デザイン案はひとつだけ
美しさに使いやすさをプラス
cado×CLYTIAウォーターサーバーは、2012年頃から、CLYTIAの発売元であるウォーターダイレクト社(WD)さんとcadoとで、二人三脚で開発してきました。自分も会議には何度も出席し、新たなウォーターサーバーに求められるコンセプトを、それこそメモレベルの段階から共有してきました。その結果、ゼロから作り上げた商品であるにもかかわらず、デザインを起こす時点で互いの見解が完全に一致していたため、実はデザイン案は1案しか提案していないんです。
cado×CLYTIAウォーターサーバーのデザインコンセプトは“人に寄り添う”。ウォーターサーバーの利便性やメリットを知っていても、まだ家庭に導入していない8割の人たちに、いかにして使ってもらうかを熟考して編み出したコンセプトです。それに伴い重要視したことは、従来のウォーターサーバーにはない使いやすさと、思わず使いたくなる美しさをいかにバランスよく融合させるか、でした。
インテリアとの調和を目指したモデルとしては、以前に私がデザインした「amadana×CLYTIAウォーターサーバー」があります。あちらは“空間に寄り添った”デザイン。今回は、全く別のアプローチを採り、美しさを犠牲にすることなく、使いやすさのプラスを目指したのです。
日本人特有の美意識に訴求
お手本は日本の細やかな家電
一般的なウォーターサーバーは、単に水とお湯が出てくるだけで、デザインやフォルム、素材などを語れるものはほぼありませんでした。使い勝手も、水がたくさん入った重いボトルを本体の上に持ち上げないといけないものばかりであり、ボトルに透明なカバーを被せるだけで、その存在を隠そうとしない。
cado×CLYTIAウォーターサーバーには、そういった“ありきたり”なウォーターサーバーとは異なる、品格や風格といったものを持たせたいと考えました。そこで選択したのが、左右シンメトリーのフォルムです。さらに、フラットな面を組み合わせることで、フォルムの美しさが際立ち、光が当たった時に浮かび上がる陰影の美しさも堪能できるデザインとしました。これにより、日本人が古来から持つ美意識に訴えかけるフォルムに仕上がったと自負しています。
もうひとつ重視したポイントは、便利で使いやすい、ということ。つまり、日本の家電のように、使い勝手を真摯に追い求めたかったのです。これまでのウォーターサーバーは、水とお湯を出すだけで、水の温度を変えるとか、お湯をさらに熱湯へ近づけるよう加熱する、といった機能は皆無でした。でも、我々のような日本のメーカーが手掛けるのであれば、やはり日本の素晴らしい家電と同様、使い勝手もハイレベルでなければ意味がないと考えたのです。
とはいえ、多彩な機能を活用するためのスイッチ類が、逆に押し付けがましいくらいに並んでいたとしたら、見た目に美しくないですし、使いたい気持ちさえ削いでしまうかもしれません。なので、毎日、日常的に使う機能のスイッチと、利用頻度の低い機能のスイッチとでは、構造やデザインを作り分けています。
例えば、出水口の真上にレイアウトした出水ボタンは、押している間は注ぐ、離したら止まる、といったアナログ的な操作感を大事にしたいとの考えから生み出されたもの。そのため、他の部分とは異なる、メタルのようなルックスにこだわりました。ちなみに、アナログ的な良さを実現するため、内部には電磁式コックを採用。そのストロークも0.5㎜以内に収まるようこだわるなど、押して注ぐ、離すとすぐに水が止まるという、レスポンスの良さも重視しています。また、水とお湯とを切り替えるホットボタンは、直感的にそれと分かるよう、カラーは赤とし、クリック感のあるボタンにしています。
一方、それ以外の操作パネルにあるモード選択ボタンは、注水ボタンと比べるとそこまで頻繁に使うものではないので、あえて存在感の薄い静電式のタッチパネルにしました。本来なら、すべて同じスイッチやボタンにした方が、コストや製造の面ではメリットが大きいのですが、あらゆる機能のボタンをすべて並列的に並べると、かえって使い勝手をスポイルしてしまいます。利用頻度の低いスイッチをあえて目立たない仕様とすることで、多機能でありながら使い勝手も邪魔しないデザインとしています。
操作パネルの角度や高さを吟味
子供もいたずらや事故も考慮
