■普通なようで普通じゃない、“UNCOOL IS COOL”なその塩梅
【お気に入りの1足】
New Balance × PUNK DRUNKERS
「M996」
親方という名は、もちろんペンネームだ。本名は里見親美。祖父は東京藝術大学で彫刻科の講師を務め、父は建築系で美術館や博物館を設計・デザインする会社に勤務していたクリエイター家系のサラブレッド。とはいえ幼少期の親方少年は、好きな学校の教科は図工と体育のみ。ウルトラマンや仮面ライダーなどの特撮モノやミニカー、寺沢武一の『コブラ』のようなハードボイルドな世界観の漫画にハマっているような正しく昭和のキッズ。三つ子の魂百までなんて言葉もあるので、当時はどんな絵を描いていたのか気になって聞けば、「今でもよく覚えているのが、“僕の考える最強の阪神タイガースのユニフォーム”です」と虎キチも筋金入り。実際に選手が着て活躍する姿を妄想しながら描いたというこの経験が、「のちの服作りに繋がっているのかも」と回顧する。
その後、中・高は柔道、サッカー、ラグビー、空手と完全に体育会系スクールライフを経て、高校卒業後に待っていたのは、予備校通いの浪人生ライフ。なかなか急転直下のゴー&ストップ。「さらに短大を経て、歯科技巧士になるための専門学校に入学しました」。この長きに渡るモラトリアム学生時代が、現在の親方さんを形作ったのであろう。曰く「中学生の頃から好きなモノもずっと一緒で、ずっと中二(笑)」。とはいえ人は働かねばならぬ、飯も食えぬと歯科技工士として約1年間のラボ勤め。だがそれも長くは続かなかった。
「仕事自体、面白いと思っていなかったので辞めちゃいました。で、その技術を使って遊び半分でシルバーアクセ作りをスタート。自宅で原型を作って、週末にお金を払ってラボを借りて鋳造して、街に売りに行く。そんな毎日の繰り返しで、ほぼニート(笑)」。当時23、24歳。親からの“30歳になったら家を出て行け”というプレッシャーに耐えながら過ごすある日、モノ作りをしている仲間達とサークルを組んでデザインフェスタに参加する。「そこでシルバーアクセを出品したんですが反応はイマイチ。じゃあってことで、試しにTシャツを作ってみたんです」。
フロントに漢字で“国技”、バックにはモヒカンヘアで入れ墨だらけの力士が取り組みする横に、英語で「人生楽ありゃ、苦もあるさ」とプリントされた変テコなTシャツは、本人たちの予想を遥かに超えてバカ売れ。これをキッカケに、サークル名のPUNK DRUNKERS(パンクドランカーズ)をブランド名に掲げ、本格的にブランドとして活動するように。1998年のことである。
そして現在。千駄ヶ谷にヘッドショップを構えるだけでなく、国内外にディーラーを多数擁し、セールには行列が出来るほどに成長を遂げたパンクドランカーズ。掲げるコンセプトは“UNCOOL IS COOL”、日本語にすると“ダサイはカッコイー”。まるでトンチだが、その心は? 「キメキメの格好いい服が僕らはイヤだったので、ちょっとふざけたところを残した遊び心のある服がイイよねって。その感覚を言葉にしました」。
その言葉通り、本気なのかふざけているのか紙一重のセンスを持ち味とする同ブランドの人気を支えるのが、親方さんの手により創造された奇抜なグラフィック。なかでも代表作と呼ばれるのが“あいつ”という名のキャラクターだ。「絵を描きためているノートがあるんですが、そこにブランドを始めて4年目くらいに、Tシャツ用グラフィックとして描いたのは覚えています」。以降、その時々で姿を変えつつ増殖し、アパレルのみならずソフビフィギュアなどなど様々な形態で存在感を放っている。
先述のように国内外に熱狂的ファンを擁する親方さんの唯一無二のスタイルは、普通のアパレルブランドなら手をつけないようなネタをサンプリングし、毎シーズン“良い意味で”イカレたコラボも実現させてきた。その創作の泉はどこにあるのか。「普段、街を歩いているときも、看板広告を見てアイデアのネタを探したり、とにかく常日頃から“こんな服があったら、こんなデザインがあったら面白いんじゃないか”と考え続けています」。
書(ノート)を捨て街へ出て、仕入れたネタを独自の世界観と合体させて再構築し、作品として昇華させる。サーチ&デストロイならぬ、サーチ&リビルド。アンチテーゼへのアンチテーゼと考えれば、その姿勢は間違いなくパンクそのもの。そんな彼がなぜ、スニーカー界における定番中の定番New Balance(ニューバランス)の、それもスタンダードモデルとして知られる「996」なんて保守的なセレクトを?
