今では当たり前の「蛍光ペン」。日本では50年前に鉛筆メーカーが開発した超画期的文房具でした

■真新しい蛍光ペンを前に、「光りすぎて目に悪いんじゃないか」といった誤解も

▲フェルトペンはやがてサインペンとして市場で絶大な支持を得るようになりました

トンボ鉛筆のフェルトペンも大ヒットに至り、さらに進化し派生商品を開発していきましたが、1970年代に入るとアメリカのケミカルメーカーから「ピラニン」という蛍光染料の売り込みがありました。

トンボ鉛筆では、試しに従来のインクにその蛍光染料を合成してみたところ、「書いた文字が光って見える」ことに驚き、大いに衝撃を受けたそうです。しかし、前例のない文房具でもあるため商品化には慎重の上に慎重を重ねたとも。

「『光って見えるペン。これは素晴らしい』という意見がある一方、『光りすぎて目に悪いんじゃないか』といった意見もあり、慎重を重ねての発売でした。発売当初の商品名は『暗記ペン蛍光』です。今から50年前の1974年のことです。

ある程度予想していた真新しい蛍光ペンに対する『誤解』は少なく、発売後間もなくして爆発的な売れ方をしたと聞いています」(トンボ鉛筆・川﨑さん)

■日本で蛍光ペンがヒット・浸透した理由は「打ち出し方」にあった

▲発売当初の「暗記ペン蛍光」のフライヤー。キャッチコピーは「暗記するペン メモするペン アンダーラインするペン」

▲「子どもや学生」に向けて打ち出したことにより、結果的に蛍光ペンは一大市場確立に至りました

実は世界に目を向けてみると、トンボ鉛筆の蛍光ペン開発より3年早い1971年に、ドイツのスワンスタビロという著名な文房具メーカーがハイライターペン、マーカーBOSSといった蛍光ペンを先立って開発・発売しています。しかし、日本におけるトンボ鉛筆の蛍光ペンほどの爆発的なヒットには至らず、この点について川﨑さんは「あくまでも憶測ですが」と前置きした上で、ある理由でトンボ鉛筆の蛍光ペンがヒットに至ったのではないかと解説してくれました。

「スワンスタビロの蛍光ペンは外観からみると、あくまでも事務用ペンとしての商品化だったように映ります。一方、私どもの蛍光ペンは、子どもたちや学生さんに向けた『暗記ペン蛍光』という名にし、『良い成績を取るための道具です』という売り方をしました。

言わば『マーケティング』をもっての売り方だったと思いますが、この辺の鼻緒のかけ方、広め方は私ども独自のものだったと自負しています。結果的に日本の他社さんも追随することとなり、蛍光ペンを一大マーケットにしたと自負しています」(トンボ鉛筆・川﨑さん)

蛍光ペンに慣れ親しんだ子どもたちがやがて大人になり、社会人になってからも事務やプライベートの場面で蛍光ペンを使い続ける今の状況を考えれば、「日本初の蛍光ペン開発」だけでなく、発売当初の打ち出し方は確かに今日まで影響を与え続ける功績と言って良いでしょう。

■紙文化減少の今でも、SNSなどでの新しいニーズも

▲発売当初は4色での展開だった「暗記ペン蛍光」ですが、後に色数が増えていきました

発売当初の蛍光ペン「暗記ペン蛍光」の色数は黄色、桃色、黄緑、橙の4色でしたが、後にさまざまな色、タイプが登場。現在のトンボ鉛筆の蛍光ペンは「マーキングペン」のカテゴリーに含まれるようになりました。「蛍コート」というブランドの商品になり、現在に至ります。

50年にわたっての浸透と合わせて進化を遂げた蛍光ペンですが、近年の「紙文化の減少」の影響はないのでしょうか。

▲今日のトンボ鉛筆の蛍光ペンは、インクをチャージできる「蛍コート」に

▲蛍光ペンはさらなる未来へ

「確かに紙という媒体を利用する文化は段々狭くなっていっていますよね。一方で、SNSなどではアナログ的な文房具を使っての投稿が注目されたりして、新しいご支持をいただくようになったとも感じています。私どもが日本で初めて開発し、浸透させたと自負する蛍光ペンですが、これからも従来とは違うカタチで一人歩きしていってくれることを願っています」(トンボ鉛筆・川﨑さん)

日本における蛍光ペンの50年を辿りましたが、ここまでの変遷や今日の浸透ぶりを考えれば、どれだけ紙文化が狭まったとしても、その存在価値はさらなる未来にも続くようにも思いました。メモの重要部分にサッとひと書きできる蛍光ペン。改めてその存在価値に注目してみてはいかがでしょうか。

<取材・文=松田義人(deco)>

松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数

 

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