コミュニケーションの未来を創造する「KDDI総合研究所」ってどんな組織?【2】

(右)KDDI総合研究所 代表取締役所長 工学博士 中島康之さん/(左)KDDI 技術統括本部 技術開発本部 知的財産室 知財開発推進グループリーダー 後藤 守さん

■イルカの生態調査に光ケーブルの敷設技術を応用!?

--前回は、KDDI総合研究所が、衛星放送の黎明期から、現在のコンテンツ配信サービスにつながる圧縮技術の開発まで、映像ジャンルに深くかかわってこられたことをうかがいました。今回は、別の領域の研究成果についておうかがいできればと思います。

中島:映像領域以外の研究例としては“ガンジスカワイルカ”の生態調査が挙げられます。これは、KDDI総合研究所と東京大学、九州工業大学が共同で行っているプロジェクトで、水中ロボットで使用する音波・音響技術を活用し、濁ったガンジスカワに棲む絶滅危惧種のイルカの生態調査を行っています。

KDDI総合研究所インタビュー

イルカたちは人の身近なところに棲息していながら、その生態についてはあまり知られていませんでした。そこでKDDI総合研究所と東京大学、九州工業大学では、イルカ自身が発する超音波を利用し、イルカに負荷が掛からない音響観測システムを開発、生態を明らかにしてきました。

実はそこには、海底ケーブルを敷設するための技術が応用されています。ご存知のように、インターネットをはじめとする通信用として、例えば日米間の海底には、光ファイバーのケーブルが敷かれています。衛星のバックアップもありますが、最近はほとんど、光ケーブルでデータのやりとりをしています。

このケーブルを敷設する際に、数千キロメートルにおよぶケーブルを積んだ専用船からケーブルを海中へどんどん沈めていきます。

KDDI総合研究所インタビュー

浅瀬では漁船などがキズつけてしまうケースもあるので、ケーブル自体が結構太いのです。一方、深海は静かなので、細くしています。

KDDI総合研究所インタビュー

--深海の方でケーブルが細いというのは意外です。逆に太いのかと思っていました。しかし、海底ケーブルとガンジスカワイルカがどのようにつながるのでしょうか?

中島:万一、ケーブルが切れた場合は、それを引き揚げて修理しなければなりません。でも、海中ではそう簡単にケーブルを見つけられないのです。そこでKDDI総合研究所では、以前から海底水中ロボットを開発していました。船の上から水中ロボットを操作し、取り付けたセンサーで光ケーブルの状態を確認。どの辺りで切れたのかチェックできるようにしています。

KDDI総合研究所インタビュー

このロボットを操縦するために、制御ケーブルで船とロボットをつなぎたいところなのですが、制御ケーブルがあると探索範囲が限られてしまいます。そこで、水中ロボットとの通信に、我々は超音波を利用しているのです。ちょっとした雑音があると通信が切れてしまいますから、緻密な超音波の通信技術が重要になるのです。

KDDI総合研究所インタビュー

--研究所でロボット開発とは…。とても興味深いお話ですね。

中島:水中ロボットの研究を始めた頃、日本の水中ロボットの第一人者である東京大学(当時)の浦先生とお付き合いするようになりました。ある時、先生から水中ロボットを使ってクジラを調査する研究を始めませんか、と誘われたことが、生態調査の研究を始めたきっかけです。

KDDIが所有する水中ロボットで調査実験を行い、新聞に掲載されたこともあります。クジラは広い海を泳ぐので、ロボットで調査するのは大変難しいことも分かりました。その頃、インド工科大学(IIT)の教授から、絶滅危惧種のカワイルカの話を聞き、容易に遭遇できるカワイルカを研究ターゲットとしました。

KDDI総合研究所インタビュー

クジラやイルカは耳が非常に良く、超音波でコミュニケーションしています。水族館のショーなどで、イルカが「グッ、グッ」と高い音を発している姿をご覧になったことがあると思いますが、イルカたちはこの音以外に、50kHzから100kHzというさらに高い音を定期的に出しています(エサを探したり周囲の様子を把握したりするため)。なので実は、イルカたちの発する超音波を拾うだけで、彼らのいる場所や動きが分かるのです。

--ガンジスカワイルカの音を拾うために、どういった機材を使われたのでしょうか。

中島:超音波用のマイクロホンシステムです。水中に超音波のマイクロホンを何本か置き、どの辺りにイルカがいるのかを感知します。実はこれ、元々はKDDIがケーブルをチェックする水中ロボットとの通信用として使っていたシステムなのです。

そういった、ガンジスカワイルカの研究にも活用された功績が認められ、フジサンケイグループが主催する「第25回 地球環境大賞」において、フジサンケイグループ賞をいただきました。

--KDDI研究所の技術が、ガンジスカワイルカの救済にも役立ったとは驚きです。そういった技術や特許について、企業側が持つ権利と、研究開発した研究者自身が所持される権利とを、どのように区別されていらっしゃるのでしょうか?

後藤:今年2016年4月に法律が改正され、企業の研究成果として生まれた特許の権利や発明は、所有権を企業が持つことも可能になりました。改正前は法律上、すべて発明者の権利でしたが、KDDIでは発明者の権利を会社に譲渡する、という規定にしていたので、実質的に従来と大きく変わりません。これはKDDIだけでなく、大半の企業が同じような形態をとっていると思います。

一方、特許の出願・登録や実際に使われた時などは、スタッフのモチベーションを高める目的で、発明者へ報奨金などを支給します。発明の中から、企業の成長につながるものがたくさん出てくれば、KDDIとしてもハッピーですし、多くの人々もハッピーになれます。発明者も自身で発明したものが世の中の役に立てば、発明者冥利(みょうり)に尽きることでしょう。今後も、そういった価値ある発明が生まれるよう、KDDIとしても積極的にバックアップしていきたいと思っています。(完)

(文/ブンタ、写真/田中一矢)


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