鉱山というハードな環境下に耐えられるように、頑丈で雨や風に強く、さらに長時間の点灯が可能なものを求めて同氏が自作したランタンがその始まりと言われています。
1893年にはフュアハンドの前身となるランタン生産施設を設立。1930年代には品質・強度の高さで世界的にも有名なショット社の耐熱ガラスをホヤガラスに採用。その耐久性、信頼性の高さはドイツ軍にも採用されるほどでした。
1950年代には「ストームランタン」という商品名で販売が続けられたと言われており、ハーマンニャー氏がオイルランタンを開発して約120年後の1989年、ついに現行の「ベイビースペシャル276」が誕生。
現在はペトロマックス社の傘下ブランドとして、20年以上形を変えずに販売され続けています。
なお、残念ながら100年以上も昔のことのため、完全な資料が残っていないということで、当時のランタンがどういう形状のものだったのかは不明だといいます。
スター商事の太田さんによると「非常にもったいないことですが、資料も少なく、我々もユーザーの皆さんに教えてもらいながらその歴史を学ばせて頂いています」とのこと。
ちなみに『ヴィンテージ フュアハンド』で検索すると、大戦以前のモデルまで出てきますのでぜひご照覧あれ。
■シンプルだからこその高耐久性
フュアハンドのランタン、その最大の特徴は耐久性です。スター商事が取り扱う全てのアイテムと比較しても、修理依頼が極端に少ないのだそう。
大戦以前のモデルが現在も使用可能品として流通するくらい壊れにくい。そもそも軍隊でも採用されるほどですからね。
その理由は、シンプルな構造。複雑なギミックはなく、あるとしても着火時にホヤガラスを動かすシリンダーハンドルと、ウィック(火をつける芯材)を上下させるハンドルくらいのもの。一般的に構造が複雑になればなるほど故障のリスクが上がるので、構造からして故障に強いといえます。
また、使用する材質にも秘密が。
使われている素材自体はトタンと同じスチール素材ですが、そこに特殊な加工を施したガルバナイズドスチールを採用しています。いわゆるアルミ亜鉛合金メッキと呼ばれる加工で、錆びにくく、耐久性が高いことに加え、加工のしやすさがその特徴。1972年にアメリカで開発された加工技術です。
このガルバナイズドスチールによって、スチール本来の剛性に加えて、錆びにくさも実現。また、長期間の使用による味のある風合い、錆び方になるのも、この特殊な加工だからこそ。
さらに、特筆すべきはホヤガラスです。うっかり割ってしまいそうなパーツですが、太田さんによれば、「ショット社のホヤガラスがまた頑丈なんです。万が一割れてしまった場合の交換品として、ホヤガラスのパーツ販売も行っていますが、1年を通してほとんど出ない印象です」とのこと。
ミリタリーリュックの外側に取り付けている人を見かけては「割れが怖くないのかなぁ」と勝手に心配していましたが、そもそも割れにくいんですね。
ちなみに、長期使用で気になるメンテナンス性についてですが、驚くほどにやることがありません。灯油、パラフィンオイル、白灯油が主な燃料になりますが、灯油で使用する場合にホヤや本体内側の拭き掃除があるくらいで、他のふたつを使用する場合はススもほぼ出ないので、やりようがないんです。
■“ハリケーン”ランタンの名は伊達じゃない
タンクに燃料を入れて、火をつけるだけですぐ使える簡単操作の「ベイビー」ですが、“ハリケーンランタン”と称されるほど、とにかく風に強い。
バーナー部分はしっかりとホヤガラスによって囲まれており、直接風が吹き込まないため、風のある環境下でも安定して使用可能です。
「それでは空気が入らなくて燃えないのでは?」とお思いの方、ご安心下さい。ランタン上部の空気孔から入った新鮮な空気が、フレーム内部を伝ってランタン下部のバーナーへ到達するため、常に燃え続けてくれます。
燃料を入れて、火をつけるだけの簡単操作からは想像できませんが、実はしっかりと計算して構成されているんですね。「あのフレームは雰囲気だけじゃなかったんだな」と思ったのは私だけじゃないはず…。
* * *
ソロキャンパー御用達のオイルランタン、フュアハンド「ベイビースペシャル276ジンク」。
「長いあいだ欠品が続き、多くのファンのみなさんにご迷惑をおかけしました」と太田さん。不運にもドイツ本国の工場が大雨の被害で稼働できず。キャンプブームも重なり品切れが続き、一時は非常に高額になってしまったことも。
現在では工場の稼働も安定しており、届いた商品については「日本独自の検査項目を設定し、全数検品をしてから出荷をしている」といいます。
焚き火に燻されながら、スモーキーなウィスキーを舐める。そしてその横には優しく揺れるオイルランタンの灯り。あぁ憧れの、ワイルドでオトコマエなキャンプ。
正直、現代のキャンプシーンにおいて、メインランタンにするには光量不足と言わざるをえません。
ですが、そのルッキンググッドなビジュアル、優しい火のゆらぎ、ロマン感じるその歴史が私たちキャンパーの気持ちをくすぐってくるのです。
最後にどうしても言いたい余談なんですが、最初の最初は、製品パッケージ無しの状態で、大きな箱に24個のベイビーがまとめて入って納品されていたとか。それでも壊れることなく日本に届いたのって、すごくない?
>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR
<取材・文/山口健壱>
山口健壱(ヤマケン)|1989年生まれ茨城県出身。脱サラし、日本全国をキャンプでめぐる旅ののち、千葉県のキャンプ場でスタッフを経験。メーカーの商品イラストや番組MCなどもつとめる。著書に「キャンプのあやしいルール真相解明〜根拠のない思い込みにサヨウナラ」(三才ブックス)
【関連記事】
◆キャンプの名脇役が誕生!? オイルランタン・アルスト・シングルバーナーの五徳や風防になる便利ギア
◆厳冬期キャンプでもオイルランタンがちゃんと点くオイルありますよ
◆ペトロマックス「HK500」の点火方法・消化方法と使い方!燃料の入れ方からマントルのから焼き、プレヒートまで
- 1
- 2