高精度、実用性、すべてを追求し続ける“スプリングドライブ”の進化【時計百識】

■機械式とクォーツのハイブリッド

スプリングドライブは1998年のバーゼルフェア(当時)でセイコーが発表した駆動機構。以前、この連載では機械式時計とクォーツ時計の仕組みについてそれぞれ説明したが、それを踏まえて簡単に言ってしまうと、スプリングドライブとは機械式時計と同じようにゼンマイで動力を確保し、クォーツ時計に用いられている水晶振動子で精度をコントロールするもの。

……なのだが、これだけだと何がいいのかイマイチ分かりにくいので、もう少し細かく説明していこう。

スプリングドライブの構想が生まれたのは1977年。さかのぼること8年前の1969年にクォーツ時計が製品化され、これを機に時計の精度は大きく向上したわけだが、当然「それで満足」ということにはならず、今度は「電池寿命の克服」という課題が持ち上がる。そこで生まれたのが「機械式時計を水晶振動子で調速し、精度を高める」という発想。

しかし、当時のIC(集積回路)は消費電力が大く、ゼンマイの発電量では長時間の駆動は極めて困難だった。ICの低消費電力化・発電効率の向上という難題をクリアして製品化に至ったのは、構想から20年以上が経った1999年のことだ

■スプリングドライブによって広がるデザイン性

発表当時、スプリングドライブは“第3のムーブメント”と呼ばれていた。それほど画期的な機構だったわけだが、その仕組みは次のようなものだ。

機械式ムーブメントと同様、スプリングドライブもゼンマイが解ける力で針を動かすのだが、同時にローターを回して、その回転運動を電気エネルギーに変換。そして、この電気エネルギーでICと水晶振動子を作動させて歯車の回転速度をコントロールし、針が正確に動くようにするという仕組み。

つまり、クォーツ時計レベルの平均月差±10〜15秒という高い精度を実現しながらも電池は不要で、ゼンマイの動力が残っている限り動き続けるという、機械式時計とクォーツ時計のいいとこ取りをした機構というわけだ。

また、クォーツは精度が高く、長時間駆動する利点はあるが、一方では機械式時計と比べてトルクが弱く、長くて太い針を載せられない弱点もある。しかし、スプリングドライブはゼンマイを動力に用いているため、トルクは機械式時計と同じレベル。つまりクォーツ時計では不可能だった長くて太い針を載せることが可能になり、デザインの幅も広げられるようになった。

▲テンプに代わるスプリングドライブ独自の調速機構が「トライシンクロレギュレーター」。輪列機構からくるエネルギーが磁石を備えたローターを回転させることで発電。そのエネルギーでICと水晶振動子が作動し、歯車の回転速度をコントロールする仕組み

もっとも、いい面ばかりではない。スプリングドライブは仕組みが複雑なので、当然、部品点数も多くなる。標準的な機械式時計の部品点数が100程度と言われているのに対し、スプリングドライブは3針モデルで200点以上、クロノグラフでは400点を超えるという。

しかも、それらの部品を最終的に加工、調整し、高精度なスプリングドライブを完成させるのは職人の技術力。つまり、大量生産が困難なため、価格はどうしても高くなってしまう。

▲スプリングドライブのパーツ点数は標準的な機械式時計の倍以上。パーツは0.01mm以下の単位で加工、調整する必要があるのだが、それを行うのは熟練した職人だという

▲1967年に発売され、好評を得た「44GS」のデザインを現代的にアップデートした「SBGA373」(54万円/税別)。ヘリテージコレクションらしい端正な表情のデイト付き3針モデルで、滑らかに進むブルースチールの秒針とダイアルとのコントラストが美しい。搭載するムーブメントは9R65でパワーリザーブは約72時間を保持

▲「SBGE248」(130万円/税別)の18Kイエローゴールドを採用したベゼルはグランドセイコー初の試み。このベゼルやインデックス、針に用いたゴールドとブルーダイアルとの組み合わせが、スポーツコレクションにふさわしいラグジュアリー&スポーティな雰囲気を放つ。ムーブメントにはGMT機能を付与した9R66を搭載

【次ページ】進化を続けるスプリングドライブ

この記事のタイトルとURLをコピーする