■クラウドファンディングで支援するのに不安な点
ーークラウドファンディングでは、メリットがクローズアップされることが多いのですが、デメリット(不安要素)もあるのでしょうか? また発売前のモノ・コトを扱うだけに、トラブルが起きたりすることはないのでしょうか?
沼田さん おさらいですが、クラウドファンディングでの支援者は、まだ一般発売前ものを入手できる、早い段階ならお得に手に入る、支援することでエンターテインメント感覚を味わえるといったメリットがあります。その上で、押さえておきたいポイントや気をつけたいポイントがあります。
大きく以下の6つを挙げましたが、【5】は珍しく、【6】に関しては日本ではほぼないといえるでしょう。ただし、海外のクラウドファンディングを活用される方もいるかもしれないので、挙げさせていただきました。
1.先行投資しなければならない
2.納期が遅れることがある
3.届いたモノが想定したものと異なる
4.初期不良があることも
5.リターンが変更される
6.プロジェクトが破綻する
松崎さん 消費者の視点から見た時に一番の不安なところは、やっぱりプロダクトがない状態で先にお金を出さなければならないことでしょう。All-or-nothingの場合は、目標金額をクリアしなければリターンをもらえませんし、限られた設定期間の中でお金を出さなければいけません。
プロダクトをリアルに触れられるわけではないので、最初にお金を払うのはなかなかチャレンジングかなと思います。これはECも変わらないかもしれませんが、既製品を販売しているECサイトの場合はユーザーレビューなど、もう少し商品について知る機会があります。クラウドファンディングで起案されているプロダクトに関しては、すでに購入された人のレビューはないので、サイトの情報のみで支援しなければなりません。
つまり、クラウドファンディングには、実物を見られない、でも先に投資しなければならない、プロジェクトが成功するかわからない、納期どおりにリターンが来るか分からない…など、障壁がいくつもあります。それらをクリアしても欲しいんだというモノでないとなかなかお金を出さないんじゃないかなと思います。
ーー裏を返せば、先行投資するほどでもないと感じられるプロジェクトは成功しないということですね。障壁とおっしゃられた納期の遅れはどうして起こるのでしょうか?
沼田さん メーカーさんはプロジェクト起案時には嘘をつくつもりはないのですが、これくらいの技術でこれくらいの期間で仕上げられると思っていたのに、予定が狂う場合ですね。3ヶ月延びた、半年延びたというのは、クラウドファンディングにおいては、いいかどうかは別にしてカルチャーになっています。もちろんいい製品を作るためにやっていることなのですが、もともと書いてあるスケジュール通りに進まないというのも覚悟しておかなければなりません。
特にゼロイチの製品は、プロジェクトを起案した時点では開発途上なので、作っているうちにできない部分が出てくることがあります。クリアしなければならない場合は仕様変更が生じるのですが、プロジェクトを立ち上げた段階では想定しておらず、一番順調に行くパターンでスケジュールを組んでしまうのが要因ですね。
松崎さん 納期遅れでクレームが来たパターンでは、12月に発送予定って書いてあるのでクリスマスプレゼントにと思ったら発送が3ヶ月延び「どうしてくれるんだ!」というのはありましたね。リターンが来るまで、楽しみが続くと考えてもらった方がストレスがないかもしれません。
私は、海外のクラウドファンディングで400件以上の支援をしていますが、そのうち1割以上は届きません。キックスターターが以前行った第三者調査で実際に支援者に特典が届けられたのは全体の90%でした。ベンチャー企業投資と違って、支援したのに全く何も届かないリスクはそこまで高くはないものの、確実に手に入ると考えていたものが届かないのはストレスが溜まるので、日本のクラウドファンディング事業者は、海外よりも審査を丁寧に行なっています。
日本の場合、届かないのは100分の1くらいですが、海外は発送されなくて当たり前というのが前提。そうしたリスクも分かった上で、海外のクラウドファンディングの支援をするのは上級者といえます。
ーー既製品ではないので、クラウドファンディングで支援する場合は、心にも時間にも余裕を持った方がいいということですね。トラブルといえば、その納期の問題が一番大きいのでしょうか?
