「ウッドデッキって日曜大工で作れるの?」
編集部からの帰りがけ、唐突に話しかけてきたのは編集長。なにやら最近、神奈川県逗子市に築50年のレトロな一軒家を購入し、DIYに目覚めたようで…。
“ウッドデッキを日曜大工で作る!”
DIYを愛好する男なら一度は夢見る話だろう。ウッドデッキ特集は専門誌でも人気の企画で、多くの人が製作にチャレンジしている。その施工は簡単な作業ではないが、木工の初心者でもできないことはない。
しかるべき工具と、それを使う技術があればの話であるが…。
まあ話の相手は編集長だ。ご機嫌を損ねて、今後の仕事に支障が出ると困る。多分にリップサービスを込め、笑顔で言った。
「そうですねー、3日もあれば、それっぽいものはできると思いますよ」
そう、俺なら作れる。しかし編集長が作れるかどうかはわからない。所詮は人の家の話。計画が頓挫しようが知ったことではないのだ。
「3日? ほんとに!? よし決めた! ウッドデッキを作るぞ」
まったくもって呑気なもんだ。
「まあ頑張ってください。じゃまた」
そう言って編集部を出ようとする俺の肩をむんずとつかんでイスに引き戻す。
「何言ってんの! 俺だけで作れるわけないだろ」
「え、まさか」
「ふふふ、もちろん」
「編集長の家、たしか逗子でしょ? 俺、秩父っすよ」
「いいじゃん、泊まり込みでやれば」
「・・・」
こうして俺は、人生で5台目のウッドデッキを、編集長の家に作ることになったのだった。
- 1
- 2