機能名の表記をすべて日本語にしたのも、人に寄り添ったデザインを目指した結果。欧文表記の方がデザイン的にはスタイリッシュな印象を与えますが、男女を問わず、幅広い年齢の方々に使っていただくことを考えると、やはり日本語の方が分かりやすく、使いやすいですからね。この点は、空気清浄機をはじめとするcadoの家電にも通じる、私のこだわりですね。
各種スイッチが並ぶ操作パネルは、操作する人が見やすいよう少し上へ傾けて配置しているのですが、その角度や操作パネルの高さは、何度もトライ&エラーを繰り返して導き出しました。プロトタイプは実際の商品と比べ、もう少し背が高く、特徴的な出水口や操作パネル部は、ステンレス調の色合いとしていました。でも、ウォーターサーバーを使っていない8割の人たちってどんな人々なのか? ということを深掘りすると、大半が女性であるとのデータが明らかになったのです。その結果を受け、日本の女性の平均身長を考慮して全高を低くすると同時に、自然に操作できるよう、パネルの角度を微調整しました。
とはいえ、背を低くした結果、出水ボタンが子供の手に届きやすい位置にきてしまうと、いたずらして床を水浸しにしたり、ヤケドなどを負ってしまう恐れも生じます。ですので、子供が見上げても視界に入らない位置と角度に出水ボタンをレイアウトしています。この点も、ほかのウォーターサーバーにはないポイントですね。
女性でも楽にセッティング
カラーラインナップにも意味がある
今回、最もメリットを感じていただけそうな部分が、ボトルを下置き型にした点ですね。一般的なウォーターサーバーのように、重いボトルを持ち上げる必要はなし。下の扉を開けて内側のボトルベースを引き出し、ボトルをセットするだけなので、非力な女性でも簡単にセットできます。
ブラック、ホワイト、ボルドーという3つのカラーラインナップにも、実はそれぞれ理由があります。まず、最も多くの人に好まれるのがホワイトであり、ブラックはある一定層に好まれる色合いです。そして、それらに対する挿し色として用意した3色目がボルドーなのです。
実は挿し色に関して、当初、ピンクはどうか? という意見もありました。しかし、ウォーターサーバー単体で見た場合、ピンクは魅力的に写りますが、実際に部屋へ置いた際に違和感を覚えたので不採用に。またボルドーに関しても、その色合いを決めるまで試行錯誤しました。赤といってもさまざまな色味があり、明るい色からブラウンに近いものまで、実に多彩。それらのサンプルを吟味し、この落ち着いたボルドーの色合いが決定しました。一見、派手に見えますが、実際に部屋に置いてみると、インテリアに馴染むんです。
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cado×CLYTIAウォーターサーバーのポイントを、子細に解説してくれた鈴木さんは、最後に「デザイナーというのは、実はコミュニケーション能力を問われる職業。グッドデザインな製品は、実はグッドコミュニケーションな製品でもあるのです」と結んだ。
「デザイナー自身が、なぜこのようなデザインにしたのかということを、一緒にモノづくりに勤しむエンジニアや、工場で働く生産現場のスタッフ、そして実際にお客さんと接するスタッフたちに対し、的確に言語化して伝えられなければ、本当にデザイナーが作りたいモノを、デザイナーの原案どおりの形で世に出すことはできないのです」。そう語る鈴木さんが全身全霊を傾けたcado×CLYTIAウォーターサーバー。使う人のことを第一に考え、随所に配慮が行き届いていたこのモデルが、日本のウォーターサーバーに新しいストーリーを刻むことだろう。
◎プロフィール
鈴木健(すずき・けん)
カドー 代表取締役 兼 クリエイティブディレクター。1996年に東芝に入社し、A&V機器を始めとするハードのデザイン、およびデザインマネージメントを担当。その後、リアル・フリートへ移籍、amadanaブランドのデザイン&デザインマネージメントを取り仕切る。現在は、自らも経営陣に名を連ねるカドーにて、家電、インテリア、家具など、多彩なアイテムのデザイン、コンセプトワーク、販売というトータルデザインを手掛ける。
(文/滝田勝紀・写真/下城英悟)
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