バイク用ヘルメットの需要が一気に拡大するのは、1970年代に着用義務が進んだ頃。
1976年には株式会社 新井ヘルメット(現アライヘルメット)が設立されます。この頃にはフルフェイスの形状も完成されており、レースも盛んになっていたことから、アライは開発やPRの場としてサーキットを選びます。国内はもちろん、海外のレースにも積極的に参加し、ライダーたちからその性能を評価されるようになりました。
「転倒しても、他社製のヘルメットだと脳震盪を起こしてすぐに立ち上がれなかったのが、アライをかぶっているとすぐにレースに復帰できるという話が口コミで広がり、多くのライダーに使ってもらえるようになりました」(アライ広報担当)
安全性の高さは、FRPを用いた堅牢な作りも大きな理由でしたが、もうひとつは丸みを帯びたシェイプにありました。
今は「R75 SHAPE」と呼ばれるタマゴ型のフォルムは、衝撃を“かわす性能”に優れ、転倒のダメージから人間の頭を護ります。さまざまな形状のデザインが許容されるようになった現代でも、アライ製のヘルメットがタマゴ型の形状を基本とし、空力パーツなどは外付け式としているのは、この“かわす性能”を重視しているためです。
まだ、バイク用ヘルメットの規格が存在しなかった時代から、アライでは独自に衝撃を検証し、事故から助かった事例を数多く調べる中で、丸みを帯びた形状で衝撃エネルギーを分散し、FRPの帽体と衝撃を吸収する発泡スチロールの内装という構造にたどり着いていたのです。
■高い安全性を担保する独自の社内基準
現在、バイク用ヘルメットの規格には、JIS規格とスネル規格が存在しますが、アライ製品のほとんどが、世界で最も厳しいといわれるスネル規格をクリアしています。
この規格は約5年ごとに基準値が更新され、少しずつ厳しくなっていきます。衝撃吸収試験では、1回目が3.06m、2回目が2.35mの高さから落下させ、内部に伝わる衝撃が基準値以下でなければなりません。
ガードレールに見立てたエッジアンプルによる試験や、尖ったストライカを3mの高さからヘルメットの上に落下させる耐貫通試験も行われます。
年を追うごとに規格が厳しくなるため、アライでは規格の基準値の半分以下の数値でも通過できることを目標とする社内基準を設けています。この基準は「アライ規格」と呼ばれ、世界中のライダーから安全性を高く評価されている理由のひとつです。
転倒時の衝撃吸収能力だけでなく、事故を防ぐために重要な視界の確保にも定評があります。
アライ製のヘルメットは多くのレーサーが愛用していますが、有名なのはロードレース世界選手権の125ccと250ccクラスでチャンピオンとなり、MotoGPクラスでも活躍したダニ・ペドロサ選手の逸話。雨のレースでアライ製のヘルメットを試したところ、シールドが曇らない視界の良さに感激し、母国メーカーとの契約を解除してアライと契約を結んだというエピソードです。