世界に誇る高級腕時計「グランドセイコー」に魂を宿す職人たちの手仕事【CRAFTSMANSHIP】

【世界に誇る腕時計を生み出す名工の “ワザ” 】

名工の指先は0.01mm、0.01gの違いを感じ分ける。そして、気の遠くなるような精緻な技で正確な削りと磨きを施しながら、小さな部品を組み上げていく。世界でも数少ない手作業が世界に誇る腕時計を作り上げる。その職人技とも言える名工の技を見ていこう。

■名工の指先によって、数百の技が組み合わされて30数mmの小宇宙が正確な時を刻み始める

絶対的に存在し、実感しているのに実体として捉ることができない「時間」。その流れを視覚的に表現するために作り出されたのが時計だ。わずか直径30数mmの腕時計のムーブメントの中には、時を知るために張り巡らされた小宇宙が存在している。

▲削り出しの終わった地板や受けは、専門の人間の手と目によって検査とバリ取りが行われる。地味な作業の積み重ねが精度を出すために大切なのだ

機械式腕時計は、ゼンマイが解ける力を利用して歯車を動かし、テンプと呼ばれる部品が規則正しい往復運動を繰り返すことで針が一定の速度で動くようにコントロールされている。

電子部品を使用しない、この伝統的な仕組みで、現在グランドセイコーに使用されている9S系のムーブメント場合、平均日差+5~−3秒という世界最高峰の精度を誇っている。それを実現するには、まず各パーツが高い精度で加工されている必要がある。そのために、地板や歯車などを加工する機材の刃も全て社内で製作している。

▲ムーブメントの土台となる地板が削り出された状態。この後ピン立て、石詰め等を組み込み、メッキなどの加工処理が施されて、パーツが組み込まれていく

さらに、組み立て時の精緻な技を実現するのが、組立師たちが使う道具と長年の経験で培った彼らの指先の感覚だ。道具は市販のものから加工したり、中には自分自身で専用工具を作り出したりする人もいるほどだ。

▲組み立て過程で職人たちが使う専用の工具。市販されているものを自分なりに加工して、さらに使いやすくする。また、人によっては、自ら作り出したものを使っていることもある

最終的な組立と調整を担当する職人は20名程度。彼らは静寂の中で顕微鏡やルーペを覗き、歯車を合わせ、バネを組み込み、調整を重ねていく。完成品は、全てが精度と防水の厳しい検査を受け、合格したものだけがグランドセイコーの名を冠して出荷されていくのだ。

▲作業台は、岩手を代表する伝統工芸、船箪笥などを製作する『岩谷堂箪笥』の特注品。組立師の体型に合わせて、S、M、Lのサイズがある。金具類も南部鉄器が使われている。また、椅子は人間工学に基づいて設計されていることで有名な、ハーマンミラーの『アーロンチェア』。長時間座っていても、極めて快適な椅子だ

 

■一つひとつの精緻な作業の積み重ねが、完全な時の器を作り上げる

ローターや受けなどは、ロールされた平らな真鍮材から自動的に規定の形状に削り出される。この時点でもかなり精度が高いカットがなされているが、この後、さらに磨かれる。

地板はコンピューターで自動制御された装置で、歯車などが組み込まれるスペースを寸分の狂いもなく削り出す。裏と表を交互に行うことによって、歪みが出るのを防いでいる。

自動の削り出し機器で製作された、地板や受け、ローターといった部品。この後にメッキがけされ、紋様を施されることで、正確で美しさも兼ねた腕時計の駆動部となる。

少し強い鼻息でも吹き飛んでしまう、最小でシャープペンの芯ほどの0.35mm径の小さなネジや、デリケートなヒゲゼンマイなどをピンセットで地板に組み込む。

ネジの締め付けトルクの少しの違いでも、駆動に誤差が生じる。熟練の組立師の場合、指先の感覚だけで合わせることができ、トルクドライバーで計測しても寸分も違いがない。

ムーブメントへの文字盤と時針と分針、秒針の取り付け。針類は、薄く細く作られているので、とてもデリケート。取り扱いには、かなり神経を使うという。

組み上がったムーブメントをケースに収める。この後、完成した製品1個ずつ、防水検査が施されて、合格したものが出荷されていく。

幾人もの加工技術者と組立師の手で魂を吹き込まれた時の器は、バンドが取り付けられて完成する。グランドセイコ ーは、磨き上げられたケースを取り扱うために、この作業も熟練が必要。

盛岡セイコー工業株式会社雫石高級時計工房
住所:岩手県岩手郡雫石61-1

>> グランドセイコー

>> 【特集】CRAFTMANSHIP

本記事の内容はGoodsPress4月30-33ページに掲載されています

 


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(取材・文/松尾直俊 写真/江藤義典)

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