルや仕様はさらに広がります。中東地域などでは、王族ファミリーや富裕層は200系やレクサスのモデルを、企業マネージャーや高所得層はプラドを、一般の人々は仕事の道具としてベーシックな70系を、といった具合に、市場やユーザーによって売れるモデルが異なっているのです」(小鑓さん)

【次ページ】ランクルが“働く場所”を開発者自ら確かめる

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