■MSの機体設定に影響を与えた関連書籍などによる考証
皆川:『機動戦士ガンダム』の放送後に月刊OUTの別冊で『ガンダムセンチュリー』という本が出版されました。森田さんも制作に関わられましたが、当時のファンには “バイブル” だったと記憶しています。
森田:位置付けでいえば、幼稚園児向けの絵本があるのに対して「いい歳したマニア向けの本」でした(笑)。作品の公式設定本ではないものの、富野監督や安彦良和さんなど制作者のインタビューを掲載していたことで、ファンから支持されたのかもしれません。
皆川:しかも『機動戦士ガンダム』を脚本した松崎さんが関わっていて、非常に変わった立ち位置の副読本ですよね。
森田:当時、アニメ本といえば徳間書店の“ロマンアルバム”でしたが、まさにアルバムの名前どおり、フィルムやセル画で各話を解説し、ファンが作品を回顧しながら読むものでした。私もいろんな作品のものを大喜びで買っていました。
皆川:作品のフィルムから読み取った解説もありました。
森田:『ガンダムセンチュリー』は回顧して楽しむアニメ本の域を超えて、作品の世界観の中で設定が弱いと感じた部分を、SFファンとして補完してしまったんです。人様の作品なのに思い上がったことですよね(笑)。時代が違って、当時だからできたコトでしょうね。
皆川:今にして思えば『ガンダムセンチュリー』は、ユーザーからのレスポンスだったと思うんです。“ファンフィクション” の部分はすごく強いですよね。
森田:まさにおっしゃるとおり。公式にしてもらいたかったわけではなくて、フィルム本編の “つじつま” を合わせる遊びだったんです。ガンダムはあの頃の作品では相当設定があったにせよ、後から作る余地がありました。そのひとつが“AMBAC”という四肢による姿勢制御技術です。周囲が面白がってくれて原稿を書きました。ただ、自分でもそのことは忘れていましたけど(笑)
皆川:のちの「ガンダムセンチネル」でも、AMBACの設定は生かされていましたよね。
森田:『ガンダムセンチュリー』の始まりは、河森正治、美樹本晴彦、大野木寛たちが作った同人誌『GunSight』なんです。その中で、後に『機動戦士Zガンダム』で設定考証も担当した永瀬唯さんが、IフィールドやエネルギーCAPなどの設定をまことしやかに、かつ詳細に書いておられました。それが巡りに巡って、みのり書房から『OUT』の別冊として出版しましょう…という流れになったと記憶しています。
皆川:『機動戦士Zガンダム』のゼータガンダムといえば、そのデザインを選定する過程において、相当多くのデザイナーが関わられたようですね。トランスフォーマーやバルキリーのような従来の合体ロボットとは異なるコンセプトの可変メカを、視聴者が受け入れたことも大きかったのでしょうね。
森田:『機動戦士Zガンダム』が放映された頃になると、ガンプラによりプラモデル市場は大きく変化していましたよね。
皆川:富野監督が『機動戦士Zガンダム』にMSVを登場させたことも、このあとの宇宙世紀作品のストーリーと、MSのデザインのターニングポイントになったと思います。
■日本だけでなく世界も仰天!年代にはMSデザインが激変する
森田:ガンダムは40年の歴史の中、時代の要請や流行に合わせて、MSのデザインや展開形態を変えていますよね。
皆川:いまやロボットの顔のデザインは、大河原さんが手掛けたMSのガンダムと、超合金を生んだプロダクトデザイナーの村上克司さんによるスーパー戦隊ロボが“双璧”です。
森田:それ以外を求めると、どうしてもニッチにならざるを得ないかもしれません。
皆川:もしくはガンダムかスーパー戦隊ロボの“バリエーション”になってしまうんですよ。
森田:MSに関しては、始まりもターニングポイントもすべてはRX-78-2ガンダムとMS-06ザクではないかと。以後のデザインはほとんど、そのバリエーションですから。そういう意味では、宇宙世紀以外の最初のガンダム作品が『機動武闘伝Gガンダム』だったことは、今考えるとよかったんでしょうね。似て非なるものを作るくらいなら、全く異なるアプローチを探る方がいいという判断もあったでしょうし。
皆川:大河原さんがテキーラガンダムを最初に描いた時にはトゲはなくて、そこに今川泰宏監督が、あのサボテンっぽいトゲを付けたという話ですよね。きっと、その時に一段、新しい次元に踏み込んでいったんでしょうね。次々に視聴者をアッと言わせるガンダムが現れましたから。
森田:『機動武闘伝Gガンダム』における各国のガンダム一覧を見た時には、思わず爆笑しましたよ(笑)
皆川:ネーデルガンダムは外国の方も笑ってましたよ。ネーデルラント=オランダ=風車で通じるものがあるんだなと。
森田:そんな『機動武闘伝Gガンダム』に登場する機体とも異なり、異色を放つのは『∀ガンダム』でしょう。ガンダムというデザインをカタチづくる“文法” のようなものが、全く異なっていました。世界的に有名なデザイナーのシド・ミードさんは、そもそもプロダクトデザインの人。しかも、ガンダムを知らない国外の人だっただけに、逆に我々が何をもってガンダムを認知しているのか、突きつけられた仕事だったんです。
皆川:けれど、立体化した∀ガンダムにポーズを付けてビーム・ライフルを構えさせると、ちゃんとガンダムに見える!
森田:面白いですよね。動くと、カッコいいし。バックショットがあんなに決まっているガンダムは、ほかにないくらい。
皆川:∀ガンダムは、振り向き美人なんです。ただ、我々はガンダムに対し、どうしても顔にこだわってしまうので『∀ガンダム』の放映当時、違和感を感じる人も多かったんですよね。
森田:アニメファンは設定画で判断してしまうところがありますから。シド・ミードさんはインダストリアルデザイナーなので成果物はあくまでも“立体”。立体物で最も効果が上がるようにデザインしています。だから、デザインを見る側にも、それなりのスキルというか、心構えが求められるんです。
皆川:面に対するこだわりも強く “人の顔” というより “人の顔に見えるもの” としてデザインされたのかと。
森田:シド・ミードさんの作業では、必ず我々のオーダーにも理由が求められました。「なぜ?」というクエスチョンが届く。そこで筋の通った説明をするたびに、あらためて気付かされることが多かったです。デザインのやりとりの際には「お願いしたのは工業製品だけど、実際はキャラクターデザインなんです」と、途中でお伝えしたこともありました。今まで漠然とやってきたことに対して、言語化することに迫られたことを考えると、∀ガンダムは、ガンダムのMSの歴史において、大きなターニングポイントだった気がします。