■ラインナップ充実のロイヤルエンフィールド
イギリスで創業し、1950年代からインドでの生産を開始したロイヤルエンフィールド。現在はインドを拠点としており、単気筒モデルを中心にラインナップを揃えています。特に350ccの空冷単気筒を搭載したモデルは「メテオ350」「クラシック350」「ハンター350」「ブリット350」と選択肢が豊富。クルーザーの「メテオ」、クラシカルなイメージの「クラシック」「ブリット」、スポーティなハンドリングを実現した「ハンター」とそれぞれに個性を持っています。
搭載されるエンジンのボア×ストローク値は72×85.8mmで、こちらもロングストローク設計。最高出力は20.2PS、最大トルクは27Nmですが、低回転から力強いトルクを発揮する単気筒らしいフィーリングで、鼓動を感じながら走るのが気持ちいいものです。バランサーも装備されていますが、「GB350/S」に比べると少し振動が多い印象。その分、シングルエンジンにまたがっている感覚も強いといえます。
パワートレインは共通ですが、乗り味は個性に合わせて作り込まれています。クルーザータイプの「メテオ」はフロント19、リア17インチのホイールでゆったりと巡航するのが快適な構成。「クラシック」「ブリット」はフロント19、リア18インチで1950〜60年代のマシンを思わせるハンドリングとされています。前後17インチホイールを採用する「ハンター」はディメンションもスポーツ向けの設計とされており、キビキビしたハンドリングが楽しめるのが特徴。ハンドリングまで含めて好みに合わせて選べるのが魅力です。
■イタリアの血統を感じるベネリ「インペリアーレ400」
イタリア生まれのベネリがリリースする「インペリアーレ400」は1950年代の名車と言われるベネリ×モトビの「インペリアーレ」をオマージュしたモデル。シリンダーが直立した空冷単気筒エンジンに、キャブトンタイプのマフラーを組み合わせ、前後セパレートタイプのシートにはスプリングも仕込まれたクラシカルな雰囲気の強いルックスです。
エンジンのボア×ストローク値は72.7×90mmと、ロングストローク設計。最高出力は21PSとこちらも前出の2シリーズと同等のスペックです。ただ、実際に乗ってみるとフィーリングには少し違いがあります。低回転域からトルクがあって乗りやすいのは同様ですが、回転の上昇がスムーズでアクセル操作に対するレスポンスも良いので、ついついアクセルを大きめに開けていきたくなる特性。昔からイタリアンバイクは高回転域が気持ちいいと言われますが、そんな血統が感じられました。
ホイールはフロント19、リア18インチのスポークタイプで、ハンドリングは安定感のある特性。個人的には、今回紹介しているバイクの中で、2つ並んだアナログメーターなどコックピットの雰囲気も含めて「SR400」に近い雰囲気を感じたマシンでした。
■速さを感じるトライアンフ「スピード400」「スクランブラー400X」
クラシカルなルックスでありながら、水冷エンジンを搭載しているのがトライアンフの「スピード400」と「スクランブラー400X」。シリンダーには空冷風のフィンが刻まれ、丸目ライトにティアドロップ型のタンクなどオーセンティックなバイクらしい外観ですが、フロントフォークは倒立式とされているなど、トライアンフが位置付ける“モダンクラシック”らしい装備です。
ボア×ストローク値を見ても89×64mmとかなりショートストロークな設計。最高出力も40PS、最大トルク37.5Nmと、ここまで紹介してきた空冷モデルとは比較にならないハイスペックとなっています。実際に乗ってみても、パフォーマンスの違いは明らかで、軽くアクセルを開けただけで車体を強く押し出すようなパワーが感じられました。狭い街中では、アクセル操作にちょっと気を遣うくらい。単気筒モデルでも走りに妥協したくないライダー向けの特性です。
ホイール径は「スピード400」が前後17インチ、「スクランブラー400X」はフロントが19インチとなり、溝が多めのタイヤを履くなど未舗装路も想定したスクランブラー的な装備となっています。価格は「スピード400」が69万9000円、「スクランブラー400X」が78万9000円と思ったよりも差があります。
■KTMらしい走りが味わえる「390 DUKE」
今回紹介する単気筒バイクの中でも異彩を放っているといえるのがこちら。「DUKE」シリーズはKTMの中ではネイキッドに分類されていますが、個性的な外観でいわゆるストリートファイターといったほうがしっくりくる人は多いでしょう。オフロードカテゴリーで活躍してきたKTMが、そのエンジンを使ってロードモデルに進出する契機ともなったシリーズです。
ここまで紹介してきたモデルは、シンプルでオーセンティックなシングルマシンの特徴にフォーカスしたものでしたが、「390 DUKE」はそんなルーツもあって、かなり“走り”に注力したマシン。外観も近未来的でアグレッシブなものですが、エンジンも最高出力45PS、最大トルク39Nmとかなりハイパフォーマンスです。ボア×ストローク値は88×64mmと、もちろんショートストローク。フィーリングも単気筒の鼓動感よりも、ガンガン高回転まで回るアグレッシブな特性です。
足回りもWP製の倒立フロントフォークとリアのモノショックと、性能重視のセレクト。鋼管トレリスフレームも2024年モデルでフルモデルチェンジされ、さらに剛性を高めています。コーナーを曲がる楽しさは、シングルマシンというよりアップハンドルのスポーツマシンという印象で、単気筒のフィーリング云々ではなく、軽さとスリムさのためにシングルシリンダーが選ばれているといったほうがいいでしょう。
■モダンなネイキッドのハスクバーナ「ヴィットピレン/スヴァルトピレン401」
上記の「390 DUKE」と同じフレーム、エンジンを採用している兄弟モデルがハスクバーナの2車種。「ヴィットピレン401」がスポーツネイキッド、「スヴァルトピレン401」はややスクランブラー的な装備とされたモデルです。個性的なシルエットのタンクを基調とするデザインは、どこか北欧的でスウェーデン生まれのブランドであることを思い出させます。
エンジンのスペックは「390 DUKE」と同様ですが、乗った印象は驚くほど異なり、着座位置が前方のKTMに対して、ハスクバーナの2車種は後ろ寄りの高い位置にあることからハンドリングも異なるフィーリング。コーナーを“攻める”のが楽しかった「390 DUKE」に対して、こちらは華麗に“流す”のが似合う味付けです。エンジンの印象も、こちらのほうが穏やかで街乗り向きに感じるのが不思議なところでした。
以前の「ヴィットピレン401」はセパレートハンドルで前傾がキツかったのですが、2024年モデルからはアップタイプのハンドルに。その分「スヴァルトピレン401」との違いはハンドルの高さくらいになっているはずが、この2車種でもハンドリングの印象は異なります。スポークホイールにスクランブラー的なタイヤを履く「スヴァルトピレン401」の方が、オフロード車的な軽快なハンドリング。同じ車体とエンジンを使いながら、ここまで異なるフィーリングに仕上げられるということに驚かされました。
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冒頭で書いたように、ラインナップが充実している400ccクラスの単気筒モデルですが、乗り比べてみるとそれぞれに個性があり、乗り味も違うことが実感できます。大きく分けると、空冷モデルと水冷モデルがスペック値にあらわれているように性能差があるので、フィーリング重視であれば空冷を、走りの性能を求めるのであれば水冷を選ぶほうが良さそうです。シングルエンジンのバイクは一時期、国内での選択肢が非常に限られていましたが、ここにきて選ぶ楽しみが味わえるほどのラインナップが揃ってきたのは、バイクファンにとってはうれしい限りです。
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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