■“遊びながら備える”がコンセプト
ヤマハではグループ会社のヤマハモーターエンジニアリングを介して「セロー250」をベースとした「消防活動二輪車(通称:赤バイ)」や「災害救援活動二輪車」を消防庁や企業、自治体などに向けて販売していました。バイクならではの機動力を活かし、事故や災害の現場にいち早く駆けつけられるほか、普段の巡回やパトロールなどにも活躍しています。
ただ、ギア付きオフロード車である「セロー250」がベースだと、訓練を受けた人やバイクに乗り慣れた人でないと心理的なハードルもあるようで、「もう少し誰でも乗りやすくできないか」という声もあったとのこと。そんな要望から生まれたのが「ラフロード トリシティ コンセプト」でした。
スクーターである「トリシティ125/155」をベースとしているので、乗り手はスロットルの操作に集中でき、より気軽に操れます。ヤマハ独自のLMW(Leaning Multi Wheelの略。モーターサイクルのようにリーンして旋回する3輪以上の車両のこと)テクノロジーを搭載しているため、フロントは2輪で路面ギャップの吸収性が高いのも特徴。コンセプトモデルではありますが、こんなオフロードバイクがあったら乗ってみたいという人も多いのではないでしょうか。
もともとギャップに強いLMWですが、走破性をさらに向上させるため、車高は前後とも50mmアップ。サスペンションのストローク量も高められ、アンダーカバーを交換して最低地上高もアップさせているあたりにヤマハの本気度を感じます。タイヤはブロック高めのオフロード用を履き、ホイールにはプロテクターも装備していました。
フロント周りには転倒時や倒木などから車体を保護するガードパイプを装備。スタックした車体を引っ張り上げる際や、サイレンスピーカーやカメラのマウントとしても活躍しそうです。グリップ部には飛び石から手を保護するためのナックルガードも装備されます。
大型のリアキャリアは必要に応じて救助用の機材や物資などを積載できるように作られているので、かなり多くの荷物を積めて便利そう。こんなキャリアがあったら、装着したいという「トリシティ」オーナーも少なくなさそうです。
こんなバイクにキャンプ道具を積み込んで出掛けたら楽しそう! と思ってしまいますが、実はそれがヤマハの狙い。今回の出展コンセプトは「PLAY SURVIVE 遊んで 備える」というもの。災害時に必要となる機材などに、普段から遊びを通して触れておくことで、いざというときに操作方法がわからないといった事態を防げるという考え方です。
同社では災害時などに使われる発電機なども販売していますが、年に1回の防災訓練のときに動かす程度で、いざというときに使えるか不安という声もあったとのこと。それなら遊びを通じて使い方を身につけておこうというのがコンセプトが生まれた理由で、ブースには防災倉庫をイメージしたコンテナも展示されていましたが、こんな防災倉庫なら普段から遊びに行きたくなりそうな空間に仕上がっていました。
このコンセプトに沿ったボートも出展されていました。「RS-13」という洪水救難艇のコンセプトモデルはスクエアな形状が特徴。船首にスロープを装備し、そこから乗降できるほか、救助も行いやすいとのこと。スロープを使って乗り降りできるので、災害時に逃げ遅れやすい車椅子ユーザーもスムーズに乗れるのもメリットです。
船体の内側と外側にはトラックレールが装備されており、ここにさまざまなオプションパーツを装着可能。ベンチやラダー、キャリーハンドルなどを装着して用途に応じてカスタマイズできるのも特徴です。こうした形状のボートは、これまで国産ではなかったとのこと。実は釣りなどの用途にも使いやすいので、普段は遊びで、災害時には救難艇として活躍するという使い方を想定しています。
普段から遊びながらキャンプ体験などをしておくことが災害に備えることにもつながるというのは、近年アウトドアの分野でも聞かれるようになっています。ちなみにヤマハでは“防災ライダー FIST-AID”というwebプロジェクトも展開しており、ライダー視点での防災や事故対応の知識を数多く掲載しています。遊びながら、こうした知識を身につけておくことによって、災害に備えることにつながるかもしれません。
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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