“黒”に意味がある。とある編集者のワン・ダフルライフを支える「ジャングルモック」とは

■“再現性、機能性、アメリカ発”を貫く合理的足元

【お気に入りの1足】
MERRELL
「JUNGLE MOC」

▲エディター/マーケター・田口圭介さん(人間・34歳)と愛犬のお米くん(柴犬・4歳)

ファーストコンタクトは11年ほど前に遡る。当時、ぐっさんはメンズファッション誌の編集者だった。「頭が良さそうで如才ない感じの子だなぁ」と感じた(後で知るのだが、彼の出身高校は筆者の出身校よりも偏差値が30近く上。道理で)。そんな彼がメンズファッション誌に身を置いたのは、大学を中退し、漫然とフリーター生活を送っていたときのこと。「大学時代から通っていた中目黒の古着屋LOOPのスタッフだったキノさんから、『同級生が編集部にいるから、興味があるなら編集の手伝いをしてみない?』と誘っていただき、編集アシスタントとして入りました」。

希望を胸に飛び込んだ雑誌編集の世界。新たな学びと出会いに喜びと楽しみを感じる一方、人生で1番怒られた時期でもあった。「精神的にも物理的にも鼻っぱしらを折られました(苦笑)」。とはいえ、そこは“デキる男”。入社1年経たないうちに単独でページを担当するまでに成長。この頃、とある先輩から言われた「編集者の仕事で最も重要なのは、ほかのスタッフが気持ちよく仕事をできるようにすること」という言葉は、今の彼の仕事に対する姿勢の根幹となっているとか。

さて、そんな実り多き日々も2013年の雑誌休刊とともに唐突に終わる。ぐっさんはすぐに新天地を求めて動き出す。次なるステージとして選んだのはメンズ・レディスともに多くのファッション誌を扱う出版社だった。曰く、「前職がコンパクトな編集部だった分、業界内で大きいとされる組織に属してみたいと思い入社しました」。

最初に配属されたのは、ムック本、書籍を中心とした編集部。そこではさまざまなDVD BOOKやブランドムックを手掛ける一方、今では小説家としても名を馳せる「紗倉まな」氏の初著書といった書籍の制作も。同部署に1年間所属したのち、同社の中でもヒットコンテンツであるメンズファッション誌へと移籍する。熱望していたファッション誌編集部での仕事にテンションは上がるも、大きい組織ならではの葛藤も生まれてくる。「編集として誌面作りは楽しかったんですが、ヒットメーカーとしてたびたびメディア出演する優秀な先輩が身近にいて。幅広いターゲットを相手にした企画力では勝てないと痛感して、得意と感じていた作る力をより活かせられないかと考えていたんです」。そんな折、1社目の同僚に誘われて、広告制作・デザイン会社に転職。この時、ぐっさん28歳。その歩みは止まらない。

ウェブメディアの編集者として招かれたが、彼の入社後、業務内容は多角化。企業広告やウェブサイト、カタログ、動画、ノベルティの制作、コピーライティングや商品名の考案、さらに親会社のBtoB、BtoC案件まで。そのあまりにも多岐にわたる仕事の数々を、培ってきた編集スキルを武器に次々とこなしていったぐっさん。

入社から2年経った頃には、クリエイティブディレクターの肩書きを得るまでに。やはり“デキる男”なのだ。その中でも思い出深いマイワークを尋ねた。「建築家・荒木信雄さん主宰のアーキタイプ設計事務所との仕事では、一流建築家のデザインへの姿勢から、“根幹に理のあるデザインとは何か”という問いに対する理解が深まりましたし、日本デザインセンターや6Dといったアートディレクターとの仕事では、雑誌編集視点のデザインとブランディング視点のデザインでは発想の仕方がいかに異なるかを学びました。外の世界との良い出会いに恵まれたのが、自分にとって何よりの財産になったと感じています」。

そうした新しい学びと成長の機会を求めて、退社を決意。こうして2022年7月1日に、現在の会社に転職して今へと至る。

そういえばこの男。不思議なことにいつLINEしても速攻レスがある。かねてから気になっていたので、どんな働き方なのか聞いた。「フルフレックス制なので、決まった時間内で平日1日8時間働けばOKなんです。大体9時に起床。朝風呂に入り、コーヒーを飲んで一服したのち、10時から仕事開始。そこから21時〜22時くらいまで働いて終了というのが基本の流れです。仕事内容に、“制作”と“分析”の両軸があるため、日中、制作に集中したら、夜からは分析とか、今日は制作に集中したから、明日は分析に集中するなど、自分のペースでタイムマネジメントができるのもありがたいです」。