沼田さん 届いたものが思っていたものと違うというトラブルもありますね。また、クラウドファンディングで作られるプロダクトは初期ロットが多いので、不具合が起こることもあります。最近はファームウェアアップデートで解決できることも多いですが、安定性でいくと、車でもそうですが、最初のうちは不具合が出やすいですね。不良率は量販店に出ているものに比べると高い傾向にあります。
松崎さん そういうデメリットをおしてもやっぱり一番早く欲しいとか、早いからこそ安く買えるというメリットを支援者の方は取りに行かれる。最近はクラウドファンディングはそういうことが起きるということが分かっている方も多いので、保証期間を半年から1年ほどつけています。割とサッと交換はしてくれているイメージです。
サイト上ではコミュニケーションができますので、支援者が「ハズレ引いたけど、これ不良ですよね」「楽しみにしていたのに不良でした。残念です」といったやりとりがされています。すでに量販店で売られているような完璧なプロダクトは少ないかもしれませんが、もちろんしっかりとしたプロダクトも多くあります。
ーートラブルでいうと、少し前にリターンが変更になった事例がありましたが、よくあることなのでしょうか。
沼田さん 飲食店さんのケースですよね。リターンが変更になったというよりも、事前にリターンの利用規約を明示していなかったという問題があります。その上で、リターンの変更は、プロジェクト起案者の責任で支援者の同意を得られた場合にのみ変更することができるのです。なので、基本的にはリターンの変更は違反であり、すでに約束したものを反故するのは規約違反ですね。
もうひとつ、誇大広告に近いトラブルもあります。最近では、商品名に素材名が入っているマスクが話題になりました。スベスベでサラサラの肌触りが特徴のシルクという名が付けられているので、シルク製のマスクかと思ったら化繊だったというもの。表現に対しての自主規制は、プラットフォームも含めてクラウドファンディング業界全体としては厳しく指導していく必要はあるなと感じています。ちょっとした仕様変更とは全然違う話なので許されることではありません。
よく考えるとプラットフォーム側も支援者側も、これが数百円、数千円の安値で買えることないな、と思うものもあるけれど飛びついてしまうことがあります。一時ドローンなどは多くて、果たしてその金額で作れるのか? と思うこともありますが、行けそうな感じがして支援してしまう場合があります。
個人的には、めちゃめちゃ小さいものは怪しいと思っていて、そんなに小さくならないだろって。作り始めたら「難しかったので、ちょっと大きくなりました」というケースはあります。
松崎さん 誇大広告、特に「世界一の」「世界初の」というキャッチコピーが付いているものは、クラウドファンディングの中では多くて、本当にそうなのかというのはプラットフォーム側もかなり慎重になっています。資金調達のお手伝いをしているキックスターターでは、「世界最高の」とか「究極の」などは、ふさわしい表現ではありません。誇大広告は載せないでください、というルールが明記されています。
ーーあまり日本ではないということですが、究極というとやはりプロジェクトの破綻になるのでしょうか。
松崎さん 日本ではないのですが、一時期キックスターターで大きく問題になったのが「ドラえもんの〇〇」のような製品。夢のような製品なので、ものすごい支援額が集まるのですが、結局商品化できなかったり、支援金がたくさん集まったことで組織がぐちゃぐちゃになっちゃってモノが完成しなかったり、最悪のケースでは会社が経営破綻に陥ったりしたものもあります。
2015年くらいに相次いだので、キックスターターもハードウェア関連プロジェクトの掲載基準を厳しくして、プロトタイプを確認できないなど、疑義が生じたモノはすぐにストップされるようになりました。
日本は、幸か不幸かその頃からハードウェア関連プロジェクトが増えたので、クラウドファンディング初期からプロジェクト立ち上げの基準は厳しめです。少なくとも機能サンプルくらいは動いてないと、企画書だけ、CGだけではできませんので、事業が破綻してしまうような案件は多くないと思います。プロジェクト起案者と連絡が取れなくなるようなものは他社さんも含め、海外と比べるとはるかに少ないのではないでしょうか。
※ ※ ※
急拡大したクラウドファンディング市場。前回紹介しましたが、ユーザーは、まだ市販されていないモノがいち早く手に入る、早ければ割安で出資できる、エンターテインメント感が味わえるというメリットはありますが、不安要素も少なからずあります。
大きなトラブルになることは少なそうですが、特性をしっかり押さえ、素早く支援し、のんびり待つというのがクラウドファンディングの楽しみ方といえそうです。
>> Kibidango
<取材・文/澤村尚徳(&GP) 写真/恩田拓治>
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