頼りになる巻尺と曲尺を使いこなしてこそ一人前【DIYでウッドデッキ自作顛末記④】

■巻尺と曲尺を使いこなすことが計測の第一歩

「ここからは長さを測ったり、印をつけたりも、自分でしてくださいね」

そう言って渡したのは、巻尺と曲尺(かねじゃく)。トイレの棚から豪壮な和風家屋まで、日曜大工もプロの棟梁もこの2つの道具を頼りに、材木に印を付けて切断し、組み立てていくのだ。

▲タジマの「セフG3ゴールドダブルマグ25」。1人でピッチ(長さ)出しができるよう、本体底部とテープ先端の爪にマグネットを装備した「ダブルマグ」で、爪を落下時の衝撃から守るフックガードバンパーが付属する。落下防止用ベルトホルダー付きで、片手で簡単に着脱できる

巻尺は定番中の定番、建築用ハンドツールで圧倒的なシェアを持つタジマの「セフG3ゴールドダブルマグ25」(5540円+税)。

過去、さまざまな現場で工事をしてきた私だが(カメラマンです!)、巻尺にまつわる失敗は数多い。初心者が初めて痛感するのが、スチール製テープの腰が弱い安物の使いにくさ。巻尺は柱と柱の間など空中で使う時も少なくない。そんな時、テープ部分の厚みが薄くて弱い商品は、途中で折れて向こう側に届かず、計測中のストレスが半端ないのだ。

また巻尺の壊れやすい部分は、先端の爪(引っ掛けるところ)と、巻き戻す仕掛け。安物はこの2つが非常に弱い。毎日使うものだけにラフな使い方をしていると、すぐに千切れるは、巻き戻らないはで、使い物にならなくなるのだ。

このあたりで少し高いものに手を出すのだが、巻尺はよく行方不明になる。小さくて丸いため、ポンとどこかに置いてすぐ、どこに行ったか見失う。おまけに高所作業中、手元にないことも非常に多い。これもポンとどこかに置いておくのが原因。せっかく登ったハシゴの上で、自分の馬鹿さ加減を何度罵ったことか。

▲木屑に埋もれて行方不明の巻尺

ようやくこのレベルに達し、初めて手に取るのがベルトホルダー付きの高級タイプ。価格は少し高価だが、初めてこれを使った時の便利さは衝撃的だった。

そんな数々の経験を重ねたどり着いたのが、タジマのセフG3ゴールドダブルマグというわけである。

「プロが初めから「定番のブランドの良い道具を使う」ってのは間違いない選択なんですね」

「そんな当たり前のことに今頃気づくとは、お前はまだまだだな。『&GP』を読んでしっかり勉強しろ」

はいはい、すみません編集長。

▲外側基点の内目盛が付いている、本体サイズ 520×15×1.4mmの曲尺。長枝の外目盛は50cmで、内目盛は45cm。短枝の外目盛は25cmで、内目盛は20cm

安物も多い巻尺に比べ、より専門的な道具となる曲尺は、そんなに酷いものは少ない。こちらも選んだのは、定番のシンワ測定「曲尺同厚 シルバー 50cm 表裏同目 名作 JIS」(2850円+税)。大きさもいろいろあるが、標準的な50cmタイプをセレクト。

