「RG500ガンマ」は1976年から82年までの7年連続でGP500のメーカータイトルを獲得したスズキのワークスマシンと同じく、4気筒を四角形に配置したスクエア4エンジンを搭載。日本仕様で64PS、輸出仕様では95PSを絞り出していました。当時の中型免許で乗れる「RG400ガンマ」もラインナップされ、こちらの最高出力は59PS。スペシャルカラーとして用意された「ウォルター・ウルフ」カラーは憧れの的でした。
ホンダの「NS400R」は1983年にGP500のチャンピオンを獲得した「NS500」のレプリカマシン。
その技術を投入したV型3気筒エンジンを搭載し、最高出力は59PSを発揮しています。フロント16インチ、リア17インチというホイール径や、ホンダ独自のコムスターホイールを採用している点も当時のマシンらしいところです。カラーは、ホンダレーシングカラーであるトリコロールと、ロスマンズカラーというところにもホンダの本気を感じさせます。
排ガス規制によって2ストエンジンがほぼ姿を消している現状から考えると、3メーカーからGP500のレプリカマシンが市販されているというのは信じられない状況。二度と市販されることはないでしょうから、今となっては貴重なマシンたちです。
■草レースでは今も現役
そんな貴重なマシンではありますが、元気にサーキットを走り回っているマシンもあります。
“日本一の草レース”と呼ばれるテイスト・オブ・ツクバの「D.O.R.B.A.R.ZERO−1」クラスでは、一大勢力となっており、トップ争いを繰り広げています。ハイパワーな2ストエンジンから吐き出される咆哮と白煙には、このマシンを知る世代には熱くなるものがあるはずです。
そんな「D.O.R.B.A.R.ZERO−1」クラスを制したのが、小川亨さんが駆る「NS400R」です。パワー的には劣る400ccエンジンがベースながら、パワーパイプ製のワンオフチャンバーを装備し、その点をカバー。
湾曲したスイングアームを装備し、フレームの間を絶妙に抜ける3Dに取り回されるチャンバーの形状には、2ストファンだけでなくてもグッと来るものがあります。
レースでは、ポールポジションからスタートし、一時は先行されるもののコンパクトな車体を活かしてインフィールドで抜き去ってトップに。かつては選手権レースにも参戦していた経験を感じさせるレース運びで、見事表彰台の頂点を勝ち取りました。しかも、このマシンで筑波選手権レースにも参戦しているとのこと。「まだまだ成長過程」という言葉に、マシンもライダーも速くなり続けていることを感じさせます。
■RG500ガンマは一大勢力
このクラスで最もエントリー台数が多いのが、実は「RG500ガンマ」。貴重なマシンでありながら、レースでトップ争いを繰り広げるコンディションを維持しているのは、オーナーの情熱に支えられている部分が大きいようです。また、カスタムの方向性も、今風のシルエットに仕上げられているものから、当時のカウル形状を活かしたものまで幅が広いので、見る者を楽しませてくれます。
車体からツナギ、そしてチームウェアまでウォルター・ウルフカラーで統一し、サーキットを彩っていたのが石神辰巳さんのマシン。50歳になるのを期に、レースに取り組みたいと考えて選んだのが、高校生のときに憧れた「RG500ガンマ」だったとのことです。「その頃はまだ価格も高騰していなくて、二度と出てこないスクエア4の2ストに乗ってみたくて。お世話になっているクオリティワークスで速くするためのノウハウもあるとのことで、このマシンを選びました」と当時を振り返ります。
どうせレースをするなら、昔憧れたウォルター・ウルフカラーで走りたいと、ウエアまで統一。同じクオリティワークスチームから参戦するレッドブルカラーの「RG500ガンマ」と並んで、レースの雰囲気を盛り上げていました。
最高出力は100PSをオーバーしているとのことで「全開にするのが怖いくらい」と語りますが「あの時代を知る人が喜んでくれるのがうれしい」とさらなるタイムアップを狙います。
「若い頃に憧れていたマシンでレースをしたいと思って」10年ほど前に「RG500ガンマ」でレースに参戦するようになったというのが米山健一さん。レッドのカラーが鮮やかなマシンは、スガヤのチャンバーとPWKキャブで武装し、エンジン本体にはあまり手を加えていないとのこと。タンクはホンダのレーサー「RS250」のものを加工して装着。車体の動きがかなり軽くなったとのことです。
足回りはスズキの「GSX-R1000」のものを流用。「正解がなくて、いろいろ工夫できるのが奥が深くておもしろい」と語るように、リアブレーキをフローティングにしていたり、工夫の跡が感じられます。
発売当時のシルエットを活かした外装で上位を走り、注目を集めていたのが石川重和さんのマシン。レース歴は30年になり、ずっと2ストが好きだったことから「レースができる一番大きな排気量のマシン」ということで「RG500ガンマ」をセレクトし、15年前からテイスト・オブ・ツクバに参戦しているとのことです。
マシンはスガヤのチャンバーに、TMXキャブレター、それに「GSX-R」の750と1000から流用した足回りを装備。
ロゴが刻まれたタンクはアルミ製を加工しています。「50代最後のレースで入賞できてうれしい。こんな楽しいスポーツはないので、走れる限りは走り続けます」と語るように、走り続けるためにトレーニングも欠かさないとのことです。
■RZV500Rも展示
今回のレースには参戦していませんでしたが、ブースに展示されているだけで多くの人が足を止めていたのがトシテック製の「RZV500R」。湾曲タイプのスイングアームを装着し、同店のオリジナルチャンバーで武装したシルエットは、「RZV500R」が継続して生産されていれば、こういう進化を遂げていたであろうと想像させるものです。次回はこのマシンもサーキットを駆けている姿を見たいと思わせるものでした。
1980年代のごくわずかな期間だけ市販されていたGP500レプリカのモンスターマシン。街中で見かける機会はほとんどなくなってしまいましたが、サーキットで元気に走っている姿を目にすると、今でもワクワクするものがあります。レーシングスピードでトップを競っている姿を見たければ、ぜひテイスト・オブ・ツクバに足を運んでみてください。
>> テイスト・オブ・ツクバ
<取材・文/増谷茂樹 写真/松川忍>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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