■主に北米、欧州、日本を移動するなら電波時計は十分な性能
GPSウォッチの説明をする前に、まず電波時計とは何かを理解しておく必要があるだろう。電波時計とは送信所から発信される標準電波を受信して誤差を修正し、常に正確な時刻を表示する時計のこと。なぜ、常に正確な時刻を表示できるかというと、送信される時刻情報が、誤差10万年に1秒という「セシウム原子時計」を基準としているからだ。
この標準電波送信所は現在、日本に2カ所(福島県の大鷹鳥谷山と佐賀県の羽金山)、海外ではアメリカ、中国、ドイツ、イギリスに設置されており、対応する時計を着用していれば、それぞれの国に行ったときに標準電波をキャッチし、その国の標準時刻に修正してくれる。
このシステムを採用した世界初の腕時計が1990年に発売されたユンハンスの「MEGA 1」。デザインを手がけたのは有名なフロッグデザイン。この時代における電波時計のポジションを示すかのような、フューチャリスティックなルックスが目を惹くモデルだ。「MEGA 1」はドイツでの単局受信しか行えなかったが、2年後の1993年にはシチズンが世界初の多局受信型電波時計をリリース。やがて、日本の3ブランドを中心に、各地の受信範囲をカバーする電波時計が誕生していく。
ユンハンスの電波時計はその後も進化を遂げ、2020年にはブランドを代表するマックス・ビル コレクションから「マックス・ビル メガ ソーラー」(レザーストラップモデル:14万5000円/税別、チタンブレスレットモデル:15万8000円/税別)を発表。同コレクションらしいミニマルな意匠はそのままに、欧州、英国、米国、日本での電波受信に対応した多周波電波式ソーラームーブメントを搭載。
1993年にリリースされたシチズンの多局受信型電波時計。針位置を記憶するメモリーを搭載していたため、電池交換後も電波を受信すれば即座に現在時刻がセットされたという。アンテナをダイアルに配した大胆なデザインは、今なお傑作のひとつとされている
■世界のどこでも正確な時刻をキャッチする究極のワールドタイム
とはいえ、電波時計は標準電波を受信できる範囲が限られているのも事実。一般的には送信所の半径約1000kmとされており、前述したように、日本、アメリカ、中国、イギリス、ドイツの周辺地域であればいいが、そこから遠く離れると受信は不可能になる。
そんなデメリットを解消したのがGPSウォッチ。上空約2万mで地球を周回するGPS衛星から正確な現在位置と時刻情報を受信するシステムを搭載した腕時計だ。電波時計が必要とする送信所が決まった場所に設置されているのに対し、GPS衛星は上空に約30基が存在しており、地上に遮るものさえなければ必ず複数個から情報が取得できる。つまり、受信範囲の制限を無くしたことがGPSウォッチのメリットというわけだ。
このGPSウォッチが受信する時刻情報は、電波時計と同様、原子時計に基づいているため超高精度。しかも、GPS衛星からは位置情報も取得できるため、仮に自分がいる場所のタイムゾーンが分からなくても、腕時計が現在位置とそのタイムゾーンをキャッチして正確な時刻に修正してくれる。
GPSウォッチは1999年、カシオが「プロトレック」で製品化を果たすが、まだまだアンテナが大きく、実用にはほど遠かった。その後2011年のバーゼルワールドで、シチズンが人工衛星から時刻情報を受信する衛星電波時計「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」を発表して話題となり、翌2012年にはセイコーが世界初のGPSソーラーウォッチ「セイコー アストロン」をリリース。
現在はセイコーとシチズンをはじめ、カシオやスント、ガーミンなどのブランドがGPSウォッチを展開。搭載する機能やデザインには各ブランドのカラーが色濃く出ており、着用するシーンやユーザーの好みによって選べる時代へと突入している。
誕生以来、バリエーションを拡充してきた「セイコー アストロン」。その2020年モデルとなる「ブローバルライン スポーツ SBXC063」は、「クオーツ アストロン」のデザインコードを現代的にアップデートし、さらにシリーズ初となるオールチタンケースを採用したことで軽快なルックスと着用感を両立させた。
2011年発表の「サテライト ウエーブ」を嚆矢として、その後「アテッサ」や「プロマスター」で積極的にGPSウォッチを展開してきたシチズン。2020年はプロマスターから世界初となる光発電GPS衛星電波ダイバーズモデル「CC5006-06L」を発表。ISO規格対応の200m潜水用防水に加え、有名な8つのダイビングスポット名をダイアルの見返しリングに記している。
GPS衛星電波と標準電波(マルチバンド6)に加え、Bluetooth対応によってスマートフォンとの連携も実現した「G-
>> [連載]時計百識
<文/竹石祐三>
竹石祐三|モノ情報誌の編集スタッフを経て、2017年よりフリーランスの時計ライターに。現在は時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に、編集・執筆している。
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