■“関係性”をより継続する製品づくりにシフト
ハンディカム、ウォークマン、VAIOといった製品で育った世代は“イケイケなハード”を今でもソニーに期待しがちだろう。しかし、2000年代以降、家電がデジタル化してビジネス構造が余儀なくパラダイム・シフトされた現代で、それを求めるのは難しいという。
「アップルやグーグルのように、ユーザーと1度築いた関係性をその後も継続させていく企業が躍進する時代になりました。そのため、ハード単体を売って終わり…といった過去のビジネススタイルは通用しません。そのことが、斬新でエポックなプロダクトを生みにくくしているのです」
特にスマホの普及以降、その傾向は顕著だ。そんな時代に呼応するかのように、ソニーも方向を変換。買った後もユーザーとの縁が切れずに続く“関係性の連続構築”を重視した製品開発にシフトしていると西田さんは話す。
その代表的な成功例が、デジタルカメラだ。「RX100シリーズ」は、近しい操作感やサイズ感を守りながら進化を重ねることで、既存ユーザーをいつまでも引きつけている。αシリーズは、ユーザーに買い増してもらえるようなレンズ交換やアクセサリーを拡充。さらにPS4はソフトのダウンロードに加え、ゲーム仲間の輪を広げる役割も担う。こうした志向の製品が生まれた背景には、2012年、ソニーの社長に就任した平井一夫氏(現会長)の存在が大きいと西田氏は読む。
「平井氏は、本社で家電の開発に携わってきた“本流”の人ではありません。その分『ハードだけを売ればいい時代』ではないことを承知されていました。平井氏の社長就任当時、厳しい時代を経験したソニーの会社全体としても、家電分野の中心にいた人では時代に即した製品や価値観を提示できないと認識していたのではないでしょうか」
そうした平井氏の就任を機に、ソニーは舵取りを大きく変えていっている。
▼ユーザーが慣れ親しんだ外観や操作性は大幅に変えない
ソニー
「サイバーショット DSC-RX100 Ⅵ」(実勢価格:14万4700円前後)
RX100シリーズの最新モデル。お馴染みのルックスや分かりやすい操作性はそのままに、シリ ーズ初として高角から望遠まで対応する24-200mmレンズを搭載した。旧モデルに比べてオートフォーカスの機能にも磨きが掛かり、人の瞳を素早く検出。一度捉えたら追従して逃さない。
▼オンラインによる多様な“つながり”を構築
SIE
「PlayStation 4 Pro」(実勢価格:4万5000円前後)
高画質映像でゲームをプレイ可能な、4K対応のハイエンドマシン。1TBのHDDを標準搭載し、オンラインマルチゲームのほか、体験版や追加コンテンツを存分に満喫できる。NETFLIXなどの4Kストリーミングサービスも利用可能。PS VRを含めて楽しめるコンテンツは実に多彩だ
■個人向け家電の可能性をソニーは諦めない
デジタル時代に適した体制が整いつつある中、製品にも新しい動きが見えている。「ここ数年のソニーは、ウェアラブルをはじめとする製品の新規事業に注力してきました。これは創業者時代に見られた“大きな賭け”ではなく“小さな賭け”と言えるものです」
この“小さな賭け”ができるのは、現在における平井会長ー吉田憲一郎社長の体制だからこそと、西田さんは断言する。「これまで平井会長に何度かインタビューしてきました。その中で『アーティストが10人いて、全部成功するプロデューサーはいない』というひと言が、今も忘れられられません」
平井会長も吉田社長も「当たるも八卦、当たらぬも八卦」を知るからこそ“小さな賭け”を続けていると西田さんは見る。「マーケティング調査で出てくるものではなく、開発者の情熱から突然生まれる発想の中にも、時々当たるものがあります。“何が当たるか分からないけど、やってみる。赤字になりそうならすぐにやめよう”という方針は、最近におけるソニーのひとつの変化だと思います」
さまざまなプロダクトのジャンルが飽和状態に陥り気味なコンシューマー製品の世界。BtoBのビジネスに主軸を置こうとする家電メーカーが増える中、小さくても個人向けの家電で“賭け”を許すソニーのような企業は国内では珍しい。
「個人向けの商品を諦めていないからこそ、肩乗せスピーカーやアロマスティックのような商品が出てきているのでしょう。ただしソニーのファンは、もっとエッジの立った製品を期待しているとは思いますが(笑)」