キーマンが語るランクル開発の舞台裏(2)世界で愛される名車の開発はコストより性能第一

■“変えないこと”もランクルにとっては必要な要素

さまざまなエピソードをうかがうだけでも、ランクルのすごさと歴史、開発陣の熱意が伝わってきますが、一方で“変えないこと”も、ランクルの特徴だと小鑓さんはいいます。

クルマの開発といえば、先進技術の導入に積極的で、常にライバルとしのぎを削る…、という印象を抱く人も多いでしょう。開発者は日々、進化させることに心血を注いでいる、と想像しがちですが、この“変えないこと”もまた、ランクルには必要な要素だといいます。

「変えない、ということは、実績=信頼がある、という証でもあります。ランクルは何十年間にもわたり、世界各地で使われていますが、パーツなどが変わっていなければ、どんな辺境の地でも、工場にさえたどり着ければ、そこには使える部品・中古が存在する、というわけです。

もちろん、リペアのしやすさだけを考えるなら、電子部品をなるべく使わない、という開発手法もありますが、現代のクルマだけにそうはいきません。でも、一部地域向けのモデルでは、今でも燃料ポンプに電気式ではなく、機械式を使っています。これなら、都市から離れた場所でも、ちょっとした知識さえあれば、トラブルが起こってもユーザーの方が自ら分解して修理できるのです。ランクルは元々、ユーザーの方が自らの手で修理できるクルマでしたし、そういった部分も、ランクルならではのこだわりだと思います」(小鑓さん)

何を進化させ、何を守るのか…。その辺りの采配も、ランクル開発者ならではの悩みかもしれません。しかし、自らの足で世界各地をめぐってきた小鑓さんは、そうした苦労よりも、開発を通じて得られた感動の方が大きかったと笑います。

「私はクルマが大好きで、いろんなモデルに乗りましたし、40代まではラリーなどの競技も楽しんでいました。そうした自分の趣味的な視点から見れば、『乗って楽しい』というのもランクルの魅力ですね。一方で、開発者の視点では、ユーザーの方が感動してくださるのか、喜んでいただけるのかが見えやすいクルマだと思います。

例えば、海外のユーザーの方に会いに行くと、少なからず苦情をいわれます。でも、話をじっくり聞いてみると、それは『ランクルだからいっておきたい』という、クルマに対する愛情の一端でもあるのです。中には、苦情・要望を10も20もいわれることがありますが、私はひとつでも『必ず直します!』と伝えていましたし、そうした意見は、開発に活かすよう心掛けていました。実際、その中の問題がひとつでも解消されていると、次にそのユーザーの方にお会いした際、しっかりと覚えてくださっていて「あれ、直してくれたんだね!」と評価してくださいます。

ユーザーの方がエンジニアに伝えたことをしっかり製品に反映させる。これも、ランクルの開発では大事なことだと思います。それは、ユーザーの皆さんにとって、ランクルというクルマが唯一無二の存在である、ということの証でもありますし、『ランクルがあるから仕事・生活ができる』といわれるのは、開発者冥利に尽きますね」(小鑓さん)

トヨタ自動車 小鑓貞嘉さん

ランクルを選ぶということは、少なからず、その性能が必要であるということです。だからこそ、日本は元より、秘境などでも活躍するランクルの1台1台に、ユーザーとの歴史や思い出があり、ユーザーにとってランクルは、かけがえのない存在になっているのでしょう。

小鑓さんを始めとする技術者の方たちが、自ら世界各地に足を運んで実際の使われ方をチェックする。そうした開発手法は、想像以上の苦労を伴うものです。と同時に、エンジニアとして何ものにも代えがたい喜びを感じられるのも、ランクルだからこその魅力なのかもしれません。こうした作り手たちの情熱があるからこそ、ランクルは世界累計販売台数1000万台という栄誉を勝ち得たのではないでしょうか(完)。

(文/村田尚之 写真/村田尚之、トヨタ自動車)


【関連記事】
【トヨタ ハイラックス試乗】悪路も難なく走破!遊びグルマにも最適なプロ仕様の本格派

若手社員が立ち上げた温故知新のプロジェクト「ONE MAZDA RESTORE」の狙いとは(1)

【プロダクトヒストリー】スバル“シンメトリカルAWD”〜誕生までの苦難と葛藤〜


トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする