■クラウドファンディングの歴史は?
ーーそもそもクラウドファンディングは、日本ではいつ頃からあるんでしょうか?
沼田さん クラウドファンディングという言葉が出始めたのは2011年。震災後の3月末にREADYFOR(レディーフォー)さんが立ち上がったのが日本で最初。その3ヶ月後にCAMPFIRE(キャンプファイヤー)さんが、続けてMotionGallery(モーションギャラリー)さんがサービスを開始され、一気に3サイトが立ち上がりました。
同じ年の7月に、弊社もGREEN FUNDINGの前身にあたる、女性クリエイターの支援に特化した「GREEN GIRL(グリーンガール)」をテスト的に開始。2013年にKibidangoさんとMakuakeさんが立ち上がり、その後、すごい数のクラウドファンディングサイトが乱立しました。全盛期で100~200くらいはあったんじゃないでしょうか。最近は大型の新規参入はあまりなく、後述しますが、購入型のクラウドファンディングでいえば前出の6社(READYFOR、CAMPFIRE、MotionGallery、GREEN FUNDING、Kibidango、Makuake)がメインプレーヤーになっています。
■クラウドファンディングの種類には何がある?
ーーそういえば震災の時もそうですが、直近のコロナ禍で飲食店支援を行った方も多いと思います。クラウドファンディング=寄付をイメージされている方もいるかと思いますが、クラウドファンディングにはどんな種類があるのでしょうか?
沼田さん 私の理解では、インターネットを通じてお金を集めることを、いつしかクラウドファンディングと呼ぶようになってきた気がします。例えば、クラウドファンディング以前のサービスで、事業資金を融資するMANEOさんはソーシャルレンディングといっていますが、最近は貸付型クラウドファンディングとも呼ばれています。
クラウドファンディングの種類をざっくり分けると、まず金融免許が必要な「金融型」があります。それぞれ見た目は似ていますが、どういう免許(金融免許)で運営しているかで、貸付型、投資型、株式型、不動産型、ファンド型などに細分化されます。いずれも金融性を帯びているもので、お金がバックされてくる(資産が増えたり、減ったりする)のが特徴です。
次に「寄付型」があります。いわゆるネット上の投げ銭で、見返りがないのが寄付型なんですが、最近は寄付のお礼や見返りを渡すことがあります。この寄付型は非常にわかりにくくなっており、後述する「購入型」と厳密にどう違うのかというと、実際は一緒に近い場合が多いのです。
例えば、一見寄付のようですが、1万円寄付すると見返りに写真が1枚送られてくるとしましょう。その場合、言い方を変えれば1枚の写真を1万円で買っていることにもなります。つまり、支払った金額にリターンがある場合は、購入型と解釈することもできるのです。震災の時も、購入型を使って疑似寄付のようなプロジェクトが多く見られました。
寄付型で寄付したお金は、確定申告で寄付控除を受けられるものと、受けられないものがあります。これは寄付先が資格を持っているかどうかの違いです。
松崎さん そして、我々(KibidangoとGREEN FUNDING)のやっているプラットフォームが「購入型」と呼ばれます。これはその名の通り、起案したプロジェクトのモノやイベントにお金を支払い購入するタイプ。言い換えれば、“未来のモノやコトを買うECサイト”ですね。
お金出す人の気持ちの整理であって、法的な整理ではないですが、ざっくり見返りがなんなのかで分けると、以下の3つに分けられます。
・お金が返ってくる(投資する)のが「金融型」
・見返りがほぼゼロ(渡す)なのが「寄付型」
・何かが返ってくる(買う)のが「購入型」
今回のコロナ禍で飲食店やイベントの支援をされた方が多いと思いますが、寄付型ではなく、その多くが購入型クラウドファンディングを使った、寄付色はあるものの、なんらかの見返りが返ってくるプロジェクトでした。
■支援金を募る仕組みにはどのような種類がある?
ーーKibidangoさんとGREEN FUNDINGさんは購入型ということですが、支援金を募るタイプにはどのような形態があるんでしょうか?
