ムーンウォッチのモデルチェンジで改めて注目される “マスター クロノメーター”とは?【時計百識】

■厳格な検査をクリアした時計に付与される“マスター クロノメーター”

マスター クロノメーターとは、コーアクシャル・ムーブメントの性能を評価するため、スイス連邦計量・認定局(METAS)とオメガの共同開発によって2015年に制定されたテストのこと。このコーアクシャル・ムーブメントだが、イギリスの独立時計師ジョージ・ダニエルズ博士の発明による、コーアクシャル脱進機を採用したムーブメント。

1999年にオメガが開発に成功したもので、一般的な脱進機と比べるとパーツの磨耗が少なく壊れにくいことから、一躍話題となった。その後、オメガはこのムーブメントを進化させ、優れた耐磁性を持つマスター コーアクシャル・ムーブメントを発表。しかし当時は、その性能を正確に伝える手段がなかったため、これを客観的に評価するために制定されたのがマスター クロノメーターというわけだ。

このマスター クロノメーターでは、実に厳格な検定基準が設けられている。まず大前提として、スイス公式クロノメーター検定協会(C.O.S.C.)の厳しいテストをクリアしたムーブメントの搭載モデルに対して実施され、さらに、

①1万5000ガウスの磁場に置いた際のムーブメントの機能
②1万5000ガウスの磁場にさらされているときの時計の機能
③帯磁状態と消磁状態での精度誤差
④時計の平均日差
⑤パワーリザーブ
⑥6姿勢における精度誤差
⑦パワーリザーブ残量33%と100%の際の時計の精度誤差
⑧防水性能

という8項目の検定に合格した時計にのみ、“マスター クロノメーター”の称号が与えられる。つまり、日常生活はもちろんのこと、1万5000ガウスという強力な磁場でも高い精度と機能を維持し、かつ防水性能も備えていると認定された時計なのだ。

▲まず、C.O.S.C.の検定にパスしたムーブメントを1万5000ガウスの磁場にさらし、2姿勢それぞれでの振動音をキャッチして性能を確認

▲最初の検査をクリアした後、ムーブメントをケースに収めた状態で再び1万5000ガウスの磁場にさらして時計の性能を確認する、徹底した検査が行われる

▲完成した時計は専用の防水試験機に約2時間沈められ、時計によっては水圧を最大150気圧まで上げる耐水圧テストを実施

▲検査に合格した時計には固有番号が明記された品質保証カードが付き、所定のWeb画面にこの番号を入力すると、8項目の検査結果が確認できるようになっている

2014年にマスター クロノメーター制度が発表され、翌2015年にはこれに準拠した最初のモデル「コンステレーション グローブマスター」をリリース。

これを契機として以後、オメガは“マスター クロノメーター”に準拠したモデルを次々と発表し、いよいよブランドを代表するスピードマスター ムーンウォッチのレギュラーモデルをもアップデート。

月に行ったことで高い評価を獲得したマスターピースは、“マスター クロノメーター”を取得したことで、さらなる信頼性を持った時計へと進化を遂げたのである。

▲今や多くのモデルがマスター クロノメーター認定を受けており、2020年に発表された41mmケースの「コンステレーション マスター クロノメーター」もそのひとつ。ベゼルにはポリッシュ仕上げのセラミックを採用し、さらにアイコニックな“爪”の意匠をケースに合わせた滑らかな形状にすることでモダンな雰囲気に仕上げている。70万円(税別)

▲2020年、コレクション初となるグリーンダイアルをラインナップに加えた「シーマスター アクアテラ マスター クロノメーター」。ダイアルにはクルーザーのウッドデッキに着想を得たお馴染みのチークパターンも採用し、スポーティーかつ上品なたたずまいに。61万円(税別)

 

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<取材・文/竹石祐三>

竹石祐三|モノ情報誌の編集スタッフを経て、2017年よりフリーランスの時計ライターに。現在は時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に、編集・執筆している。

 

 

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