■世界の規格に影響を与えたセイコーダイバーズ
1953年に誕生した「フィフティ ファゾムス」は、今日のダイバーズウォッチの礎となる特徴を備えていた。防水性は50ファゾム(=91.45m)。ブラックダイアルに大きなインデックスをレイアウトするのみならず、回転ベゼルにもくっきりとした目盛りを配して水中での視認性を確保。また、回転ベゼルにはロック機構を備え、誤作動からダイバーの生命を守る構造になっていた。
以後、いくつものメーカーがダイバーズウォッチの開発に着手。基本的な特徴は「フィフティ ファゾムス」を踏襲したものだが、やがてひとつのメーカーの技術を手本としてダイバーズウォッチの規格が確立する。現在のダイバーズウォッチに不可欠となった数々の技術を打ち出したのが、セイコーだ。
セイコーが国産初のダイバーズウォッチを発表したのは1965年のこと。これは自動巻きムーブメントを搭載し、150mの防水性を実現したモデル。1966年から4回にわたって南極観測越冬隊員の装備品として採用され、初のダイバーズモデルでありながら高い信頼を獲得した。
続く1968年には300m防水を実現した「6159-010」を発表。日本山岳会の植村直己と松浦輝夫が1970年のエベレスト登頂時に携行したモデルで、セイコーダイバーズ史にその名を残す傑作として知られている。そして1975年、セイコーは“600mダイバー”と呼ばれた「ダイバー・プロフェッショナル」をリリース。
これは世界で初めてダイバーズウォッチのケースにチタニウムを採用するのみならず、日本で初めて飽和潜水に対応したモデル。この600mダイバーこそが、世界的なダイバーズウォッチ規格に大きな影響を与えたのだ。
■防水性能だけにとどまらない、ダイバーズウォッチの厳密な規定
ダイバーズウォッチをはじめとする防水時計は現在、ISO(国際標準化機構)とJIS(日本産業規格)においてその種類が明確に分けられている。日常生活での汗や洗顔時の水滴などに耐えられる2〜3気圧防水のものは「日常生活用防水」、水仕事をはじめ水泳や素潜りに耐えられる5〜20気圧防水仕様は「日常生活用強化防水」と定められており、これ以上の防水性を備えた時計がダイバーズウォッチに位置付けられる。
ダイバーズウォッチも、100〜200mの防水性を持ち、圧縮空気を呼吸気体とするスキューバダイビングで使用できる「空気潜水時計」と、200m以上の防水性を備え、ヘリウムと酸素の混合ガスを呼吸気体とする「飽和潜水時計」の2種類に分けられるのだが、さらにISOとJISではダイバーズウォッチの規定を11項目で定めている。
「タイムプリセレクティング装置(誤操作を防ぐ、逆回転防止機能付き回転ベゼルなど)を備えていること」「暗所で25cmの距離から時刻などが読み取れること」「3%の食塩水のなかに24時間放置しても作動すること」をはじめ、耐磁性や耐衝撃性、耐久性なども求められ、さらに飽和潜水時計においては耐ヘリウムガス性も規定されており、この規定の基となったのが、セイコーが生み出した世界初の技術。
操作性、安全性、耐久性に優れた回転ベゼルや視認性に優れたダイアルおよび針のデザイン、耐磁性を有するムーブメント、蛇腹式のポリウレタンベルトといった数々の独自技術こそが、潜水士たちの安全性向上に大きく寄与したことになる。
2020年、セイコーダイバーズは誕生から55年の節目を迎えた。これを記念してセイコーダイバーズ史においてターニングポイントとなった3モデルをアップデートした限定コレクションをリリースした。それ単体でも十分に琴線を刺激するタイムピースだが、今日のダイバーズウォッチを確立させた立役者であることを知ると、より一層魅力的に感じられるはずだ。
■現代に受け継がれる3つのセイコーダイバーズ
プロスペックス
「SBEX009」
(65万円/税別)
プロスペックス
「SBEX011」
(70万円/税別)
プロスペックス
「SBDX035」
(45万円/税別)
>> [連載]時計百識
<取材・文/竹石祐三>
竹石祐三|モノ情報誌の編集スタッフを経て、2017年よりフリーランスの時計ライターに。現在は時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に、編集・執筆している。
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