■トール系ハッチバックの先駆け
右側は運転席のドアのみ、左側は助手席と後部座席のドアを配置という左右非対称デザインを採用したS-MX。アルミ加飾でギラつかせる現代のミニバンのような派手さはありませんが、睨みを利かせたフロントマスクは押し出し感があるものでした。
ステップワゴンがベースということもあり、全高は1750mm(FF)とかなり高め(ただし1830mmあったステップワゴンよりは低くなっています)。一方で全長は3950mmとかなり短め。スライドドアこそ付いていませんが、S-MXはソリオやルーミーといったトール系ハッチバックの先駆け的な存在だったと言えるでしょう。
2WDと4WDのほか、ローダウンというカスタムグレードを設定。ローダウンは専用サスペンション搭載で2WDの標準モデルより車高を15mm下げ、天然単結晶ダイヤ切削加工を施したアルミホイールが標準装備に。フロントとリアには専用アンダースポイラーを装着して迫力が高められました。
ちなみに4WD車は2WD車より車高が15mmアップ。4WDシステムは当時のホンダが各車に搭載していたデュアルポンプ式になります。
搭載エンジンは初代ステップワゴンと同じ2L直4DOHCで、最高出力は130ps、最大トルクは18.7kg-m。ステップワゴンより車両重量が100kg以上軽いこともあり、スポーティに走れるモデルに仕上げられていました。
ローダウンはギアレシオが標準モデルに対して7.2%ローのほうに振られています。ATの変速も専用セッティングになっていて、車体をグイグイ引っ張る気持ちいい加速感を味わえるようにチューニング。さらに排気音も専用チューニングされていて、気持ちいい重低音を感じながら走ることができます。
■車内は気の利いた小物置きまで用意されたベッドに早変わり
そんなS-MX最大の特徴は車内空間にありました。
運転席下に燃料タンクを設置することで広大な居住空間を確保する“センタータンクレイアウト”登場前からホンダが得意としていた“低床フラットフロア”を活かし、コンパクトながら大人4人がゆったり座れるスペースを確保。シートは前後ともベンチシートなので、前席でもゆったりできるし、助手席に座る恋人との間を仕切るものが何もない。カップルをターゲットにしたモデルとして、ベンチシートは欠くことのできないアイテムだったのです。
また、1990〜2000年代初頭はどれだけ多くのシートアレンジができるかがクルマの宣伝文句になった時代。中でもシートをフルフラットにできることは大きなウリになりました。
でもほとんどのクルマは座りやすいようにシートがラウンドしているため完全なフルフラットにはならないし、運転席と助手席の間に隙間があるのでゆったり寝られないという問題がありました。
前後ともベンチシートで背もたれや座面がほぼフラットだったS-MXは、シートをフラットにすると車内一面がフラットなベッドになります。
後席の側面(つまりシートをフラットにした際の枕元)にはボックスティッシュがすっぽり収まる照明付きのトレーが用意されていました。まさに恋愛仕様! この機能から「走るラ●ホテル」と呼ばれることもあったほど。
1999年9月のマイナーチェンジでは、標準仕様を4人乗りから5人乗りに変更されました。これにより前席がベンチシートではなくセパレートシートに変更されています。
また、後席もフラットな背もたれではなく分割可倒式でそれぞれに左右のサポートが付いたものになっています。これにより機能性は高まりましたが、フルフラットのアレンジにしたときに凸凹と隙間が生まれてしまいます。ちなみにローダウンには従来どおりの前席ベンチシート(4人乗り)が継続設定されていました。
■恋愛仕様は車中泊にもピッタリ!
若者たちの恋愛をサポート(?)する機能が満載だったS-MX。これは見方を変えると現在の車中泊ブームで求められる機能が詰まった旧車と捉えることもできます。
マットを敷かなくても大人がゆったり寝れるフラットな空間が簡単に出現するし、小物を置く場所にも困りません。しかも背が高く側面が切り立ったボディデザインにより、車内の圧迫感が少ないことも、車中泊時の快適性に繋がります。スペースは広くないですがフルフラットにした際もシート下に荷物が置けるスペースが確保されています。
デビュー時はローダウンが人気でしたが、車中泊車としてS-MXを選ぶ場合はローダウンではなく標準モデルがオススメ。車高の低さは未舗装路を走る際には不利になりますし、ローダウンの専用サスペンションは乗り心地が硬めなので、ロングドライブでは疲れてしまいそうです。
エアロがついていないスタイルも今となってはバンのように適度なユルさがあって魅力的に見えます。
S-MXの中古車を調べてみると、標準車とローダウンの比率はだいたい1:1なのですが、流通量が極めて少なく(2022年6月時点で15台)、しかも後期型が中心となっています。ベンチシートがついた標準車はほとんど流通していません。
前期型の標準車狙いだと根気よく探すしかありません。ただ、どれだけ待っても出てくる保証はないため、条件を緩めて探すのが現実的かもしれないですね。
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<文/高橋 満(ブリッジマン)>
高橋 満|求人誌、中古車雑誌の編集部を経て、1999年からフリーの編集者/ライターとして活動。自動車、音楽、アウトドアなどジャンルを問わず執筆。人物インタビューも得意としている。コンテンツ制作会社「ブリッジマン」の代表として、さまざまな企業のPRも担当。
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