「ハヤブサは多くのファンがいるスズキのフラッグシップですし、私自身も乗っています。ただ、走れるレースがないので、ファンの人たちにサーキットで活躍している姿を見せたいと思い、このクラスに参戦することにしました」と加賀山さんは話します。
ただし、このクラスには「鉄フレームであること」というレギュレーションが存在します。「ハヤブサ」のフレームはアルミ製なので、フレームをイチから鉄で製作する必要がありました。“鉄フレームのハヤブサ”という意味で、このマシンは“鐵隼(テツブサ)”と名付けられました。
もちろん、フレームはTeam KAGAYAMAによる手作り。鉄のパイプを1本ずつ手作業で曲げて製作されています。あえて塗装はせず、溶接跡をむき出しにした鉄フレームは、独特の迫力! カウルの形状はノーマルを思わせるものですが、こちらもワンオフで、レギュレーションに合わせてエンジンが見えるようになっています。
「アルミに比べれば重くなるし、しなりやすいというデメリットもあるのですが、鉄の特性に合わせてしなりを活かしたハンドリングを狙っています」と加賀山さんは言いますが、単にフレーム素材を変えただけでは、サーキットで勝利を狙えるマシンにはなりません。
そもそも「ハヤブサ」は高速ツーリングを視野に開発されたマシン。コーナーリング性能も決して悪くはありませんが、サーキットではバンク角も不足しますし、ホイールベースも長めです。そのため、“鐵隼”はノーマルに比べて大きくディメンションに手を加えられています。
スイングアームはノーマルより長い「GSX-R1000」用を採用していますが、ホイールベースは短縮されているとのことなので、フレームの前後長はかなり詰められています。これにより、エンジンとフロントホイールが近付き過ぎたため、ヨシムラ製のマフラーはエキゾーストパイプを作り直しているとか。ヘッドパイプもキャスター、トレールを可変式とし、セッティングの幅を広げています。
こうした車体作りができるのも、長年レースに取り組んできたTeam KAGAYAMAのノウハウがあるから。そして「KATANA 1000Rのときもそうでしたが、こういうチャレンジがチームの経験になって成長できる」と加賀山さんは今回の挑戦の意義を語ります。
■「ハヤブサ」ファンと一緒に勝利を目指す
そして、加賀山さんがこだわっているのは「ファンと一緒に勝つ」ということ。このマシン作りにも多くの「ハヤブサ」乗りから支援が寄せられたといいます。
レース当日も「ハヤブサ」で来場したオーナーには特別にバックスタンド裏の駐車場が割り当てられ、そこは歴代の「ハヤブサ」一色。100台を超える「ハヤブサ」が一堂に会している様は圧巻で、最後にはパレードランも行われました。
普段はレースにあまり興味がないというオーナーも少なくなかったようですが、これだけ多くの「ハヤブサ」乗りが筑波サーキットに駆けつけたのは、“鐵隼”プロジェクトがあったからでしょう。
レースでは、一時はトップを走行するものの、裏ストレートでスーパーチャージャーを搭載したモンスターマシン「Ninja H2R」に抜かれてしまい、惜しくも2位。しかし、わずか数ヶ月でフレームから製作されたマシンがこの順位、しかも58秒台というタイムを記録しているのは驚くべきことです。
多くのファンが詰めかけた表彰式で、加賀山さんは「ハヤブサ乗りの皆さんと一緒に勝ちたい。そしてストレートでH2Rを抜きたい!」と力強くコメント。大きな喝采をあびていました。世界最速といわれながら、レースでは活躍の舞台がなかった「ハヤブサ」が、サーキットを席巻する姿をまた見ることができそうです。
>> テイスト・オブ・ツクバ
<取材・文/増谷茂樹 写真/松川忍>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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