ザ・ノース・フェイスの人気リュック、誕生の裏にはアップルの存在があった

■タウン向けでも基本は「山」

――四角くシンプルなデザインとは裏腹に、実際に「シャトルデイパック」を背負うととても背負い心地が良いと気付きます。デザインだけでなく、使い心地や使い勝手といった面でこだわった部分はありますか?

▲背骨が当たらないよう真ん中が抜かれた背面の成形パネル

狩野さん ノースはアウトドアブランドです。だからどんなバッグであれ、基本は山がベースになります。背面に付けた成形パネルもそうですし、ショルダーハーネスの中に入っているEVAに穴を開けて通気性を確保したり、角の部分を落として肩にうまくフィットするようにしたりといった細かい部分もすべて山用のバックパックで使っている機能になります。

―――薄くてちょっと頼りなく見えるんですが、たしかに驚くほどフィットします。

▲薄く頼りなく見えるが、背負うと快適さがよくわかる

狩野さん バックパックで最も重要なのは背負い心地です。そこはタウン向けであっても妥協はしません。あとは使いやすさも大事。自分たちの実体験に基づく使いやすさを落とし込んでいます。

――そう、「シャトルデイパック」って開けるとスゴいんですよね! とにかく使いやすい。以前は、なぜこんなに人気があるのだろうかと不思議だったんです。パッと見がシンプルなので、きっと中もシンプルなんだろうと。でも実際に触った時、開けた瞬間に“自分で使うならここにあれを入れて”というイメージが浮かびました。書類にノートPC、モバイルバッテリー、ACアダプタ、ケーブルなど、デジタルデバイスやガジェットを日々持ち歩いている人にとっては、使い勝手は抜群だと思います。

▲フロントポケット内部にも収納をいくつも備えている

狩野さん 元々「バイト」がアップル製品を入れるために設計されたことも大きいと思います。さらにそこに、山用の機能を加えている。例えば独立したノートPC用スペースは、アウトドアパックのハイドレーション機能をイメージしたものです。トレイルランのレースではウォーターパックをバックパックに入れて、走りながらでも水分補給できるようになっているんですが、ウォーターパックを入れるスペースは給水所で素早く出し入れできるように設計されています。そのアイデアを活かしたものなんです。

――細かい部分でも使い勝手を追求しているように感じます。

狩野さん PCスペースに関しては、機器を守るために内側にフリースを貼ったり、バッグを置いた時にPCが底突きしないように途中までで止まっていたりといったことは「バイト」の頃からの仕様です。フロントの小物用ポケットも、内部を3つに分けてケーブルやモバイルバッテリーなどを想定したスペースを作っています。時代によってサイズは少しずつ変わってきているんですが。

――「シャトルデイパック」には、薄マチのスリムモデルもありますね。ペーパーレス化が進んでいる人にとっては、デジタルデバイスだけ持ち歩ければいいわけで、最近は薄マチリュックの人気が上がってきています。

▲「シャトルデイパックスリム」(1万9800円) サイズ:W27×H45×D13cm、790g、18L

狩野さん 実は「バイト」の頃にすでにスリムモデルを出しているんです。最初に「バイト 20」を出して、次に「バイト 25」という少し容量の大きいモデルを出したんですが、その頃にアップルの人と話していて「最近は書類も持たないんですよ。本当にタブレット1つぐらいしか持たない。だからもっとスリムでもいいかも」と言われて。それで「バイトスリム」というモデルを出しました。2014年のことです。

―――さすがIT企業! もうその頃から紙なんて使ってなかったのか!

▲PC収納部は仕切りで3つに分かれている

狩野さん 通常の「バイト」はPCスペースに、1泊2日の出張用の荷物ぐらいは入るメインスペース、そして小物用スペースと大きく3つに分かれていますが、スリムにはメインスペースがありません。その代わりPCスペースの内部を区切れるようにしていて、ノートPCとタブレットと書類程度なら入ります。普段の通勤なら人によってはこれぐらいでもいいかもしれませんね。

*  *  *

エベレストを目指す登山隊のサポートなども行ってきた本格アウトドアメーカー、ザ・ノース・フェイス。エクスペディション向け用品の開発で培ってきた技術力が落とし込まれたアイテムの数々は、タウン向けだとしても妥協のない使い心地の良さにつながっています。近年はファッションアイテムとしても人気ですが、ザ・ノース・フェイスに興味を持つきっかけがアーバンアウトドアスタイルだったとしても、一度使うと「やっぱりいい」と思わせる魅力や機能性、性能の高さがある。それが人気につながっているのかもしれません。

一方で、環境破壊や気候変動といった地球規模の問題の解決に向け、さまざまなメーカーとの協働も進めています。自然の中で製品が使われるブランドだからこそ、サステナブルな社会を実現するために挑戦する。そこで生まれた新技術は、タウン向けアイテムにも反映されていく。

“山”というブランドのフィロソフィーは変えず、時代に合わせてユーザビリティをアップデート。人気にあぐらをかかず、常に挑戦する姿勢を持ち続ける。強さの秘密はそういった部分にあるのかもしれません。

>> ザ・ノース・フェイス

<取材・文/円道秀和(&GP) 写真/松川 忍(取材)、田口陽介(商品)>

 

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