1. Apple「AirPods 4(アクティブノイズキャンセリング搭載)」
まずは、2024年9月に登場したアップルの「AirPods(アクティブノイズキャンセリング搭載)」(公式ストア価格:2万9800円)。Appleのスタンダードモデルとして初めてアクティブノイズキャンセリング(ANC)機能を搭載したモデルで、革新的というほどではないものの、「耳を完全に塞がないインナーイヤー型でANC」というユニークな組み合わせが、今年のワイヤレスイヤホン市場でユニークな存在感を放ったモデルです。
従来、ANC機能は耳を密閉するカナル型イヤホンが主流でしたが、この機種は開放的なインナーイヤー型の快適性を保ちながら、周囲の騒音を低減。耳への負担が少なく長時間の使用にも最適で、外を歩きながら音楽を楽しむ際にも安心感があることが魅力。周囲の音を遮断しすぎず、自然な聞こえ方を実現する点で、2024年に注目を集めた開放型イヤホンのトレンドとも共通する部分があります。
2023年にUSB-C版が登場したProモデルほどの派手さはないものの、「あえて選びたい万能型」として外せない1台として選出。開放型イヤホンの話題が多かった今年ですが、AirPods 4はアップルらしい独自の発想と完成度で市場に応えた製品と言えるのではないでしょうか。
2. JBL「TOUR PRO 3」
2024年10月に登場したJBLの「TOUR PRO 3」(実勢価格:4万2900円前後)は、“多機能フラッグシップ”という個性を際立たせた1台です。特に、ディスプレイ付き充電ケースを搭載するユニークさが目を引きますが、ケースで音楽の再生制御や通知確認ができる実用性も備えています。
音質面でも抜かりがありません。10mmダイナミックドライバーとBAドライバーによるデュアル構成で、パワフルな低音と繊細な中高音を両立。LDACコーデック対応、JBL独自のPersoni-Fi 2.0機能によるパーソナライズなども機能豊富。
選出理由は、この多機能性と音質のバランスにあります。Boseやソニーが静観する中で、独自のアプローチで市場を攻めたJBLの挑戦は、フラッグシップモデルの新たな可能性を示したと言えるでしょう。
3. Bowers & Wilkins「Pi8」
2024年9月に登場したBowers & Wilkins(B&W)の「Pi8」(実勢価格:7万2600円前後)は、据え置き型スピーカーで知られる英国の超高級ブランドが放つ完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデル。ハイエンドオーディオの音質基準をワイヤレスイヤホンに落とし込むことに成功した、音質マニアが選ぶ今年の傑作モデルです。
12mmカーボンコーン・ドライバーと左右独立のデュアルDAC、さらにaptX LosslessとaptX Adaptiveに対応し、最大96kHz/24bitのハイレゾ音源再生がポイント、ということになりますが、スペックだけを見れば似たような機種は他にもあるワケで、技術要素で語り切れない世界最高峰の音質の作り込みこそが、本当の価値です。オマケに機能面では充電ケースにはUSB-Cを介したトランスミッター機能もあります。
個人的には、2024年のイヤホン市場で「最高音質」を誇るのは間違いなくこの「Pi8」だと思っています。価格が7万円超と他社フラッグシップを越えた高額過ぎるモデルではありますが、音楽を高音質で聴く喜びは、価格分だけの価値がありますよね。B&Wが据え置きスピーカーで築いた名声を完全ワイヤレスイヤホンでも見事に体現した1台です。
4. Bose「Ultra Open Earbuds」
2024年3月に発売された「Ultra Open Earbuds」(実勢価格:3万3600円前後)は、耳をふさがないイヤーカフ型デザインを採用した、開放型イヤホン市場の新たな代表モデルです。ノイズキャンセリング技術でトップブランドとして知られるBoseが、真逆ともいえる「開放型」に挑戦したこと自体が、今年の大きなニュースと言っていいかもしれません。
製品自体の完成度も優秀です。耳を塞がないだけでなく、イヤーカフ型という新しい装着スタイルの提案が重要で、長時間装着しても疲れにくい快適さを確保するとともに、音漏れをキャンセルする独自技術も搭載。また、耳を開放しているにもかかわらず、Boseらしい豊かな低音とクリアな中高音域を再現。耳をふさがないイヤホンの中でも、音質の高さが際立つ1台となっています。
2024年のイヤホン市場で開放型イヤホンを本格的なトレンドに押し上げた立役者のひとつがこの製品だと感じています。ワイヤレスイヤホンの「次の一手」を象徴するモデルと言えるでしょう。
5. HUAWEI「FreeClip」
2024年2月に登場したHUAWEIの「FreeClip」(実勢価格:2万7800円前後)は、耳をふさがないイヤーカフ型デザインを採用したユニークな完全ワイヤレスイヤホンです。同年3月にBoseの「Ultra Open Earbuds」も発売され、開放型イヤホン市場が一気に活気づくこととなりましたが、厳密にはHUAWEIの発売の方が先だったんですよね。
耳に軽くかけるだけで快適に装着できるイヤーカフ型デザインが特徴で、Boseとほぼ同じコンセプトの製品と言えます。ただし、HUAWEIのデザインはよりスタイリッシュで、細部に至るまで洗練された仕上がり。HUAWEI独自のオーディオ技術により、クリアで十分な音量と豊かな音場を提供しつつ、音漏れ対策技術も搭載。通話マイク性能も非常に良いので、自宅やオフィスなど多様なシーンで活躍します。
当初はクラウドファンディングを通じて限定的に販売されていましたが、その完成度の高さが話題に。その後、一般販売され、耳を塞ぎたくないユーザーや、従来のイヤホンに不快感を覚える人々から支持を集めました。個人的には、HUAWEIとBoseが2024年2月、3月とほぼ同時期に登場したことで、2024年が開放型イヤホンのブームを迎えたと感じています。
■2024年は狭間の年? いやいや、革新の年でしたよ
冒頭で狭間の年と言いかけましたが、2024年の完全ワイヤレスイヤホン市場を振り返ると、個人的には結構面白い年だったと思います。BoseとHUAWEIが作り出した開放型イヤホンの流れはまさに今年を象徴するトレンドで、耳をふさがない自由さが新鮮でした。一方で、多機能を極めたJBLの「TOUR PRO 3」や、ハイエンド音質のBowers & Wilkins「Pi8」のような製品も登場し、メーカーそれぞれの強みを見せつけた年でもありました。
開放型だけでなく、多機能や高音質といった定番の進化も含め、いろいろな方向での挑戦があった印象です。2025年は、今年の成果をさらに超える製品が登場してくれることを期待しつつ、新しいイヤホンたちとの出合いを楽しみにしたいですね。
<取材・文/折原一也>
折原一也|1979年生まれ。PC系出版社の編集職を経て、オーディオ・ビジュアルライター/AV評論家として専門誌、Web、雑誌などで取材・執筆。国内、海外イベント取材によるトレンド解説はもちろん、実機取材による高画質・高音質の評価も行う。2009年によりオーディオビジュアルアワード「VGP」審査員/ライフスタイル分科会副座長。YouTube
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