ザ・ノース・フェイス「Geodome 4」が示すテントの新境地【特集「Go Nature!」】

■ザ・ノース・フェイスの歴史に連なる球体テント

▲株式会社 ゴールドウインザ・ノース・フェイス事業部エキップメントグループ マネージャー 狩野茂さん バックパックを中心に企画開発を担う。山岳用の1~2人用テントは開発してきたが、大型テントは「ジオドーム4」が初。「30年後、50年度にも、あのテントいいよねと言ってほしいですね」

「ジオドーム4」の開発が始まったのは、2015年。ミーティング時に狩野さんが「球形のテントを作りたい」と発表したことがきっかけだった。

「元々ギアっぽいものが好きだったんです。だからテントも好きでした。テントって、なぜか物欲をそそられるんですよね(笑)。4~5年前に山岳用テントは手掛けていたんですが、ちょうどキャンプカルチャーが盛り上がってきたこともあり、ファミリー用のテントが作りたいなと。

でも、ドーム型やモノポールなど、よくあるテントの焼き直しはおもしろくない。“美しくアートなテント” を作りたい。実はその時、頭の中ではすでにジオデシック構造による球体テントがいいなと思い描いていました」

ザ・ノース・フェイスは、これまでも球体のテントを開発してきた歴史がある。それが、創業者の手により生み出された「オーバル・インテンション」と、その発展形である「2メーター・ドーム」だ。

「とはいえ『2メーター・ドーム』はサミットテント(山岳遠征用)。とにかく重くて高価格。これでは普通のキャンプには過剰です。作りたいのは、日本のファミリーキャンプ向けであり、グループやファミリーに使ってもらえる4人用のテントでした」

■サミットテント並の驚異の耐風性を誇る

▲世界的な発明家、バックミンスター・フラーが手掛けたドーム型建築物を掲載した本は狩野さんお気に入りの一冊。何度も開いて見ていたという

テントを作りたいと所信表明した翌2016年の年明けから開発はスタートする。

「最初の構想段階であったのが “家のように立って活動できる天井高を確保したい”ということでした。そこで、ある大学のジオデシック構造に詳しい建築関連の研究室に相談し、一緒に開発することになりました。

『ジオドーム4』は高さが2.1mあります。この数字、実は建築基準法で定められている、居室の室内高2.1m以上というところから決まったものです。キャンプのテントって寝るだけですよね。でも、中で他のこともできるぐらい快適な空間にしたいなと。中に入ると、上に空間が広がっていて開放感があるものがいい。それが2.1mの決め手でした」

ドーム型テントの場合、内部の端は高さがないため、ある意味デッドスペースと化し荷物置き場などになりがちだ。球体であったとしても、半分に切った形では端が使いづらいことにはかわりなく、さらに床面積も広くなる。そこで考え出されたのが、球の真ん中部分よりさらに下で切り取った形だった。

「これなら内部スペースがすべて有効に使えます。しかし気になるのは耐風性でした。丸いテントって転がるイメージがあるじゃないですか。そこで、サンプルをテントポールの世界的メーカーであるDAC社の実験施設に持ち込み、風洞実験を行ったんです。1回目は秒速20mの風で少しゆがみました。2回目は秒速26m。時速でいうと100km近い風圧に耐えたんです。DAC社によると、一般的な遠征用テントで20mを超えると優秀とのことだったので、満足いく結果が出たなと」

■目指したのはiPhone!誰もが簡単に設営できる

▲「2メーター・ドーム」を紹介するパンフレット。PCを持ち込んでいる様子から、山岳遠征のベースキャンプで利用していたことが分かる

耐風性と共に難問だったのが、設営しやすさだ。基本的に風に強くなればなるほど、ポールが増え設営が面倒になってくる。それではファミリーキャンプにはふさわしくない。

「『2メータードーム』はポールを12本使います。これでは立てるのが大変だし、全体の重量も重くなり価格も高くなる。そこで『ジオドーム4』はポールを6本にまで減らしました。縦に通すものが5本と、横に通すものが1本。これなら設営も簡単になるので、ファミリーでも立てられます」

そうして作られた最初のサンプルは、ポールだけで全体のテンション(張力)を保つ構造となった。しかし、設営したテントの生地を押すと柔らかい。もっとパンと張れないものか。そこで考えたのが、デザインのアクセントにもなっている紐だった。

「『ジオドーム4』を見てもらうと分かるんですが、基本的にはサッカーボールと同じ純正32面体を切った形です。五角形と三角形の組み合わせ。この五角形の中心に備え付けのポールを取り付け、面の合わさる場所と紐で結ぶ。

すると五角形の中に三角形が5つできますよね。三角形は増えれば増えるほど強度が上がるんです。この構造にたどり着いたことで、飛躍的に強くなりました。また、インナーテントとフライの間にスペースが生まれて、結露なども防げるようになりました」

しかもこのポールと紐はテント生地に最初から付けられているので、設営時には何もする必要がない。シンプルな設営方法を保ったまま、強度を上げられたのだ。立ててみると分かるが、「ジオドーム4」は想像以上に簡単に設営できる。

「テントを立てたことがある人なら、おそらく初見でも立てられます。iPhoneって説明書を読まなくても買ってすぐ使えるじゃないですか。幅広い層に使ってもらう以上は、そういうものを目指したかったんです」

狩野さんがテントに求める “美しい佇まい”。それを実現させた、テントの可能性を広げる球体型ファミリーテント、それが「ジオドーム4」なのだ。

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