86“KOUKI”進化の真価 トヨタ自動車 多田哲哉(3)空力が激変!“魔法”のアルミテープの謎を告白

ニュル24時間耐久レースなどで試してデータを蓄積

--86“KOUKI”の空力性能をアップさせる装備について、カタログやリリースには記載がないので、改めてここで教えていただけますでしょうか。

多田:お聞きになりたいのは、アルミテープ、のことですね? その秘密をカタログやリリースに書いても、意味不明で皆さん、混乱するだけだと思い、あえて書いていないんです(苦笑)。

--それは、トヨタ独自の技術なのでしょうか? 特許などは取得されているのでしょうか?

多田:もちろん、トヨタが特許を取得している技術です。ただし、最近出てきたものではなく、昔からずっと研究を続けてきたものです。

トヨタ 86 × アルミテープ

前期型では空力性能を向上させるために、テールランプの脇やドアミラーの付け根に“エアロスタビライジングフィン”を設けました。あれは、カジキマグロの泳ぐ姿からヒントを得たものなんです。

そして、前期型を開発する時点で、すでにアルミテープのアイデアもテストしていました。なので、前期型にも採用するかどうか、ずいぶん悩んだ挙げ句、結局、採用を見送った経緯があります。

当時から、アルミテープの効果は十分把握していたのですが、特許を取るとなると当然、理論的な検証も必要になります。また、製品化に当たっては、不具合がないかどうかの検証も必要です。そのため、ニュルブルクリンク24時間耐久レースなどで何度か試してみて、データを蓄積してきたのです。

--アルミテープの効果に気づかれたきっかけは、なんだったのでしょうか?

多田:数年前、この技術を担当しているスタッフが私のところへ持ってきて、「アルミテープを貼ってみてください!」と大真面目にいったのです。でも最初は「そんな暇はないぞ!」といって突っ返した覚えがあります。でも、彼が粘り強く勧めてくるので、半信半疑で試してみたら「あれ? これ本当にアルミテープを貼っただけなの?」とビックリ。

トヨタ 86 × アルミテープ

「では、剥がしてみますか?」といわれて外してみたら、またまたビックリ…。最初は自分でも信じられませんでした。「体調が悪いのかな?」とさえ思いましたよ。でもそこから、いろいろなテストを繰り返し、理屈をきちんと聞くことで、その効果を実感することができたのです。

--具体的に、アルミテープは86“KOUKI”のどこに貼られているのでしょうか?

多田:ハンドルコラムの奥と、フロントガラスとウインドウガラスの横、ボディの一番下といった部分に貼っています。結果的に製品化につながったのはアルミテープみたいな形状ですが、いろんな応用が効くので、実はバリエーションがいっぱいあるんですよ。

トヨタ 86 × アルミテープ

そもそも86“KOUKI”は、ボディの空気の流れをものすごく考慮して設計しているので、例えば、とある場所に貼ると逆に効果が出すぎて、すごくナーバスな走行特性になるんですよ。ステアリングを切った瞬間のクルマの動きが過敏になり、回頭性が良くなりすぎてしまう。なので、どこに貼れば効果が得られるのか、実証を繰り返しましたね。

--それだけ、走行中のクルマというのは、空気という流体に引っ張られている、ということでしょうか?

多田:そのとおりですね。しかも、ものすごく。

例えば、自転車やバイクで30km/hくらいで走る時って、ものすごい風圧をカラダに受けるじゃないですか。クルマはそれ以上、50km/hや100km/hといったスピードでいつも走っているのですから、車体にかかる風圧はすさまじいものがあります。なので、アルミテープを使い、ほんのちょっとだけ空気の剥がれ方を変えてやるだけで、走行中の安定性や回頭性が変わるんです。

トヨタ 86

ボディ形状によっては、それがものすごくプラスになるクルマもあるし、すごくナーバスな走行特性になる場合もある。どういうクルマのどんな箇所にアルミテープを貼るといいのか、というのは、膨大なノウハウに裏打ちされた結果なんですね。

--86“KOUKI”に貼られているアルミテープは、特殊なものなのでしょうか。また、給電は必要なのでしょうか?

多田:給電は不要です。基本的には放電するだけですからね。なので、アルミテープそのものにノウハウがあるわけではありません。生産性やコスト、効果などいろんなことを考えて、たまたま今回はアルミテープを使っているだけ。皆さん「アルミテープに何か魔法があるんじゃないか?」といわれます。純正パーツのアルミテープには、実はいろいろとノウハウを盛り込んであるんですよ。

トヨタ 86 × アルミテープ

--前期型にアルミテープを貼るドライバーが増えそうですね。

多田:絶対にいらっしゃると思いますよ。でも、クルマは“全体最適”が必要であって、効果的な場所を見つけるためにはノウハウが必要です。“アタリ”の部分に貼れれば効果的ですが、“ハズレ”の部分に貼ってしまうと、かえって性能が落ちてしまうので注意していただきたいですね。貼ればいいってものではありませんから。

トヨタ自動車 多田哲哉さん

本当は、どちらかというと、もともと空力性能の低いクルマに貼った方が、効果を得やすいんです。例えばミニバンなどは、広い室内を確保するためにスポーツカーみたいなカタチにはできないので、空気抵抗が大きいですし、車体の回りを流れる空気も乱れがち。それを、アルミテープのような技術でコントロールしてあげると、大きな効果を得られずはずです。逆に86は、恩恵が少なめなんですよ。(Part.4に続く)

(文/ブンタ、写真/グラブ、増谷茂樹)


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