手に汗握る緊張感がたまらない「スロットカー」【夢中になれる趣味時間。】

■スロットカーはモータースポーツ

1960年代にイギリスからアメリカに渡り、プラモデルキットが爆発的ヒットした後、日本にやってきたスロットカー。これまでに何度もブームが訪れては去り、また訪れるという歴史があり、男子が一度は通った道ともいえる模型自動車の代表格だ。

それだけにクルマ好きや模型好きにとっては、憧れのホビーと言えよう。そんなスロットカーの第一次ブームが訪れた1960年代に幼少期を過ごし、スロットカーに夢中になったのがレーシングドライバーの桂伸一さんだ。

「僕は幼い頃からミニカーで遊んだり、プラモデルを作ったりしていた、クルマ好きの少年でした。いまでも覚えていますが、スロットカーが流行り始めた頃、近所の駄菓子屋がコースを設置し、そこで近所の子どもたちがスロットカーを走らせていたんです。それを見て『なんだコレ。おもしろそう』と思って。

そうしたらその後、当時僕が通っていた模型屋さんにもコースができたんです。そこに行くとスロットカーのキットがたくさんあって、箱を開けて中身が見えるように飾ってありました。クルマ好きの僕にとっては、それがすごく魅力的に映り、どうしてもスロットカーが欲しくなり、小学1年生の誕生日にホンダのS600を買ってもらったんです」

▲桂さんはCan-Amカーの他にも多数のスロットカーを所有。「現在のコレクシ ョンは20~30台くらい。本当は自宅に飾りたいけど、スペースがないんですよね(笑)」

趣味らしい趣味は昔もいまもスロットカーくらいという桂さんは、現在60歳。50年以上もの長きに渡りスロットカーを楽しんでいるが、そのやりがいや魅力はどういったところに感じているのだろうか?

「リアルに再現したマシンが実車のように動き、それを自分でコントロールしてレースすることが何よりも楽しいですね。“コントロールする楽しさ” をわかりやすく言うなら、操作がアクセルだけという単純明快なところでしょうか。

単純ではありますが、どのポイントでアクセルを緩めて減速すればいいのか? その後、どこからアクセルを開ければいいのか?といった操作だけでコーナーをクリアしていかなければならないところがスロットカーの難しさであり、おもしろさでもありますね。

長丁場のレースでも常に同じポイントで同じようにアクセルを開ける必要があるんですが、周りにライバルが来たりすると、どうしても焦ってミスをしてしまう。なのでどのような状況になっても、焦らず同じ操作を繰り返せるかが勝敗の分かれ目になるんです。これをレース中ずっと続けるのが大変で、とにかく長時間集中力が求められるんです(笑)」

▲「実車をリアルに再現したマシンを走らせるのも楽しい」と語るように、タイヤひとつとってもサンドペーパーで整形し、ロゴのレタリングも施すこだわりよう

スロットカーのコントロールはもちろん、レースで競り合うことにも楽しみを見い出している桂さん。小学生の頃、スロットカーでレースをしておもしろいと感じたことがきっかけとなり「将来は実車のレーシングドライバーになりたいと思うようになった」というが、その夢が実現してあらためて感じたのは、“スロットカーはモータースポーツ”ということだった。

「スタート前の緊張感であったり、マシンそのものの動きであったり、スロットカーがモータースポーツだと感じる瞬間は多々ありますが、そのなかでも一番はレース中の駆け引きですね。前方を走るマシンにくっついていけば、相手が焦ってコースアウトしたり、コーナリングでミスをする。ライバルとのバトルのなかで相手の強いところと弱いところを見極めて、一瞬のスキを突いてオーバーテイクをする。このような駆け引きは、実車のレースと何ら変わりません。これこそ、まさにモータースポーツなんです」

▲お気に入りのマイマシンを前にシャシーの整備を行う桂さん。お気に入りは1960年代のCan-Amカーで、その手の新製品には否が応にも目がいってしまうという

一般の人にとって実車のレースはあまりにも敷居が高い。しかしスロットカーであれば、手軽に始められる上に、手に汗握るモータースポーツの醍醐味を存分に味わえるのだ。

▲取材日当日に開催されたナイトレースにプライベート参戦した桂さん。「スロットカーでも何でも、やっぱり勝敗を決めないと(笑)。負ければ悔しいと思うし、勝てばその喜びをもう一度味わいたいと思いますから」

 

レーシングドライバー 桂伸一さん
アストンマーチンのワークスマシンを駆り、ニュルブルクリンク24時間レースで優勝するなど、輝かしい戦歴をもつレーシングドライバー。COTY(日本カー・オブ・ザ・イヤー)、WCA ワールド・カー・アワードなどの選考委員も務める。

【次ページ】スロットカーは1/32と1/24の2種類

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