■どれも同じではない剣先スコップ
ここで頼んでおいたスペシャルアイテムが登場する。
その名は「剣先スコップ」!
ツルハシと並び、土木工事を象徴する工具といえる剣先スコップ。ホームセンターに行けば、多様なメーカーと価格の商品が並んでいるが、全て同じような形で、すでに完成されたデザインなのがよくわかる。通常の平スコップでは跳ね返されてしまう固く締まった地盤に、その鋭く尖った切っ先はザクっと突き刺さり、周囲の土をほぐし、すくい上げることができるのだ。
機能はどれも同じなのだから安いもので良いだろうと思われがちだが、いやいや待たれよ。剣先スコップは、スコップであると同時に「剣」なのだ。「刃物」なのだ。安くて切れない刃物ほど、厄介で危ない道具はない。
では良い剣先スコップは、何を目印に探せば良いか? 土木工事、農業、造園業…地面と戦う男たちに聞いてみると良い。多くの人がこう答えるであろう。
「金色の象」を探せと。
「金象印のスコップ」は、明治から続く信頼の明かし。戦前から多くの現場で愛用されている、プロが認めた本物の道具なのだ。研ぎ澄まされた切っ先(きっさき)は、どんな硬い地面も突き破る。また作業目的ごとに、重量や大きさ、バランスを微妙に変えた多くのラインナップが存在し、プロの作業を効率よくサポートしている。
今回選んだのは、比較的柔らかい地面で使うことが想定された、金象印の「かるーい象ショベル丸形」(2300円)。先端のショベル部分と柄、ハンドルがオールスチール製の一体型になったタイプで、軽くて初心者にも使いやすい。
こいつで地面につけた白い印をザクザク掘っていけば、難関の基礎工事もあっという間に完成するはずなのだが…。
「おい、穴掘りってのは、こんなにしんどいものなのか」
1個目の穴を掘り終わっただけで、息が上がる編集長。そうなのだ、地面に穴を掘るというのは、とても大変な仕事なのだ。
「サスペンス映画で、夜中に森の中で穴掘って遺体を埋めるシーンがありますけど、1人じゃ絶対無理ですよね」
よく“切れる”剣先スコップを使っても、素人が固く締まった地面を掘るのは難しい。この工事での目標深度は30cm。頑張ってもらうしかない。
「あー、終わったー!!」
「編集長、頑張りましたねー。じゃあ今度は穴にこれを入れてください」
「なんだよ! せっかく掘ったのにまた埋めるのか!?」
どさっと出してきたのは、砕石(さいせき)の袋。砕石とは文字通り、石を工場で砕いたもので、袋の中には小指の先ほどの大きさの小石から、砂よりも細かいものまで、様々な大きさの粒がぎっしり詰まっている。この砕石を穴に入れることで、穴の深さと水平を調節すると同時に、束石をしっかり安定させることができるのだ。
「砕石を入れ終わったら、上に束石を置いてきますよ」
「しかし、なんだか傾いてるぞ」
「編集長、剣先スコップと一緒に頼んでおいた水準器をお願いします」
「おう、そう言うと思っていたぜ」
そう言って取り出した水準器は、見た目も鮮やかなブルーの、ずいぶんと格好いい奴だった。
「えらい、カッコイイのを買いましたね」
「男の道具はカッコよくないとダメでしょ。カッコイイ道具ってのは、買う時にテンションも上がるし、使ってて気分がいいから。素人には分不相応でも、プロが使うものはそそられるしね」
さすがは『&GP』編集長。悔しいが言うことに説得力がある。さて編集長が買ってきた水準器は、工業用計測機器大手、シンワ測定の「ブルーレベル PRO600」(3740円/税別)。強靭なアルミのボディが高い精度の測定を約束するプロ用の逸品だ。
「じゃあ、これを使って1個1個の水平を見ていきましょう」
「隣同士の高さが微妙に違うのはいいのか?」
なかなか鋭いところを突いてくる。そう、そこがウッドデッキ基礎工事で一番の難関で、初心者がつまづき挫折するポイントなのだが、ここでも俺は編集長のために必勝のアイデアを考えてきていた。
■きっちり測るのが一番だが、だいたい水平ならOK!
「そこは、そんなに気にしなくてもいいですよ」
「デコボコのデッキじゃ嫌だぞ、俺は」
「大丈夫ですって。隣同士の束石に木を乗せて水準器で、だいたい水平にしといてください」
「そんだけで、ホントに大丈夫なのか!? 」
そう大丈夫。安心しなさいって編集長。俺のアイデアに問題はないはずだって…。
>> 連載 [DIYでウッドデッキ自作顛末記]
(写真・文/阪口克)
旅と自然の中の暮らしをテーマに国内外を取材するフリーカメラマン。秩父郡長瀞町の自宅は6年かけて家族でセルフビルド。家を経験ゼロからDIYで建てる。家族でセルフビルドした日々を描いた『家をセルフでビルドしたい』が文藝春秋から発売中。ほか近著に『笑って!小屋作り』(山と渓谷社)、『世界中からいただきます』(偕成社)など。
[関連記事]
使わずとも欲しくなる!男前な漆黒の工具
ケースまでおしゃれなスマート工具、これは男心をくすぐります!
- 1
- 2