「下駄箱の中で、もっとも数が多いブランドはNIKE(ナイキ)ですが、最近はもっぱらニューバランス派。中でも『996』は若い頃に何度も買っては履き潰してきたモデルなんです。最初はオールレザーのレッドだったかな。スチャダラパーのBOSEさんがよく履いていたアレですね。色は派手だけど、デザイン自体はベーシックでどんな格好にも合うので重宝しました」。1988年にリリースされた同モデル。その最大のウリが、当時最先端だったソールテクノロジーにある。耐久性の高いPU素材に衝撃吸収性に優れたEVA素材のクッションを封入したミッドソール。そこにEVA素材を圧縮成形し、クッション性能の持久力を大幅にアップさせる“シーキャップ”を組み合わせることで、革新的な安定性とクッショニングを実現。要“はメチャクチャ履き心地がイイ”ということで人気になったのだ。
親方さんが愛用する理由もそこにある。「国内外問わず出張が増えたことで、スニーカー選びの基準は大きく変わりました。昔はルックス重視でファッションとのバランス感を考慮しながら選んでいましたが、今は歩きやすさや履き心地が大事だなって。僕がやっていた柔道や空手はすり足で動くのが基本なので、足で地面を感じられるかが結構重要。そこでニューバランスの履き心地にハマったのかも。あと単純にメッチャ歩くからっていうのもあります。履き心地がもう全然違うんですよ。疲れづらいし本当に楽!」。創作活動とスニーカーが1本の線として繋がった。
しかもコチラは2019年12月に香港の「incredible gallery」というギャラリーでのイベントの際に、当地のニューバランスと一緒に作ったコラボモデルだそう。「一見すると普通の『996』なんですが、インソールに僕のアートワークがアシンメトリーで描かれています。ただ、靴の中に入れている状態だと肝心の顔が見えないので、『なんじゃこりゃ?』っていう(苦笑)」。たしかに、どれだけ覗いても下半身しか見えない…。逆に興味を持ってもらうという計算がされているような、ないような。
そういえばパンクドランカーズの服はどれも個性的だが、ファンはどのようなスニーカーを合わせているのだろうか? 「みんな自由に合わせていますよ。中には下駄と合わせている人もいたりしますし(笑)。ニューバランスの何がいいかって、履いているだけで“まともな人に見える”」。
確かに本日の装いは、一見まともに“も”見える。親方さんには中高生の娘が2人いて、父親でもある。となると、どうしても革靴を履かざるを得ない場面に遭遇してしまう。「そのときは渋々履きます(笑)。でもなんとなく誤魔化せちゃいそうなときは、真っ黒なVANS(ヴァンズ)を履いたりして、もしそれがバレても『自分、ストリートなんで』といい切ればどうにかなるかなぁって」。冗談なのか本気なのか。一見まともに見えるのが一番アブナイという先人の教えが脳裏に浮かぶ。
閑話休題。クリエイターは誰しもが、創作活動の中で大事にしていること、意識していることがある。親方さんは? 「僕は『普通だね』っていわれるのがイヤなんです。なので、“普通では終わらせないこと”ですかね。ひとクセもふたクセもあって、見た人が思わず二度見、いや三度見する。そこは大事にしているかもしれません。言葉が解らずとも通じる面白さが、パンクドランカーズらしさであり、自分らしさなんじゃないかなって」。
変わっていることを変わらず続けるのが、いかに難しいかは想像に難くない。浮き沈みの激しい世界を独力で生き抜き、今年でブランドはスタートから25周年を迎える。普通ならば後進に任せるところだが、コロナの収束に合わせるように、親方さんの活動はより活発化。
今年6月にはアメリカに渡り、ニューヨークとシカゴでイベントに参加し、さらに7月にはフィリピン、8月にタイ、10月に台湾と各国でのイベント出展が続く。そして11月には25周年のイベントが有楽町の「阪急メンズ東京」で開催される。その勢いはとどまることを知らない。まさに進撃の巨人ならぬ、進撃の阪神(ファン)。
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ブランドを四半世紀続けて、ついに親方である時間が人生の過半数を占めるようになった。昨年、別媒体のインタビューにて、これまで活動を続けてこられたコツについて尋ねた際には、「大ブレイクしてこなかったところ」と親方さん。「細く長く色んな世代の人達に認められたい」とも語った。
普通を嫌うマイノリティでありながらも、マジョリティを目指す男が履くのは、普通のようで普通じゃない「996」だったという事実。やはり、“スニーカーは、履く人物自身を物語る”という本連載のテーマは、あながち間違っていなかったようだ。
>> スニーカーとヒト。
<取材・文/TOMMY>
TOMMY|メンズファッション誌を中心に、ファッションやアイドル、ホビーなどの記事を執筆するライター/編集者。プライベートでは漫画、アニメ、特撮、オカルト、ストリート&駄カルチャー全般を愛する。Twitter
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