■あらゆる性能で従来モデルに劣ってはいけない
クルマの開発といえば、昨今はマーケティング優先やセールス至上、といったイメージが強くなっています。しかしランクルの開発は、それらとはやや異なる印象があります。ランクルは利益を度外視し、性能を優先した開発が行われているように感じるのです。
「追求すべきは利益か? それとも性能か? どちらを優先するかということでなく、ランクルには使命があり、それを満たすために日夜、改良を行っています。そして、そうした努力が実り、現在のような唯一無二の存在になったとも思っています。ランクルのセールスで得られる利益は、トヨタのラインナップの中でも低くはないですが、個人的には『収益は後からついてきたもの』と考えています」(小鑓さん)
最新の自動車開発といえば、コンピュータで設計やシミュレーションを行い、試作車でデータを取り、必要であれば修正、そして生産に移る…という流れを想像する人も多いでしょう。もちろん、実際にはもっと複雑な工程をたどり、かつ時間を要する作業でもあるのですが、大まかにいって、上記のような流れに沿って開発が進みます。
ランクルもトヨタが手掛ける量産車種だけに、当然、最新鋭の開発機器やシミュレーションを活用して開発されています。しかし、小鑓さんによると、ランクルの開発には欠かせない工程やこだわりがあるといいます。
「ランクルは命を預かるクルマですから、妥協は一切できません。その開発において欠かせないこだわりが、“現地現物”、“号口同等以上”、“実車評価”という3点。使われる環境が一般的なクルマとは異なりますから、完成したからといって、簡単に世に出すわけにはいかないのです。もちろん、シミュレーションも行いますが、最後の実験や作業の確認は、すべて現物で行っています。ランクルは、この現地現物でのテストが欠かせないクルマなのです。自然環境をテストコースで再現することはできません。そこに、気象や路面状況といった環境が複合的に重なると、絶対に再現不可能なのです。
ちなみにトヨタでは、現行車種のことを“号口”と呼ぶのですが、歴代のランクル開発者が守り続けている伝統のひとつに『号口より下がるな』という言葉があります。つまり、信頼性や耐久性、悪路走破力といったあらゆる性能で、現行車種に劣ってはいけないのです」(小鑓さん)
シミュレーションの進化により、衝突安全性の評価もかなりのレベルまで机上で再現可能となった現在ですから、ランクルの開発は入念過ぎると思われるかもしれません。しかし、モデルチェンジの際、ある性能は向上したけれど、わずかでも何かを失った、というのでは、ランクルのモデルチェンジとしては失敗なのだそうです。
特に、海外の極地では、ランクルからランクルへと乗り換えるユーザーが多いのも理由のひとつ。「前のクルマではたどり着けたのに、新型に乗り換えたら行けなくなった…」、「先代では100%たどり着けたのに、新型では行けないこともある…」というのでは、ユーザーの命の危険にも関わります。そのためトヨタでは、徹底したテストを繰り返すのだそうです。
「性能面に関しては、最新モデルは高次元のところに達していると思うのですが、ランクルはやはり『どこかへ行って、確実に帰ってこられる』という性能が大事なのです。
なので私たちは、クルマの壊れ方、についてもチェックします。もちろん、ランクルも工業製品ですから、時には壊れることもあります。壊れる可能性はゼロではありません。そのため、万一、壊れてしまっても、戻ってこられる壊れ方、つまり、クルマとしてキモとなる部分は、絶対に壊れないようなクルマにしたいと考えています。
そのために行っているのが“壊し切り試験”。これは言葉のとおり、クルマが壊れるまで走る、というものです。テストドライバーもうんざりするような過酷な環境でテストを行うのですが、こういうテストを行うことで、私たちでも想定できない壊れ方が、起こらないようにしているのです。
ランクルは、このような確認を行った上で世に出していますので、普通に使っている限り、使用環境にもよりますが、20万kmくらいではびくともしませんし、100万km走ってようやく壊れた、なんてこともあります。それでもランクルは、人がドライブできないほどの過酷な条件で、実際に壊れるまでテストを行っています。そこまでやらせてくれるトヨタ自動車は、すごい会社だと思いますね(笑)」(小鑓さん)