「現場の大工さんは、みんなこのシリーズを使ってるんで、自分のがどれかわからなくなるそうですよ」

「定番の逸品とはいえ、それじゃ困るな」

▲曲尺の端には、目印となる干支が描かれている。この角を、自分のものと分かるように削る職人も多いとか。“同厚”というのは、内側と外側が同じ厚さのこと

「だから、端っこに干支の動物が入ってるんですよ」

「なに! そりゃ面白いな。どれどれ、俺のは蛇だな」

「私のはウサギですね」

ほかにも、曲尺の角を特徴的に削ったり、大工さんなりにいろいろと工夫をするらしい。

■面倒くさがらずに計測は1回ずつ

「束の長さ(高さ)は全部で3種類です。このメモに合わせて5本ずつお願いします」

今回のウッドデッキでは、家側、真ん中、庭側と三列の束が立つ。雨水の流れを考え、家側より庭側の方が低く整地されているので、束の長さも変わるのだ。

通常のウッドデッキ工事では束石を設置する段階でその天面の高さを揃えるので、束の長さは同じで良いのだが、今回は束そのものの長さを変えることで、高さを調整する。

「これがアイデアのその1です。土の上に置く束石の高さを揃えるより、材木を切る長さを変える方が楽でしょ」

「そりゃ確かにこっちの方が間違いないな。でも1列5本の長さが一緒だとまずいんじゃないの」

我々が設置した束石は、隣同士の高さもバラバラなので、本当にしっかり合わせるなら、15本すべての束の長さを微妙に変えていかねばならない。しかしそれは面倒だ。

「そこはアイデアその2がありますから、安心しててください」

「ほんとかよ」

全く信用がないのはどっちなのだろうか。

「ほい、ほい、ほい、っと印をつけて、次に曲尺っと」

▲一辺を引いたら、曲尺の内側を木材に引っ掛けて次の面の線を引く。しっかりと曲尺を直角に当てないと、線が曲がってしまうので注意が必要だ

 

「ダメですよ編集長。巻尺でいっぺんに印を付けちゃ。1回ずつ切ってから次を測ってください」

「なんだよ、それじゃ面倒くさいじゃん。ひとつの工程は、1回にまとめた方が効率がいいんだぞ」

「ダーメーなんです!」

確かに道具の持ち替えや、作業環境の変更をせずにすむよう、1つの工程をまとめて作業した方が効率は良い。しかし材木の切断に関してはそうは言えない。1本の材木に一度に印をつけ、端から切断していくと、丸ノコの刃の厚さ分だけ、どんどん短くなっていってしまうのだ。

「そんなのちょっとだけじゃん」

「デコボコのデッキは嫌なんでしょ! 面倒くさがらず頑張ってください」

曲尺でつけた印を一直線に切断する編集長。しかし当然、それだけでは無理なのである。

▲90cmの角材を切るには、丸ノコを表裏に刃を入れるが、しっかりとマーキングしないと、切り目に段差が付く

「おいこれ、丸ノコを一回入れただけだと、切れないぞ」

我々の愛用丸ノコ「C6MEY」の最大切り込み深さは66mm。これは今一般に販売されている丸ノコではかなり良い性能なのだが、それでも9cmの角材は一度に切れない。

「表で1回、裏で1回、の2回で切断してください」

「じゃあ裏にも印がいるのか」

「そう、そこで曲尺の本領が発揮されますよ」

達人の棟梁が使えば、それ1本で三角関数の計算までできると言われる曲尺だが、素人の我々では無理な話。そんな我々が曲尺を使う最大のポイントが、角材に印を一周させる作業。

「長手の部分を側面にしっかり当ててください」

「これ一周しなくても、表、横、裏の三面で十分なんじゃないのか」

なんでこう、手を抜こうとするのか。良い仕事は良い道具があるだけではできない。達人ほど手間をかけ、丁寧な仕事をするものである。

「編集長の方法だと、ずれることが多いんです。角材とはいえ木は自然のものですからね。微妙な反りや曲がりが影響します」

「じゃあ、どうすんだよ」

「表、横、もう一方の横、裏、この順番で書いてください」

やってみるとわかるが、裏の線を描く時、横面二つの印が合わない時がある。曲尺を使う腕の問題もあれば、材木自体の歪みも関わる。

「お、ほんとだ。今、合わなかったぞ」

「そんな時は、手で微調整しながら線を引いてくださいね。これでズレは最小限になります」

さて線が引けたら、丸ノコで切断。厚さが2x4材の倍以上もある3寸角材の切断は抵抗が大きく難しい。おまけにまだまだ丸ノコの刃の位置を微調整できない編集長では、表を切った時の切断面と、裏を切った時の切断面が合わず、ガタガタになってしまう。

「おいー、これじゃ俺のウッドデッキはガタガタのデコボコだぞー(涙)」

「大丈夫ですって。こうなるのも計算のうちです。アイデアその2を楽しみにしててください」

「本当かよーーー」

>>タジマ「セフG3ゴールドダブルマグ25」

>>シンワ測定「曲尺同厚 シルバー 50cm 表裏同目 名作 JIS」

>> 連載 [DIYでウッドデッキ自作顛末記]

(写真・文/阪口克
旅と自然の中の暮らしをテーマに国内外を取材するフリーカメラマン。秩父郡長瀞町の自宅は6年かけて家族でセルフビルド。家を経験ゼロからDIYで建てる。家族でセルフビルドした日々を描いた『家をセルフでビルドしたい』が文藝春秋から発売中。ほか近著に『笑って!小屋作り』(山と渓谷社)、『世界中からいただきます』(偕成社)など。


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