■実は磯釣り用品から始まった異色の開発経緯
「スノーピークは元々、登山用品や釣り道具を取り扱っていたんです」と林さん。今でこそ有名キャンプブランドとして知られていますが、創業した1958年から1980年代までは、登山用品や海釣り用品で人気のブランドでした。
「パイルドライバーは『焚火台』同様、スノーピークの中でも歴史の古い商品のひとつで、その起源は磯釣り用の“磯ピトン"という道具にあります」
磯ピトンとは、磯釣りを行う際にバッカンや釣り竿を吊り下げるための金属製の棒状の道具で、磯の隙間にペグのようなものを打ち込み、そこにスタンドをセットして使います。
スノーピークも1980年代に『ジャンボピトン』という商品を販売していましたが、これが「パイルドライバー」の原型だといいます。
「これはキャンプにもぴったりだ!ということで、ジャンボピトンをベースにキャンプ用に開発したのが『ランタンスタンド』でした。1989年に販売スタートしたのですが、これがあまり売れなかったんです…」
理由はズバリ、価格が高かった。ジャンボピトンは磯釣り用なので、サビに強いステンレス製でした。“キャンプでも野ざらしになることを考れば、ステンレスの方がいいだろう"と、素材をそのままスライドして開発。
その結果、かなり価格が高くなってしまったとのこと。良かれと思ったことが裏目に出るなんて悲しい…
その後、現在のスチールにクロムメッキを施した仕様に変更したことで、価格を抑えることに成功。名称も『ランタンスタンド』から現在の「パイルドライバー」に変更し、あとは皆さんがご存知の通り、キャンプの定番ギアにまで成長しました。
「いやぁ、売れてくれて良かったです。どうしても品質にこだわってやりすぎてしまいがちなんです…(笑)」と林さん。
■パイルドライバーをより長く使うためのコツ
せっかくなので「パイルドライバー」を長く愛用するためのコツを聞いてみました。
「まず、打ち込むフィールドですね。河原や岩場のような場所は注意が必要です。打ち込めないわけではありませんが、万が一、地中にある岩に打ち込んでしまうとどうしても故障しやすくなってしまいます」
一般的なオートキャンプ場のような土や芝生、細かい砂利といったフィールドでは問題なく使えますが、上記のような場所で使用する際には注意しましょう。
ちなみに、まれに“アスファルトやコンクリートに打ち込んだはいいけど、抜けないからとグリグリこじった結果、石づきが壊れた”と、修理依頼が来るのだとか。
打ち込めちゃうからと言ってなんでもかんでも打ち込むのはやめたほうが良さそうです。
他には、「蝶ネジの締めすぎや重い物をかけすぎないというのも大事で、実際これらの修理依頼は多いですね」とのこと。
長さ調節は2箇所の蝶ネジを締めることで行いますが、強く締めすぎるとネジがバカになってしまうので注意です。物を吊るしたときにポールが下がらない程度の力加減で。
ハンガーの耐荷重は2kg。もちろん、一般的なランタンであれば通常仕様に問題はありませんが、吊るし過ぎには気をつけましょう。私の友人は、吊り下げ式のウォータジャグ(6L)を吊り下げて使用し、見事曲がっていました。そりゃそうでしょうよ。
* * *
ところで、スノーピークのギアってかっこいい名前が多いですよね。「ソリッドステーク」やこの「パイルドライバー」みたいに。せっかくなので、ネーミングについても林さんに聞いてみたところ、思っても見ない答えが。
「当時の開発担当がプロレス好きだったのが大きいと聞いています(苦笑)」
…え?
曰く、打ち込むという商品特徴からパイルという単語が最初に浮かんだそうです。そこまではよかったものの、その後の連想ゲームで、プロレス好きだった開発担当がプロレス技のパイルドライバーを思いついたのだとか。あのスノーピークがそんなことあります?
「当時、営業からは、“いやぁ…それどうなの?"と戸惑いの声が多かったようですが、結果的にこれだけ認知していただいているので、成功だったのでしょうか?(笑)」
この連載を書いていて毎回思うんですが、定番になるギアってちゃんと歴史がありますね。ずっと売れているのかと思ったらしっかり失敗を経ていたり、遊び心を感じるエピソードがあったり。ギアのヒストリーはこれだから面白いです。
>> スノーピーク
>> [連載]The ORIGIN of the CAMP GEAR
<取材・文/山口健壱(&GP)>
【関連記事】
◆焚き火台の元祖ってホント!? 一生モノとの呼び声高いスノーピーク「焚火台」人気の理由
◆謎多きブランドが手掛ける高性能LEDランタンの先駆者「ルーメナー2」誕生秘話
◆開発スタートは150年前!ドイツが誇るオイルランタン、フュアハンド「ベイビースペシャル276」
- 1
- 2