登山では、夏でも標高差による気温低下が予想されるため、その対策として、ガス燃料が持つスペックを最大限に引き出す必要がありました。そこで着手したのが「レギュレーターストーブ ST-310」の開発だったのです。
「登山という極限下では『軽量・コンパクト』はもちろんのこと、『壊れにくさ』『安定性』『操作性』といった要素がよりシビアに求められることになります。命に直結するギアですから、当然ですよね」と話すのはSOTO開発部の西島さん。西島さんは、「ST-310」の足回りや遮熱板を実際に設計したキーマンのひとり。
西島さんによれば、「不整地でも安心して使えるよう、4本足に4本五徳で設計しました。調理の最中にひっくり返ってしまうのでは、山中では致命的にもなりえます。慎重に設計を行った箇所ですね」と、安定感をかなり重要視して開発を進めたと言います。
また、「ST-310」のもうひとつの特徴である収納性の高さ。一般的な登山用シングルバーナーと比べると、非常にコンパクト!とまでは言えないものの、足と遮熱板をすべてたたむと、パーツの出っ張りなども少なくスリムに。
この収納性については、“工業製品”から着想を得ているといいます。
「工業製品の中には、例えばトイレのスライド式の鍵のように、昔から採用され続けているものが多いんですね。これは、ズバリ壊れにくいからこそ使い続けられているわけで、その構造はアウトドア製品のギミックを考える上で参考になります」(西島さん)
「ST-310」に限らず、SOTOのギアには工業製品的な格好良さや使用感を感じることも多いのですが、まさにそこから得られるアイディアが、ギアの源泉になっているからだったんですね。
個人的にこの感覚が200%味わえるのが、「ミニマルホットサンドメーカー ST-952」です。ゴツいビジュアルもハンドルの仕様も全部、「あぁぁ!まごうことなきSOTO!!ハイパーインダストリアル!!!(混乱)」と思わずにはいられない。
【理由2】カセットガス式にも関わらず、低温環境下でも安定した火力を発揮
「レギュレーターストーブ ST-310」の最大の特徴は、その名のとおり“マイクロレギュレーター”にあります。
寒い時期や登山時の低気温下では火力が不安定になる“ドロップダウン”という現象が起こりやすくなります。これはバーナーを使用する中でガスが冷え、気化しにくくなり、ガス圧が低下。その結果、火力が低下してしまうというものです。
マイクロレギュレーターはこのドロップダウンの影響を最小限にするため、火力が安定しやすく、1年を通して使っていけます。
ドロップダウン対策としては、冬用のパワーガス缶が一般的ですが、それでは夏場などの高気温下では不安定に。そこで、ギアの構造からドロップダウンへアプローチしたのがこのマイクロレギュレーターなんです。
「一般的なガスバーナーは直結したガスの圧力をそのまま利用しますので、ガスが冷えるにつれ圧力が落ち、次第に火力が落ちていきます。一方でマイクロレギュレーターは、ガスの圧力をレギュレーターで減圧し燃焼させる構造のため、寒い時期にも安定した火力をキープしやすくします」(西島さん)
例えば、満タンのガス缶の圧力を100、マイクロレギュレーターによってバーナーへ供給される圧力を50に制限したとします。そうすると、常に50のガス圧でガスが出ていくため、満タンでも残量が7割でも、同じ量のガスが供給され続けます。これは、制限した50を下回るまで続きます。これがマイクロレギュレーターが安定した火力を生み出せる原理です。
ドロップダウンに強い! 寒い時期でも使える! というのはよく聞くところですが、その仕組みはこうなってるんですね。
ちなみにレギュレーターは、プロパンガスを使用している家庭には必ず取り付けられている、昔からある器具なんだとか。
その仕組みをアウトドア用バーナーに搭載させられないかと、SOTOが独自に開発したのが、このマイクロレギュレーターということなんです。
レギュレーターをマイクロ(小型)にしたので、マイクロレギュレーター。なるほど。マイクロってなんだよって思っていた人は私だけじゃないはず。