しかし、当時はモデルチェンジ後で、ベゼルは黒一色に変わっていた。必死に探し回り、ペプシカラーを見つけたという。
「価格は約40万円。結構頑張って買いました(笑)。このロレックスをきっかけにして、機械式腕時計の魅力を知り、買い集めるようになりました」
当初は、さまざまなブランドの歴史やエポックメイキングな技術革新などに興味を持ち、少しずつ買い揃えつつ、時計を “愛でる” ことで満足していた。しかし、次第に “手を加える” 方向へと楽しみ方が変化していく。
「最初はバンド交換やケース磨きといった、いわゆるメンテナンスでした。中古で手に入れた昔のモデルをキレイにクリーニングするだけで、見違えるようになるんです。バンドも『この革バンドをメタルバンドに交換すると好みになるんだけどなぁ』なんて想像してバンドを購入し、取り替える。想像通りだったりするとすごく楽しいんですよ」
しかし、そんなメンテナンスですら物足りなくなってくる。そして最終的にたどり着いたのが “裏蓋を開けること”=ムーブメントを分解し中身をカスタムすることだった。
「時計を勉強しだすと、ムーブメントや機能に興味が湧いてきたんです。そんな時、ネットオークションで手に入れたのがセイコーの海外向け機械式ダイバーズウオッチ “ブラックボーイ”でした。このモデルについて調べていると、バンドだけでなく文字盤や針、風防、ベゼルなどカスタム用パーツが豊富にあるんです。そしてこれらを組み込むことで自分だけの時計に仕上げている人がたくさんいる。“腕時計をカスタマイズする文化”があって、それを楽しんでいる人たちがいると知った時は衝撃を受けましたね」
そして、ムーブメントだけを海外サイトから購入。手巻き機能とハック(秒針も止められる)機能が付いたオリジナルのブラックボーイを作り上げた。
「機械式腕時計って、“バネ” という古典的な動力源で完結しているところが魅力なんです。電力を使わずに用を足せるという、レガシー(遺産)的な技術が核になっているところに強く惹かれるんですよね」
最近は主に、海外サイトで販売されている変わったモデルや、ネットオークションで見つけた古い名品を入手してはメンテナンスやカスタムすることが楽しいという布瀬川さん。
「イジったあとにオークションに放出したりもするので数は減りました」と言うが、その機械式腕時計コレクションは、修理待ちを含めるといまだ60本以上。
「動くものは必ず一度は使います。だって身に着けて使うモノですからね。たしかにズラッと並べて、ニヤニヤしたりすることもありますが(笑)。ロレックスを手に入れた時は、まさに “人生の相棒だ” と思ったものですが、今となっては機械式腕時計は、良い意味で “楽しい玩具” かなと。いい大人が常日頃から身にまとっていても周りの人から白い目で見られない。こんなに愛らしい玩具は他にありません。
今はもう発売されていない歴史的モデルの不動品を手に入れて、分解しキレイに磨いて修理し組み上げる。すると、テンプ(コマのような形の部品)や歯車が動き出す。その瞬間は得も言われぬ快感ですよ」
■時計と共に増えていった愛用道具たち
■これぞまさに趣味のコックピット!
時計の分解や修理を行う自室の机は、まさに趣味のためのコックピットだ。常に手の届くところに必要なモノを置き、趣味に没頭できるようになっている。振り向けば、時計がずらりと並ぶ棚が目に入る配置になっている。
①バンドや裏蓋に付いた汚れなどを落とすために導入した超音波洗浄機。中古品をまるで新品のように仕上げるためには、細かい部分の洗浄も重要だという。
②作業時に必要となる道具類を収納しているプラスチックケース。形状に合わせてキレイに収納している。これを机に出すと趣味の時間が始まる。
③集中して作業していると、気付けば数時間は座りっぱなしということもしばしば。そこで腰に負担が掛からないように、奮発してちょっといいイスを購入。