手にしたとき、その魅力はより際立って感じられる。DNAといった言葉で表現されることが多いが、歴史あるブランドに特有の、時代を超えて流れている血がある。目を閉じて持ってみても、ライカX-Eがライカというブランドを背負うのに相応しいカメラなのだとすぐにわかった。
手に伝わる金属の質感と、丸みを帯びたボディ側面のラインは、他のカメラと間違いようがない。コンパクトカメラでありながら紛れもなくライカなのだ。電源を入れないで触っていても手に喜びが感じられる。それは所有する喜びであり、なおかつ写真を撮りに行きたいという欲望を刺激する喜びでもある。
国産のデジタルカメラは、便利な機能と鮮やかな画像を必死になって追求してきた。だが、それらはスマートフォンに内蔵されているカメラでも得られるものだ。
ではライカが求めてきたものは何か?
ひとつは先に書いたような所有して扱う喜びだろう。道具としてのカメラの楽しみであり、それを持っていることで日常が楽しくなるというカメラの効能でもある。
画質に関して言えば、写らないものをいかに写すかがテーマであるように思う。ライカが画質を評価するとき、グラフに表れるような数値ではなく、人が見て感覚でどれが美しく感じられるかを大事にしているのは有名なエピソードだ。
画像の印象を派手にするのは難しいことではない。鮮やかであるということが高品位であるというのは間違った考えである。そこに奥行きや質感など”感じていたこと”まで写せるのが、ほんとうに画質の良いカメラなのだ。線がキリッと立ち、派手さを控えた発色により、日常が映画の一場面のように見える。
この画像を実現した最大の要因はレンズだろう。画像エンジン(デジタルデータを処理するカメラ内部の機能)で補正できるデジタルであっても、レンズは重要なファクターだ。安くても色の鮮やかな服はあるが、素材に嘘はつけない。
レンズもそれと同じだ。このライカX-Eに搭載されているレンズは「エルマリート」の名前を冠している。「ズミクロン」「ズミルックス」などと並んで、ライカを代表する名レンズの名前だ。自信の表れだろう。
フルサイズ換算で35mmの画角は、もっとも汎用性が高いとされていて、これより画角が広いと料理や雑貨などが撮りづらいし、これより画角が狭いと室内での撮影は集合写真で不便になる。一泊二日の旅行にも、通勤にも使えるバッグのようなもので、使い勝手が抜群に良い。
ただし、汎用性が高いということは、ときに退屈と同義語となる。クセがないということは特長がないということでもあるのだ。買ってすぐに傑作が撮れないからといって、カメラのせいにするべきではない。
このカメラの良さを満喫したかったら、まずはいつも持ち歩くことを勧めたい。それもバッグにしまうのではなく、ストラップで肩か首にかけて、いつでも撮れる状態で持ち歩いてみて欲しい。心地よい重みと存在感、それが周囲の人に与える印象に慣れるためだ。
そして良い写真になるかどうか悩む前に、なるべく多くのものを写真に撮ってみること。先に触れたように、このカメラに内蔵されたレンズは、ぱっと見て驚きを感じるような強い写真が撮れるようなものではない。
それだけにわずかな違いに繊細だ。ほんの少し角度をつける、一歩だけ近寄ってみる、露出を半段ほど暗くしてみる、そういったことによって写真が変化する。その贅沢なプロセスを楽しみながら、対象といつもよりも深く関われたら、それこそが写真の醍醐味なのだ。カメラを通して見つめることで、ふだんは気づかなかったことに気づく。身の回りに溢れている美に敏感になれる。
いつでも持っていたくなる魅力、なんでも撮ってみたくなる魅力、それこそがこのライカX-Eの最大の魅力だろう。一家に一台どころか、ひとり一台カメラを持っている時代に、このカメラにしかない魅力と言っていい。
【ライカX-E】 価格:21万9000円
https://www.leica-camera.co.jp
(文・写真/内田ユキオ)
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