■基礎充電インフラとなる普通充電の拡大を狙う
気候変動への対応のため、世界的に普及が進められているEVですが、日本国内に目を向けると普及率はまだ1%程度。経済産業省では2030年には20〜30%(プラグインハイブリッドも含む)、2035年にはハイブリッド車や燃料電池車も含めて100%を目指しています。この目標に対してボトルネックのひとつとなっているのが充電インフラです。
充電インフラというと急速充電器をイメージする人が多いかもしれませんが、今回パナソニックが発表したサービスで主な対象としているのは、基礎充電のインフラとなる普通充電。基礎充電という言葉に馴染みがない人が多いでしょうが、EVの充電は自宅などで行う「基礎充電」、移動途中で行う「経路充電」、目的地に到着してから行う「目的地充電」に大別されます。
移動の途中でバッテリー残量が(目的地まで行くのに)足りなくなった場合に行う経路充電は急速充電がメインになりますが、基礎充電については普通充電で事足ります。むしろ、急速充電はバッテリーの劣化を早めることにもつながるため、普通充電のほうが向いているといえるでしょう。
ただ、普通充電の課金システムはこれまで普及しておらず、ホテルや駐車場などの施設に設置されているものを、施設が設定した利用料を払って使うというパターンが一般的でした。パナソニックの取り組みは、こうした状況を変革し、基礎充電インフラの整備を進める狙いがあります。
発表会の場でパナソニックの大瀧清副社長は「弊社ではEV充電器の製造・販売を行っていますが、さらに今回EVチャージャーの利用者と所有者をつなぐプラットフォームとなる“everiwa”というサービスにチャレンジさせていただきます」と話し、EVの普及拡大に取り組む姿勢を明確にしました。
■アプリを介して登録・予約・決済が可能
「everiwa Charger Share」の特徴は、充電設備を所有するホストが、その設備をEVユーザーに向けてシェアできること。設備の登録や予約、決済の操作はすべてスマホアプリで完結できます。ホストは所有する充電設備をアプリに登録、QRコードのステッカーを貼るだけで充電スポットとして活用できるようになります。追加の工事や課金システムの導入などが必要ないのが魅力です。
利用料金は1時間ごとに設定でき、価格はホストが自由に決めることが可能。ユーザー側には、ホストが設定した価格に加えて1回110円の利用料がかかります。パナソニックは利用料金の27.5%を受け取るシステムなので、残りがホストの利益となります。
この事業を推進するパナソニックエレクトリックワークス社の新規事業推進室で室長を務める玉川篤史氏によると、設定する料金や使われる頻度にもよりますが、新規に設備を導入しても数ヶ月から半年程度で元が取れるようになると想定しているとのこと。インフラ整備を後押しすることで、EVの普及を促進することがパナソニックの狙いです。
ユーザー側はアプリで利用したい充電スポットを選択し、利用する時間を入力して予約。現地に着いたらQRコードを読み込むことで充電を開始するシステムです。決済は「everiwa wallet」で行われ、ユーザーは登録した銀行口座かクレジットカードでウォレットにチャージできます。サービス利用中に起きた事故などで、ユーザーの加入している保険でカバーできない場合に備えて、損保ジャパンと共同開発した保険も提供されるなど、フォローも万全です。
また、業種や領域を越えてカーボンニュートラル実現を目指すコミュニティ「everiwa」の設立も発表。設立メンバーとして、みずほ銀行、損保ジャパン、NPO法人NELIS(ネリス)が名を連ねています。今後は、「豊かな地球を守り、次の世代のくらしの豊かさをつむぐ」というビジョンのもと、さまざまな産業を担う企業・団体とともに「競争」から「共創」、「所有」から「共有」へと、新たな価値を創造しながらカーボンニュートラルの実現を目指すとしています。
地球規模の課題である気候変動への対応策として期待を集めるEV。なぜ期待されているかというと、基本的な技術が出そろっていて、あとはいかに普及させるかというフェーズに入っているからです。その普及策のひとつとして、充電インフラの整備と使い勝手を高める取り組みは価値があるといえます。またEVは、動力源が変わるだけでなく、ガソリン車に比べてシェアリングに向いているなど、価値の転換も促されると言われていますが、新たなコミュニティの創設もそれを見据えたものでしょう。EVを巡る、パナソニックの取り組みに今後も注目したいところです。
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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