■精度と駆動時間を重視するなら断然クオーツ
そもそもクオーツとは「水晶」のことで、これには電圧をかけると正確で規則的な高い振動を発する特性がある。この水晶で作った「水晶振動子」から時間を正確に表示するための信号を取り出し、電子回路によって回転運動に変換することで時刻を表示する。これがクオーツ時計の基本的な仕組みだ。
そんなクオーツ時計が誕生したのは1927年、ベル研究所のワーレン・マリソンとJ.W.ホートンによって発明された。もっとも、当時のクオーツ時計はまだ大きく、利用できたのは限られた機関のみ。しかし、1967年に原子時計が国際単位系での1秒と定義されるまでは、クオーツ時計で標準時を定めるなど、早くからその高い精度は注目されていた。
ここ日本でも、1932年に古賀逸策氏(東京工業大学、東京大学名誉教授)によってクオーツ時計が製作されたが、本格的に実用化が進められたのは第二次大戦後のこと。これにいち早く取り組んだのがセイコーで、1958年にはラジオ・テレビ局用の報時装置として水晶発振式親時計を開発。だが、これもまた大型ロッカーに匹敵するサイズだったため、ここから小型化に向けて取り組むことになる。
この時期は、時計メーカー各社が「テンプ式」や「音叉式」「クオーツ」といった電気時計の開発に乗り出しており、セイコーもこの3方式の研究をスタート。だが、同社はなかでも最も精度の高いクオーツに狙いを定めていく。結果、セイコーは世界初の“ポータブル水晶時計”の開発に成功。1964年の東京オリンピックでは、この「クリスタルクロノメーター QC-951」が採用され、大会を成功に導くのだ。
もちろん実用化に向けた研究はここで終わらない。1966年には懐中時計、続く1967年には腕時計のプロトタイプを完成させ、1969年12月、ついに世界初のクオーツ腕時計「クオーツアストロン 35SQ」を発売する。それは、機械式時計の精度をはるかに凌ぐ、日差±0.2秒、月差±5秒を実現し、しかも耐衝撃性や省電力化をも実現したものだった。
もっとも、発売当初の価格は45万円。当時の人気車種だったトヨタの「カローラ」よりも高額だったが、1970年代の半ば頃になると普及価格を実現。以後、クオーツ腕時計は一気に広がっていく。
このように、クオーツは腕時計を身近なアイテムにした立役者だが、今や百均ショップでも手に入れられることからも分かるように、広く普及したことでその地位は低下した。何より、安価なものは大量生産なので分解修理ができないし、ムーブメントのパーツにプラスチックが使われていることも多く、長期の使用には耐えない。資産価値がないうえに、機械式時計のようなメカニズムの面白さも少ないため、時計愛好家たちの琴線を刺激しないのだ。
■クオーツの価値を再規定した「高級クオーツ」
とはいえ、クオーツ時計にもメリットはある。それが「精度の高さ」だ。安価なものでも月差は±30秒から±15秒程度と、その精度は機械式時計のそれをはるかに凌ぐ。このメリットを活かしつつ、クオーツに高級時計としての価値を付与したのがグランドセイコーだ。1993年誕生の「キャリバー9F」は年差±10秒を実現したうえに、数々の機構を搭載。時計本体にもグランドセイコーらしいクリエイションを徹底させた。
このキャリバー9Fは2018年に誕生から25年を迎え、その機能をさらに進化させた。それが9Fクオーツに初めてGMT機能を付与した「キャリバー9F86」で、これを搭載した「SBGN003」(33万円+税)は、グランドセイコーらしい上品さにスポーティな要素を加え、若年層にもアピールするルックスとした。
今やグランドセイコーのクオーツモデルは多彩なラインナップを展開。1967年に確立された「セイコースタイル」をアップデートさせたデザインの「SBGV239」(写真上)や、ケース厚を13mmにまで追い込んだスリム・ダイバーズモデル「SBGX335」(写真下)など、いずれも機械式時計に並ぶエレガンスを携えており、比較購入ができるほどのクオリティになった。
時間を知るだけなら安価なクオーツ腕時計でも充分だ。だが、腕時計に高級機械式時計のようなエレガンスを求めたとしても、今のクオーツ腕時計はそれに応えるだけのクオリティを持っている。何より、高い精度と3年以上もの電池寿命という絶対的なアドバンテージは魅力的だ。
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(取材・ 文/竹石祐三)
<プロフィール>
竹石祐三(たけいし・ゆうぞう)
モノ情報誌の編集スタッフを経て、2017年よりフリーランスの時計ライターに。現在は時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に、編集・執筆している。
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