誤解を恐れずに言うならば、写真を撮らなくてもカメラを持っているだけで、見過ごしていたことに心が揺れ動かされるようになる。世界最高の写真家集団である「マグナム」に所属していて、やはりライカを愛用していたフランスの写真家マーク・リブーはこんな言葉を残している。
「写真を撮ることは、数百分の一秒ごとに、人生を深く味わうことだ」
写真という結果がすべてなのではなく、それを撮るのは人生を味わうためであり、カメラはその手助けをしてくれるわけだ。もちろんどんなカメラでもそれができるわけではない。
手にしたときに喜びが感じられ、いつでも一緒にいたいと思わせてくれるカメラでなくてはならない。そういった意味でこのライカX-Eは最高のパートナーだろう。
色よりも質感を表現するカメラ
ライカX-Eに搭載されている24mm(35mm判換算で35mm相当)は、もっとも人の視線に近いとされている。ズームが付いていないので、よく見たいと思ったら近づく必要がある。広く入れたいと思ったら下がらなくてはならない。そういったことが身体に刻まれ、写真という記録とともに残っていく。
線が鋭く、高い解像感を持っているため、たとえばガラスや鏡の反射などの描写で実力がはっきりと感じられる。色を鮮やかに出すよりも、リアルな質感を表現することはずっと難しく、高い性能が求められるのだ。
たとえば赤いセーターを写真に撮るとしよう。その赤がオレンジに近いのか、それともバーガンディーのような色なのかを区別するのは、実はそう簡単なことではない。しかしそれ以上に、素材がウールなのかカシミアなのかを判別するのは難しい。だが、もちろんこのカメラなら可能だ。
デジタルの便利さで、ホワイトバランスをオートにすればどんな光でもニュートラルな色で撮れるが、あえてデイライトの設定をおススメしたい。季節が変わったことを、カレンダーの日付ではなく光の色から感じられる。店によって照明が違い、街によって灯りの色が変わり、おなじ光は二度とないことに驚くはずだ。
スマホでは得られない、ライカの表現力
もうひとつ覚えておきたいのが露出補正。カメラはどんなものでもグレーの明るさに撮ろうとするため、明るいものを撮ると暗くなりすぎ、暗いものを撮ると明るくなりすぎる。ライカは落ち着きがあって品位のある画像を理想としているとされ、国内のメーカーに比べて暗めで重厚な写りになる傾向がある。
樹の影や雲のようなものは、露出をアンダー(暗め、マイナス補正)にして撮ったほうが強調されやすい。アンティークグッズや革製品も質感が美しくなる。逆にペットや人物はややオーバー(明るめ、プラス補正)にして撮ったほうが、可愛さや爽やかさが感じられる。
日本人は世界的に見ても露出オーバーを好むとされるが、ライカはドイツ製のカメラであり画質のチューニングは異なる。そこで露出アンダーの美しさをぜひ追求してみてもらいたい。そこで得られるシャドウのディテールの深みは、スマートフォンやコンデジでは体験できないものだ。
持ち歩きたくなるライカX-Eの存在感
ホワイトバランスと露出補正のふたつの機能が使いこなせるようになったら、あとは場所や場面にこだわらず、何か感じることがあったら写真に撮ってみるとよい。カメラ専用にバッグを用意しなくても、ふだん使いのバッグに入れておけるのも、このライカX-Eの特長だ。
もちろん着るものも選ばない。パーティに出るようなシックな服装ならアクセサリーとなって引き立ててくれ、ショーツにポロシャツのようなカジュアルな格好では、だらしなくならないように品位を加え、全体を引き締めてくれる。
そういった日々のなかで、テーブルに置いたカメラを眺めたとき、あるいはバッグから取り出すときの手触りを感じたとき、鏡やショーウィンドウに映る自分の姿を見たとき、ライカを持つ喜びがわかるはずだ。写真を撮ることで、人生を深く味わっている自分に気づくだろう。
【ライカX-E】 価格:21万9000円
https://www.leica-camera.co.jp
(文・写真/内田ユキオ)
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