作り込んでいるからMTだって乗りやすい
--NDの購入層は、40代の方、50代の方が多いですよね。セカンドカーとして買われている方が多いのでしょうか?
山本:セカンドカー需要は意外と多いですよ。40代ってまだまだファミリー世代ですが、それでも2台目、3台目のクルマを持てる方は、以前と比べて多くなっていると思います。50代の方もそうですね。
--そうなると、家族の方の同意も必要ですよね?
山本:オーナーになられた方から、お手紙をいただく時があります。そうした方々の多くは、「カッコいいな」と思われてディーラーへ足を運んでいただき、NDに触れて乗って「こんな世界観を持つクルマは初めてだ!」と感動していただいているようです。
「素晴らしいとは聞いていたが、これほどまでとは!」とか「こんなに走りが気持ちいいのか! 買いたくなった!!」といってくださる方がたくさんいます。一度でもロードスターに乗ったらそうなりますよ。なので「どうやって奥さんを説得しよう?」とか「家族をどうやったら納得させやすいですか?」って質問をよくいただきます(笑)。
--2シーターは購入に対するハードルが高いでしょうからね。ご家族から太鼓判をもらうためのノウハウを集めた冊子などが必要かもしれませんね。
山本:まずはいっしょに、ディーラーへ来ていただき、同乗していただくといいんですよ。それが一番の解決方法です(笑)。簡単にルーフをオープンにできますから、乗った時の気持ち良さを、ぜひパートナーの方と共有してもらいたいですね。
--助手席に乗せていっしょに走る。それが一番の説得かもしれないですね。
山本:そしてぜひ、パートナーの方にも運転していただきたいですね。NDはとても乗りやすいので。日々のお買い物だって不自由しません。トランクフードはキーのボタンを押せばピッと開く。とにかく、触れていただければいいんですよ。
実は先日、取材でインテリアスタイリストの方にND型をドライブしてもらう機会があった。教習所以来のMT車だったとか。しかし、こともなげに、するするとロードスターを走らせていった…。
--そのインテリアスタイリストの方は「とにかく運転しやすい」「MT車ってこんなに簡単にドライブできるんだ!」と、いたく感心していらっしゃいました。
山本:そう、NDって、実はMT仕様でも乗りやすいんですよ。渋滞に遭っても、クラッチペダルだってそんなに重くない。違和感なく走れると思います。
--でも、その「乗りやすい」っていうニュアンスは、ありふれたクルマのそれとは違いますよね?
山本:違います。MT仕様でも乗りやすいのは、NDがきちんと熟成というか、作り込まれているからです。違和感を覚えないクルマこそが、僕たちの目指す、ある種の理想なんですよ。
実は、発売前に開催したメディア向け試乗会で「いかがでしたか?」と投げかけをした際、「ん? 何も覚えてないからもう一度乗せて」といった反応を期待していたくらいなんですよ。
それくらい違和感のない、なんにも感じさせないくらい自然にドライブできて帰って来られるというのが、人馬一体のあるべき姿。もっといえば、ロードスターの存在が消えているかのように感じてもらいたかったのです。
刺激があったり、やたら強調された面があったりというのが、ある種、スポーツカーだっていわれるかもしれませんが、これからNDに乗る方たちには、そういった(評価基準としての)物差しはいったん忘れて欲しい。これまでの体験の中で出来上がった、そんな物差しを一度置いて、心を真っ白の状態にして新しいロードスターに乗っていただければ、と思っています。
--先ほどお話したインテリアスタイリストの方は、NDに対して「何年も乗ってきたクルマのように感じた」とおっしゃりながら、いつもドライブしているかように、普通に走らせておられました。
山本:理想はまさに、それですね。「あ、乗れちゃった」、「なんの違和感もなく乗れた」、そんな言葉を僕たちは聞きたいんです。
人間が歩いている姿を想像してみてください。違和感がないっていうのは、ごく普通のことなんです。右足を出して、次に左足を出して、とかなんて、考えていませんよね? そういう状態こそがきっと、人馬一体なのです。ハンドルを切ったらフィードバックが云々、なんて、難しい言葉はいらないんですよ。
--クルマって、突き詰めればここまでドライバーと一体になれるのか、というのを実感しました。
山本:普通に乗っている時は、クルマはそういう消えた存在であるべきです。でもその一方で、スポーツカーにはキチンとドライバーと対話しなければならないような状況もあります。
クルマの状態や路面状況を把握しながらステアリングを切り、ブレーキを踏み、ステアリングを戻し、アクセルを踏み…っていう一連の動作が、サーキットを走る場合などにはあるんですよ。その時は、クルマの存在が消えてはいけない。クルマがちゃんと存在していなければならない。クルマからのフィードバックを得ながらドライバーが走る、という状態を作らなければいけないんです。
その点、NDは“消えた状態”にも“存在する状態”にも、どちらの姿にもなります。ムチを入れて走り、旋回時のGフォースが高くなれば高くなった分だけ、ドライバーに反応が返ってきます。低いGではドライバーは何も感じなくていいんです。でも、タイヤが限界に近づくと、きちんとフィードバックを得られ、ステアリングに確かな手応えがあり、これからどうなるか? という予告や予測が、しっかり感じられるようになっているのです。
新しいロードスターは、そこまでやっています。
そういう状態は、サーキット走行時など、キチッと限界まで性能を使い切るシーンを思い描いて作り込んでいます。どちらもNDの走りの世界に含まれているもの。そういうロードスターの姿も、ぜひ味わっていただきたいですね。
(文/ブンタ、写真/江藤義典、小野光陽<GoodsPress編集部>)