■MSという新しい定義と戦記物世代を刺激したモビルスーツバリエーションMSV展開
皆川:『機動戦士ガンダム』の放送開始当時、森田さんと同じ20代前半の世代は作品に対してどんな反応だったんですか?
森田:宇宙を舞台にしたドラマやスペースコロニーの存在に、私を含む20代のSFファンは「もう絶対に観なきゃ!」という感じでした。自分も当時、20万円以上したソニーの「βマックス」を、拝み倒して親に買ってもらいました(笑)。
皆川:当時、私が強く印象に残っているのは、永井一郎さんの「君は生きのびることができるか?」という放送開始前の番宣のナレーション。何が始まるのか分らないけれど、強い期待感を抱きました。
森田:当時は情報が少ないゆえに、みんなで妄想を膨らませたところはありますよね。特に “人間同士の戦いを描く” ストーリーは、ロボットアニメ作品としてはエポックメイキングでした。それまでの作品に登場する敵勢力って、異星人やクリーチャーでしたからね。
皆川:番組が始まって第1話を観た時、まずザクの大きさが把握できなかったのを覚えています。最初2~3mくらいの装甲宇宙服ではないかと(苦笑)。
森田:それは富野監督にしたら「してやったり!」でしょうね(笑)。後に触れる副読本の『ガンダムセンチュリー』でも解説しているのですが、宇宙空間では空気遠近法が効かないので、人型のものはサイズが分かりにくくなるんです。そのため、宇宙服と思ってしまい、距離感を誤認して迎撃できなかった連邦軍がたくさんいた…という説はまぁ、後づけのでっち上げなんですけど(笑)
皆川:まるで劇中の連邦軍兵士のように〝誤認〟してしまったのは、やはり演出のすごみなんでしょうね。そいうった手法も含めて『機動戦士ガンダム』は、大人っぽかったんですよ。作品のドラマ性は、中学生が観ても恥ずかしくありませんでしたし。しかも登場するのは、ロボットではなくて、モビルスーツ(=MS)という兵器でしたから。
森田:ロボットを “モビルスーツ” と言い換えるだけで「こんなに新鮮なものになるの?」と驚きました。『マジンガーZ』以降、ものすごい数のロボットアニメが制作されていたんです。『機動戦士ガンダム』の放送当時は、スーパーロボットのアニメは飽きられるほどに “こすりつくされていた” 状況でしたからね。『機動戦士ガンダム』には新しさを感じました。
皆川:でも、今観ると、やっぱりガンダムはスーパーロボットなんですよね(笑)。ガンダムとザクのデザインも、非常によかったと思います。デザインを手掛けた大河原邦男さんが「テレビに登場するロボットは、お茶の間に受け入れやすいモチーフが大切」だと、以前話されていました。例えば、ガンダムが甲冑を着た侍のように見えるのも、そのためでしょう。
森田:ザクであれば、背広とおっしゃっていましたよね。
皆川:あの時代にいきなり兵器然としたものが出たら、MSはここまで広く受け入れられなかったかもしれません。一方で、放送後に展開が始まったMSV(モビルスーツバリエーション)の企画は、MSをまさに兵器として捉え、バリエーション豊かなデザインが生まれました。
森田:いわゆる戦記物的な展開でしたよね。第二次世界大戦の兵器プラモデルが大人気だった時代の生き残りとなる我々世代には、特にハマりました。ゼロ戦の開発史とかは、当時の男子の一般教養でしたし(笑)。そんな戦記物に慣れ親しんだ世代が、自分たちの知識をMSのプラモデルで応用できると、MSVの作り手側が気付いたんでしょうね。
皆川:『コミックボンボン』などのガンプラ特集を手掛けた安井ひさしさんたちも、まさにその世代。ガンプラを買った子供たちが自分たちなりのMSに作ってもらおうと、マーキングやカラーバリエーションを設定し、提案されていました。
森田:ガンプラの取り扱い説明書などでも、部隊によるカラーバリエーションを紹介していましたし。あの当時の子供もそれを面白がってくれる世代だったんでしょうね。