なかでも個性的なのはモトグッツィ。縦置きのV型2気筒エンジンとシャフトドライブという組み合わせにこだわり続け、ほかにない独自の世界を構築しています。特に空冷ユニットを搭載する「V7」シリーズは、OHVというバルブ駆動方式を採用していることもあって、現行モデルであっても旧車のような乗り味を実現しています。
BMWのバイクに搭載される“ボクサー”と呼ばれる水平対向エンジンも個性が強いパワートレインです。向かい合って動くピストンがお互いに振動を打ち消すため、不快な振動が少なく、低重心というメリットもありますが、左右にシリンダーが張り出した独自のルックスも魅力のひとつでしょう。また、クランクが車体に対して横向きに回転するため、回転慣性の影響を受けにくく、左右にバンクさせる動きが非常に軽快というのもメリットです。
■クランク角によっても乗り味が異なる
同じ並列式であっても、フィーリングや乗り味が異なるのも2気筒ユニットの魅力。空冷と水冷でもフィーリングは違いますが、それ以上に影響するのがクランク角と呼ばれる2気筒の爆発間隔です。4ストロークエンジンはクランクが2回転(720°)回転する間に1回爆発しますが、2気筒エンジンは2つのシリンダーの爆発間隔を変えることで、フィーリングやトラクション性能などを変化させられます。
2気筒エンジンのクランク角は、等間隔で爆発する360°、不等間爆発の180°、270°の3種類に大別できます。360°クランクのマシンは現行モデルでは実は少なく、国産ではカワサキの「W800」くらい。等間隔で爆発するので、スムーズで安定した出力を発揮できるのがメリットですが、左右のピストンが同じ動きをするので振動が大きくなってしまうため、高回転は苦手な傾向があります。
360°クランクのデメリットを解消するために生まれたのが180°クランク。左右のピストンが逆の動きをするため、ピストンが上下する振動を低減できるのがメリットで、高回転までスムーズに回せます。ただ、左右のピストンがバラバラに動くため、エンジンが左右に振られるような振動が発生するのがデメリットです。カワサキの「Ninja 650」や「Z650/RS」などがこのクランク角を採用しています。
近年の大排気量車で主流になっているのが270°クランクです。中途半端な爆発間隔に思えますが、そのことが逆にトラクション性能を高めるのがメリットで、ピストンが上下する中でも最もスピードが速くなるゾーンがずれるので、二次振動と呼ばれる細かい振動が少なくなります。ヤマハがパリ・ダカールを走るラリーマシンに採用したのが始まりですが、今は国産から海外メーカー製まで多くのマシンで用いられています。
最近の270°クランクは、エンジンのパルス感も伝わってきて、その割に高回転まで回るいいとこ取りのような特性。このエンジンの面白さも、2気筒マシンが増えている理由のひとつかもしれません。クランク角の違うエンジンに乗ると、そのフィーリングの違いは顕著に感じられるので、それを味わってみるのも楽しいでしょう。
■本気のスポーツマシンも選べる
2気筒エンジンが発生する振動について触れましたが、現行の2気筒エンジンはすべてバランサーが装備されていて、不快な振動を感じるようなマシンはほぼありません。このバランサーも個性を作り出すのに一役買っていて、例えばスズキの「GSX-8S/R」や「Vストローム800/DE」などに搭載されているエンジンは、クロスバランサーと呼ばれる世界初の機構を採用。クランク角は270°ですが、不思議なくらい振動がなく、4気筒エンジンに近いようなフィーリングです。
こうしたフィーリングもあってか、このエンジンはフルカウルのスポーツマシン「GSX-8S」にも搭載されています。同社のスーパースポーツ「GSX-R1000R」が生産終了になった今、フルカウルスポーツとして期待されているモデルです。
ヤマハでも2気筒のスーパースポーツ「YZF-R7」を導入していて、4気筒が中心だった大排気量スポーツのカテゴリにも2気筒マシンの進出が目立ってきています。
近年人気のアドベンチャーモデルも、トラクション性能が優れていることもあって270°クランクの2気筒エンジンが中心。ホンダのアドベンチャーマシン「CRF1100Lアフリカツイン」や「XL750トランザルプ」も270°クランクの並列2気筒です。
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様々なエンジン形式が選べ、そのフィーリングや乗り味も個性豊か。トルクフルで扱いやすいのと同時に、高回転まで気持ちよく回るなど現行2気筒エンジンの魅力を紐解くと、このパワーユニットがラインナップの中心となっている現状も理解できます。もちろん、4気筒エンジンに比べてコンパクトで開発・製造コストが低いこともメリット。しばらくは2気筒エンジンが主流の状況が続きそうです。
<文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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