沼田さん クラウドファンディングの形態には、大きく分けてAll-or-Nothing(オール・オア・ナッシング)とAll-in(オールイン)という2種類があります。
All-or-Nothingは、その名の通り、すべてかゼロか。目標(設定金額)に届けば、起案者は支援金をもらえ、参加した人はリターンが手に入ります。逆に、達成しなければ、支援金もリターンも手に入らないという分かりやすい仕組みです。
一方のAll-inは、目標(設定金額)に届く届かないに関わらず、到達分だけ起案者には支援金が入りますし、支援者にはリターンが届きます。
松崎さん 今は何をもってクラウドファンディングというのかが曖昧で、必ず手に入るものであれば、クラウドファンディングと言わなくてもいいのではないかとも感じています。
そもそもクラウドファンディングのプロジェクトにお金を出す行為そのものを、なんと呼ぶのかも問題かもしれません。買っているのか、支援しているのか、寄付しているのか…実はそこにはまだ答えがないんじゃないかと思っています。
英語ではBack(バック)とか、Pledge(プレッジ)と呼ばれます。バックは背中を押すとか、支えるといった意味で分かりやすいんですが、プレッジはそれよりも難しく、目標に届いたらお金を払うことを約束するという意味。でも日本語で言ってもわかりにくいので、サポートや支援、応援購入と呼ばれています。
■「All-or-Nothing」と「All-in」の違いとは
ーー2種類の形態のメリット・デメリットも含め、もう少し具体的に聞かせていただいてもいいでしょうか。
沼田さん 日本では現在、All-inも多く使われるようになっていますが、All-or-Nothingとの大きな違いは“目標に意味があるか、ないか”の違いではないでしょうか。
All-inの場合、例えば映画を制作するとします。制作会社は、制作コストはまかなえているけど、マーケティングをするお金がない、もしくはマーケティングをする手法があまりない。映画を作ることは決まっているけど、お金がもっとあればできることが多い、といった場合に有効な仕組みです。
All-or-Nothingの場合は、よくも悪くも支援者が集まらなければ、バラしになります。成功しなければ、プロジェクトを起案した側は支援金をもらえませんし、支援した側はリターンが手に入りません。一見、起案する側からするとマイナスに見えるかもしれませんが、逆にいうと無理にやらなくていいというメリットがあります。
例えば、本を500冊出版するためのプロジェクトを起案するとしましょう。その時に500冊分を作れるお金が集まらなければプロジェクトは遂行されません。失敗したように思えますが、10冊分の支援者しか集まらない(ニーズがない)ものを作らなくてもいいのです。これがAll-inになると、10冊分の支援者しかいなくても、残りの制作費を自己負担し、必ず作らなければなりません。
つまり、All-or-Nothingの場合は、成功しなければ500冊分の制作費を自分で負担することもありませんし、ニーズがない本の在庫を抱えるということもないのです。
松崎さん 最近は目標金額も形骸化して、ぴったり100万円でいこう! という場合もありますが、クリアする目標があるというのは支援者側からすると地味に楽しいもの。自分が支援しなかったら、これはうまくいかないかもしれない、もしくはいかなかったかもしれない。出来レースではなくて、そこに真剣さがあります。
うまくいかなければその商品が手に入らないし、そのプロジェクト自体が遂行されないというワクワク感は確実にあります。目標を達成した時に「達成してよかった!」と、自分が参加しているようなエンターテインメント感覚を味わえるのがAll-or-Nothingです。
■目標金額の設定はどのように決めるのがベスト?
ーーAll-or-NothingとAll-inの違いは分かりましたが、目標金額はどのように決めるのですか? サイトを見ると「1000%達成」や「SUCCESS」などと大々的に表示されていますが、見方を変えれば、設定金額を低くすれば目標金額達成率は高くなるし、成功率も高くなるのではないでしょうか?
沼田さん クラウドファンディング初期の頃は、金型代まですべて集めないと作らないというプロジェクトも多かったです。今は資金調達の手段が色々ありますので、借入で金型作って、初期のロットをどれくらい作ろうかというときに、集まったなりの金額で作るという方法を取られる方もいます。
結局、腹づもりですね。もし集まらなくても絶対作るぞと言う人と、1000万くらい集まらないと事業化はできないからやめておこうかとか。クラウドファンディングを、一部リスクヘッジとして使うのか、すべてのリスクヘッジと考えるのか、で金額設定は変わってくると思います。
松崎さん 我々がよくお客様にいうのは、「本当に必要なお金はいくらですか?」ということ。例えば、2000万円が必要だったとした場合、借入や補助金、他の人たちからの投資などを通じてある程度のお金は集められます。でも本当に足りないお金が何百万かあるとすれば、それが目標設定金額になるかなと思います。
中には、ずっと持ち出し資金で試作品を作って、ようやく量産化のメドがたった時に発注するお金がありませんといった場合、我々がお手伝いして、本当に必要な金額を目標として設定します。
All-inの場合は、例えば300万円を目標にしていたのが100万で終わっても、支援した人はリターンがもらえます。逆にいうと、起案側は100万しか集まらなくても商品を渡しますよって約束していたら、集まった100万円以外のお金は自分で用意して発送しなければなりませんので、この目標額にあまり意味はありません。ですので、その人にとって本当に必要な金額を目標金額に設定するのが、一番クラウドファンディングらしいかなと思います。
ちなみに、日本では事業を開始するのに必要な金額を限りなく全額で集めるのは難しいものです。特にAll-or-Nothingの場合は、前述のように目標設定金額を達成しなければ、起案者も支援者も何ももらえません。そこは賭けにもなりますが、新商品の量産をするにあたり5000万円を目標にし、約8000万円を集めたプロジェクトもあります。大きな目標に向かって起案者と支援者が一緒になって盛り上がっていく、これぞ「ザ・クラウドファンディング!」といった感じですね!