編集者時代も日中は取材に出て、夕方から原稿を書き始めることも多かったので、そこはあまり変わらないとも。ただ唯一変わっているのが、生活を共にする愛犬の存在だ。

“お米くん”は、今年で5歳を迎えるオスの柴犬。大人しく利口で、めっぽう可愛い。1日2回、30分〜1時間の散歩も含め、常にぐっさんの傍で過ごしている。とはいえ在宅ワークの場合、仕事の邪魔にはならないのだろうか。「まったく問題ありませんし、むしろ一緒に過ごせて最高ですよ。パソコン作業中にチラッと横を見たら、寝ていたりして。その姿を見ると可愛くて癒されます。ただ、犬の一生は中型犬で長くて約15年、人間の4〜5倍の速さで時間が進みます。さらに10歳を超えた辺りから大病を患うリスクも高まってきます。そう考えると極力、お米ファーストになって当然。それは犬を飼おうと決意したときから決めていましたので」。

強い意志を感じさせる言葉とは裏腹に、終始お米くんをナデナデ、見る目はデレデレ。二言目には「可愛い」しか言わず、真剣に仕事論を語っていた男と同一人物とは到底思えない。なので、ここらで本題となるスニーカーに話を移す。

名作と名高いメレルの「JUNGLE MOC」。1998年に、運動後の疲労をやわらげるために着用するアフタースポーツ用コンフォートシューズとして誕生。その履き心地に世界中が魅了され、同社を代表する超ロングセラーシリーズとなっている。「僕がスニーカーを選ぶ際の条件が“再現性があること”。以前は、fragment design(フラグメントデザイン)のスニーカーに目がなく、国内流通のないモデルをアメリカ滞在中の友人に依頼して買ってきてもらうこともありました。ただし、好きだからこそ毎日履きたいのに、履き潰したら同じモノは手に入らない。そんな経験から、今ではもし履き潰しても買い直しやすい名作・定番と言われるモノが中心です。ジャングルモックは名作としてリリースされ続けているので安心。またアウトドアだったりミリタリーだったり、機能性とアメリカの匂いが感じられるモノが好きなので、そういう意味においても気に入っています」。

自宅の下駄箱を拝見したが、他もCONVERSE(コンバース)の「ALL STAR」やnew balance(ニューバランス)の「990」シリーズなど、定番と呼ばれるモデルばかり。なおかつ黒のスエード素材のものがほとんど。仕事について考えなくてはいけないことが多すぎるため、日常生活に割く思考のリソースは抑えたい。そうして選択肢を絞っていった結果、“再現性、機能性、アメリカ発”を追求し、ここに行き着いたというワケだ。しかも今履いているので2足目。まるでスティーブ・ジョブズのようではないか。

履き口には伸縮性を備えたストレッチバンド、ヒール部分にはループを配することで脱ぎ履きも楽チン。たしかにスリッポンは無意識下でも履けるため、脳内ストレージへの影響も心配無用。「あと極力、黒スエードシューズしか買わないようにしています。メンズファッション誌時代に取材した好きなスタイリストさんが、白スニーカーしか履かないと話していたことが頭に残っていて。僕の場合、気がついたら黒スエードシューズしか履かなくなっていました」。

しかも、この自分自身への制約と誓約を込めて設けたルールは、膨らむ物欲を抑える効果もあって一石二鳥。

また黒スエードには犬と生活を共にする者ならではの“理”がある。「うちの犬はアスファルトよりも原っぱや土埃が立つような場所、落ち葉がある場所を好んで歩きます。そんな時に黒スウェードなら汚れも目立ちにくいし、手入れも基本ブラッシングのみでOK。抜けたお米の毛が付いても視認しやすいですしね」。

また外からは見えない部分の機能性もポイント。両サイドからアッパーを包み込むように設計されたアウトソールと、エアクッションを搭載したミッドソールが、優れたクッション性とリラックス感をもたらし、快適な履き心地を生み出している。「散歩は1日2回。1回で30分〜1時間は歩くんですが。コレなら長時間歩いても疲れにくくて楽です」。

ちなみにデート以外のシチュエーションは、すべてジャングルモックで対応可能とのこと。これ以上なく合理的な一足といえる。

最後に、今どんな仕事をしているのかを改めて尋ねると、バックオフィス向けクラウドサービスのマーケターとして、潜在層・顕在層へ自社サービスの認知・比較・検討してもらうためのコンテンツ制作をしているらしい。「現職は、業務内容も環境もありがたいことに最高ですね。しっかり学びもありますし、かつ僕が今まで培ってきたスキルも生かせていると感じます」。

う〜ん、分かったような分からないような…。まぁ、人間の一生はまだまだ長い。彼との付き合いも続くだろうし、追い追い聞いていくとしますか。

>> スニーカーとヒト。

<取材・文/TOMMY

TOMMY|メンズファッション誌を中心に、ファッションやアイドル、ホビーなどの記事を執筆するライター/編集者。プライベートでは漫画、アニメ、特撮、オカルト、ストリート&駄カルチャー全般を愛する。Twitter

 

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