■まさかのホンダ製となっているヤマハ「ジョグ」
ヤマハのスポーツスクーターの代名詞的な存在となっていたのが「ジョグ」。初代モデルの登場は1983年と早く、その後に登場する多くの国産スクーターに大きな影響を与えたともいわれています。最高出力は当時としてはハイパワーな4.5PS。車重はわずか49kgでキビキビした走りで市場に衝撃を与えました。
1987年には2代目に進化。エンジンも6PSにパワーアップ。翌年には“ジョグスポ”なんて呼ばれたスポーツエディションも追加されます。
“走り”の性能はアップしますが、このころからやや人気に陰りが。その理由は1986年から原付でもヘルメットの装着が義務化されたこと。縦型エンジンを積んだ「ジョグ」はメットイン機構を備えていなかったのです。ただ、この縦型エンジンはパワーアップが容易で、当時盛んだったスクーターレースでは人気を維持していました。
1989年にはエンジンが横型となり、待望のメットイン機構を備えたモデルが登場。
エンジン出力は6.8PSとなり、”走り”の性能も向上しました。今見てもスタイリッシュでシャープなデザインもあり、一気に人気を取り戻します。
そして「ジョグ」シリーズの中で、ひとつのピークだったといえるのが1994年に登場した「ジョグZR」。最高出力は原付一種クラスの上限である7.2PSを発揮していました。
フロントディスクブレーキに、リアスポイラーと当時の“小僧”の心を掴むアイテムをフル装備。「ジョグ」といえば、このモデルを思い出す人も多いのではないでしょうか。
そんな「ジョグ」も2007年に排出ガス規制に対応するため、4スト化。最高出力は4.2PS(のちに4.5PS)にダウンします。マイナーチェンジを挟みながら2017年まで生産されますが、原付スクーター人気の低迷もあって、ヤマハはついに自社での生産を断念しました。
そして生まれたのが、2018年に登場した現行の「ジョグ」です。
このモデル、実はホンダ製のOEMで、外観こそ変えられていますが、中身はほぼホンダの「タクト」。2016年にホンダとヤマハが原付一種の一部車種について業務提携したことから実現したことですが、こんな時代が来るとは1980年代には想像もできませんでした。
■独立車種「ZZ」に進化したスズキ「セピアZZ」
スズキのスクーターで、当時の“小僧”たちに圧倒的人気を誇ったのが「セピアZZ」。「ZZ」と書いて「ジーツー」とすんなり読めるのは、その頃を知る人たちでしょう。発売は1990年で、それ以前に“走り”系のスクーターとして人気があった「Hi-UP(ハイアップ)」の後継車種として登場しました。
ベースは「セピア」ですが、そちらは覚えてていなくても、「セピアZZ」の尖ったスタイルは記憶に残っている人が多いはず。エンジンの最高出力は7.0PSで後に自主規制上限の7.2PSまでパワーアップ。メットイン機構を備えながら、リアスポイラー(のちにハイマウントストップランプも装備)やフロントのディスクブレーキを備え、当時の憧れ装備が“全部入り”の状態でした。
このモデルの人気が高かったため、2000年には「ZZ」という独立車種に進化します。7.2PSを発揮するエンジンは受け継がれ、ハイマウントストップランプを内蔵したリアスポイラーももちろん装備。エアインテークを備えたフロントカウルの先端にもスポイラーを装備していました。正立式のフロントフォークにはゴールドのアルマイトも施され、6本スポークのキャストホイールを採用するなど、今見ても凝った作りとなっています。実際に完成度も高く、人気もありましたが、排出ガス規制の強化によって2007年に生産が終了に。残念ながら後継モデルもリリースされず、「ZZ」の血統は途絶えてしまいました。
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ちなみに筆者は、人づてにミッション付きの50ccを安く譲ってもらい(こちらも懐かしい「NSR50」でした)、今回紹介したスクーターを所有することはなかったのですが、当時毎日のように雑誌で眺めていたスタイルは今でも鮮明に思い出すことができます。今でも購入できるのならば、足代わりに欲しいと思うくらい。
原付一種の販売台数が、全盛期の10分の1以下にまで減ってしまった現在では難しい話でしょうが、電動でもいいので、当時のように各メーカーが競ってこういう元気のいいモデルをリリースする時代が来れば…と夢想してしまいます。
<文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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