■それぞれの仕組みにが向いているジャンルは?
ーーでは、「All-or-Nothing」と「All-in」それぞれの形態に向いているジャンルはあるものでしょうか?
沼田さん All-or-NothingとAll-inは、どっちがどんなプロジェクトに向いているというのは明確には分けられません。
また映画の例になってしまいますが、大作は予算が数千万や億になることが多く、クラウドファンディングだけで全額を集めるのは難しいので一部をAll-inで資金調達する方法で使われます。インディーズで映画を撮ることを決めている場合も、All-inでできるだけ資金調達するというケースが見られます。
一方、同じ映画でも、例えばインディーズ映画などの低予算映画ではクラウドファンディングで必要資金を集めきることも可能ですし、全部を集めきれなくてもファンと一緒に制作過程を楽しみたい、上映まで盛り上げたいみたいな目的でAll-or-Nothingでやるということもよくあります。
新規でプロダクトを作るとか、海外からアイテムを輸入して販売する場合など、ある程度ロットが集まらないと事業的の見通しが立たないといった場合はAll-or-Nothingの方が向いています。逆に、プロダクトを作ることは決まっていて、いくらかの支援を受けたい、マーケティング的にこの商品にはどれだけニーズがあるか探りたいという場合にはAll-inでもいいかもしれません。
ただ最近は、All-or-Nothingを使うけど、All-inの要素を取り入れて必ず達成するように目標設定する場合もありますし、このプロジェクトはこっちに向いていると明確に分類することは難しいですね。
松崎さん 最近、クラウドファンディングに出る輸入製品は、IoT化している場合が多いのですが、海外から持ってこようと思ってもアプリや説明書、パッケージをローカライズ(日本語)化しなければなりません。また無線機器やBluetooth連携が必要なスマートデバイスは、日本で許認可が必要です。
多くの海外メーカーは、日本で売ることを前提に考えて作っているわけではないので、日本の規格に技術適合していません。もし売れるならお金出して許認可を取りますが、ニーズがないんだったらお金を出してまで許認可を取りたくない。非常に当たり前の話なんですが、そこがクラウドファンディングのAll-or-Nothingが馴染みやすいところです。
沼田さん 最近、大企業がクラウドファンディングを使うケースが増えてきていますが、All-or-Nothingで大きな目標を設定するケースが見られます。大企業ですので資金力は十分にあるはずなのでAll-inのが使われるのかと思いきや、目標額クリアが事業化判断の基準になっているため、結果目標額が高かったりするようです。集まらなかったらチーム自体が解散するといった、新規事業の超リアルマーケティングテストとして使うケースも増えています。
松崎さん 僕は、クラウドファンディングはいろんな壁を超えるツールだと思っています。例えば、資金の壁だったり、需要が分からない壁だったり、大きい会社だと社内稟議の壁だったり…。
チーム内ではいけると思ってすごくやりたいけどい、上司に掛け合うと「そんなもの全然ニーズないんじゃないの?」と言われた時、クラウドファンディングを使って、ニーズを証明するための既成事実を作るといった使い方もできます。
※ ※ ※
最近「クラファンで資金を集めて…」という話をよく聞くようになりましたが、それもそのはず。購入型クラウドファンディングの市場規模は、2017年に約77億円だったものが、2019年には約170億円と急拡大しています。
また購入型とひと口でいっても、起案されるプロジェクトは、身の回りの課題を解決するモノから、飲食店や文化の支援イベント、名店の味復活、システム構築、SDGsの実現、病気を救うためのシステム作りまで多種多彩。各プラットフォーマーの特性はそれぞれ異なりますが、サイトをのぞけば未来のモノ・コトに賭ける人の思いを感じることができます。
とはいえ支援者からすると、商品に触れられない、先にお金を出さなければならない、いつ届くか読めないなどのデメリットはあるものの、その障壁をクリアしてまでも欲しいんだというプロジェクトを作るには、共感度が鍵なのかもしれません。
ということで、連載2回目となる次回は、資金調達にとどまらないクラウドファンディングのメリットとデメリットをご紹介します。
>> Kibidango
<取材・文/澤村尚徳(&GP) 写真/恩田拓治>
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